目と健康シリーズ Eye & Health
2015年06月02日
No.29. アレルギーによる目の病気
編集
東京女子医科大学眼科講師
篠崎 和美 先生
東京女子医科大学眼科臨床教授
高村 悦子 先生
目に症状が現れるアレルギーも少なくありません。眼球は物を見るために外界にさらさせる必要があり、つねにアレルギーの原因物質「アレルゲン」にさらされているからです。
ここで、アレルゲンが体に侵入してからアレルギー症状が現れる過程をみてみましょう。
ところがこの仕組みは、ときにエラーを起こします。体内に侵入する抗原〈こうげん〉※1に体が過敏に反応すると、私たちに不都合な効果をもたらすことになります。見当違いの免疫反応、つまり"変化した反応能力"がアレルギーです。
一度できた抗体は、長年なくなりません(すぐになくなってしまったのでは、異物を排除するという本来の免疫の役割を果たせないからです)。アレルギーによる病気が長年続きやすいのはそのためです。
◆ 季節性アレルギー性結膜炎
毎年同じ季節になるとアレルギーによって結膜〈けつまく〉炎が起きる病気のことで、花粉症がその代表です。結膜(まぶたの裏側や白目)は、眼球と外部を隔てているバリアのような膜なので、それだけに花粉をはじめいろいろな異物が溜まりやすいのです。
症状は何と言ってもかゆみが一番で、それに充血もよく現れます。目以外に、鼻水、鼻づまり、くしゃみなどもよく起こります。
花粉症の原因としては、春に飛散するスギ花粉がよく知られていますが、ほかにも春から初夏にかけてはヒノキ、夏場はイネ科の植物(カモガヤなど)、秋にはブタクサやヨモギなど、さまざまな植物の花粉がアレルゲンになります。
◆ 通年性アレルギー性結膜炎
ダニやハウスダスト※2などがアレルゲンとなる結膜炎です。これらは花粉と違って季節に左右されないので、症状が一年中現れるため「通年性」と呼ばれます。
◆ 春季カタル
結膜に炎症が起きて、かゆみのほか、白っぽい糸を引くような粘り気の強い目やにが出たり、まぶたの裏側の結膜に隆起(石垣状乳頭〈いしがきじょうにゅうとう〉と呼ばれます)ができてゴロゴロしたり、涙があふれたりします。病名にある「カタル」とは、粘膜に炎症が起きて多量の粘液を分泌する状態です。このような症状が、特に春先などの季節の変わりめに悪化します。点眼薬で病気をコントロールしますが、結膜の乳頭がなかなか消えないときには手術も検討します。
結膜だけでなく角膜〈かくまく〉(黒目の部分)にびらん※3や潰瘍〈かいよう〉※4、プラーク※5ができることもあります。目を開けられないほど痛んだり、視力が低下して戻らなくなることがあるので、しっかり治療を続けることがとても大切です。
春季カタルは小学生ぐらいの男の子がかかりやすい病気で、アトピー性皮膚炎を併発しているケースが少なくありません。症状は悪化と軽快を繰り返しますが、ふつうは思春期になるころまでに治まります。
◆ コンタクトレンズアレルギー
コンタクトレンズに付着したゴミやタンパク質などの汚れ、消毒液に対するアレルギーです。まぶたの裏側に乳頭ができて、レンズがずれたり外れたり曇りやすくなります。早く治すには、まずコンタクトレンズを外すことが大切です。治るまではメガネや1日使い捨てタイプのレンズに変更します。
◆ 点眼薬アレルギー
治療のための点眼薬(目薬)が原因で角膜や結膜、あるいはまぶたの皮膚に炎症が起きることもあります。薬の成分そのものや、薬の中に含まれている防腐剤がアレルゲンとなります。薬を変更したり、点眼を中止します。
◆ 接触皮膚炎
皮膚に触れるものに対するアレルギーのことです。化粧品や点眼薬などによる、まぶたの'かぶれ'です。原因を見つけてそれを使用しないことが、治療の第一です。
◆ そのほかには
細菌などに対するアレルギー反応が結膜や角膜に現れる「フリクテン」という病気があります。その場合のアレルゲンとして多いものは、ブドウ球菌です。
そのほか非常にまれな病気ですが、内服薬(飲み薬)や注射薬に対するアレルギー反応と考えられる「スティーブンスジョンソン症候群」では、全身症状とともに結膜や角膜も障害されて視力を失うことがあります。
化学伝達物質遊離抑制薬と、ヒスタミンH1受容体拮抗〈きっこう〉薬の点眼薬があります。
化学伝達物質遊離抑制薬は、マスト細胞※6にある化学伝達物質が細胞外に出るのを抑制します。アレルギー反応の元を抑えて症状を抑えます。点眼を続けると、より効いてきます。眼科医の指示どおり毎日きちんと点眼しましょう。
化学伝達物質の中のヒスタミンは、神経や血管にあるヒスタミン受容体に結合することでかゆみを起こします。ヒスタミンH1受容体拮抗薬はこれを阻害する薬で、かゆいときに効果があります。
花粉症では花粉の飛び始める少し前からこれら抗アレルギー薬の点眼を始めると、花粉がたくさん飛ぶ時期の症状を軽くすることができます。
◆ ステロイド薬
さらに症状がひどいときには、ステロイドの点眼薬が処方されます。ステロイドには炎症を鎮〈しず〉める強い作用があります。しかし、副作用で眼圧〈がんあつ〉が上がる場合もあります。また感染症にかかりやすくもなります。コンタクトレンズ装用は控えてください。必ず眼科医の指示を守って使用し、使用中は眼科での眼圧チェックなどを欠かさないようにしてください。
◆ 免疫抑制薬
春季カタルの治療薬として最近、使われるようになりました。症状の悪化を防ぎ、具合が良い時期が続くようになります。
◆ そのほかには
人工涙液をこまめに点眼して、結膜や角膜に付着したアレルゲンを洗い流してしまうことも効果的な治療法です。結膜や角膜に傷ができてしまっているときなどは、抗生物質を点眼して感染症を防ぎます。
シリーズ監修:堀 貞夫 先生(東京女子医科大学名誉教授、済安堂井上眼科病院顧問、西新井病院眼科外来部長)
企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2012年2月改訂
篠崎 和美 先生
東京女子医科大学眼科臨床教授
高村 悦子 先生
も く じ |
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アレルギーはギリシャ語で「変化した反応能力」っていう意味なんだって。
どんな能力がどんなふうに変化するのかな?
アレルギーって何?
目にはアレルギーが起きやすい
今、日本ではアレルギーの人が増えています。すでに国民の3割が、なにかしらアレルギー性の病気をもっていると言われています。目に症状が現れるアレルギーも少なくありません。眼球は物を見るために外界にさらさせる必要があり、つねにアレルギーの原因物質「アレルゲン」にさらされているからです。
ここで、アレルゲンが体に侵入してからアレルギー症状が現れる過程をみてみましょう。
アレルギーは"免疫反応のいたずら"
人間には、細菌やウイルスなどから体を守る「免疫〈めんえき〉」が備わっています。免疫とは、細菌やウイルスなどが入り込むと、それを体に有害な異物だと認識して「抗体〈こうたい〉」を作り、次に同じ異物を感知したときには、抗体が直ちにそれを攻撃・排除する仕組みのことです。インフルエンザなどの予防接種は、これを利用して感染を防ぐ方法です。ところがこの仕組みは、ときにエラーを起こします。体内に侵入する抗原〈こうげん〉※1に体が過敏に反応すると、私たちに不都合な効果をもたらすことになります。見当違いの免疫反応、つまり"変化した反応能力"がアレルギーです。
一度できた抗体は、長年なくなりません(すぐになくなってしまったのでは、異物を排除するという本来の免疫の役割を果たせないからです)。アレルギーによる病気が長年続きやすいのはそのためです。
アレルギーによる主な目の病気
毎年同じ季節になるとアレルギーによって結膜〈けつまく〉炎が起きる病気のことで、花粉症がその代表です。結膜(まぶたの裏側や白目)は、眼球と外部を隔てているバリアのような膜なので、それだけに花粉をはじめいろいろな異物が溜まりやすいのです。
症状は何と言ってもかゆみが一番で、それに充血もよく現れます。目以外に、鼻水、鼻づまり、くしゃみなどもよく起こります。
花粉症の原因としては、春に飛散するスギ花粉がよく知られていますが、ほかにも春から初夏にかけてはヒノキ、夏場はイネ科の植物(カモガヤなど)、秋にはブタクサやヨモギなど、さまざまな植物の花粉がアレルゲンになります。
◆ 通年性アレルギー性結膜炎
ダニやハウスダスト※2などがアレルゲンとなる結膜炎です。これらは花粉と違って季節に左右されないので、症状が一年中現れるため「通年性」と呼ばれます。
石垣状乳頭 |
結膜に炎症が起きて、かゆみのほか、白っぽい糸を引くような粘り気の強い目やにが出たり、まぶたの裏側の結膜に隆起(石垣状乳頭〈いしがきじょうにゅうとう〉と呼ばれます)ができてゴロゴロしたり、涙があふれたりします。病名にある「カタル」とは、粘膜に炎症が起きて多量の粘液を分泌する状態です。このような症状が、特に春先などの季節の変わりめに悪化します。点眼薬で病気をコントロールしますが、結膜の乳頭がなかなか消えないときには手術も検討します。
角膜潰瘍 | 角膜プラーク | ||
結膜だけでなく角膜〈かくまく〉(黒目の部分)にびらん※3や潰瘍〈かいよう〉※4、プラーク※5ができることもあります。目を開けられないほど痛んだり、視力が低下して戻らなくなることがあるので、しっかり治療を続けることがとても大切です。
春季カタルは小学生ぐらいの男の子がかかりやすい病気で、アトピー性皮膚炎を併発しているケースが少なくありません。症状は悪化と軽快を繰り返しますが、ふつうは思春期になるころまでに治まります。
- ※3 びらん:粘膜や皮膚の表面(上皮)が欠損した状態。
※4 潰瘍:上皮より深い所まで障害された状態。びらんが深くなると潰瘍になります。
※5 プラーク:潰瘍の所に堆積物が溜まってかさぶたのようになった状態。
◆ コンタクトレンズアレルギー
◆ 点眼薬アレルギー
◆ 接触皮膚炎
◆ そのほかには
■ 自分の体の組織に対するアレルギー ■
本文中で取り上げた病気はすべて、体外から体に入り込む物をアレルゲンとするアレルギーですが、まれに自分の体内の正常な組織に対してアレルギー反応が起きてしまうことがあります。自己免疫疾患といって、例えば関節リウマチがこれに該当します。眼症状を来すものとして、原田病(ぶどう膜炎)やシェーグレン症候群(重症のドライアイ)などがあります。
アレルゲン回避と薬で症状をコントロール
できるだけアレルゲンを避ける
アレルギーの病気の治療は、病気のおおもとである抗原(アレルゲン)を、できるだけ寄せ付けないことが基本です。花粉症の患者さんであれば、なるべく花粉にさらされないようにすることです。あとの囲み記事を参考にしてください。眼科で処方される薬について
◆ 抗アレルギー点眼薬化学伝達物質遊離抑制薬と、ヒスタミンH1受容体拮抗〈きっこう〉薬の点眼薬があります。
化学伝達物質遊離抑制薬は、マスト細胞※6にある化学伝達物質が細胞外に出るのを抑制します。アレルギー反応の元を抑えて症状を抑えます。点眼を続けると、より効いてきます。眼科医の指示どおり毎日きちんと点眼しましょう。
化学伝達物質の中のヒスタミンは、神経や血管にあるヒスタミン受容体に結合することでかゆみを起こします。ヒスタミンH1受容体拮抗薬はこれを阻害する薬で、かゆいときに効果があります。
花粉症では花粉の飛び始める少し前からこれら抗アレルギー薬の点眼を始めると、花粉がたくさん飛ぶ時期の症状を軽くすることができます。
アレルギーの原因を見つけるためには、血液検査で抗体の種類を調べたり、アレルゲンとして疑われるものを皮膚の中に少量入れてアレルギー反応が起こるかどうかを確認する方法があります。このような検査でアレルゲンがはっきりわかると、それを回避する手立てを立てられるので、より効果的な治療を行えます。 |
さらに症状がひどいときには、ステロイドの点眼薬が処方されます。ステロイドには炎症を鎮〈しず〉める強い作用があります。しかし、副作用で眼圧〈がんあつ〉が上がる場合もあります。また感染症にかかりやすくもなります。コンタクトレンズ装用は控えてください。必ず眼科医の指示を守って使用し、使用中は眼科での眼圧チェックなどを欠かさないようにしてください。
◆ 免疫抑制薬
春季カタルの治療薬として最近、使われるようになりました。症状の悪化を防ぎ、具合が良い時期が続くようになります。
◆ そのほかには
人工涙液をこまめに点眼して、結膜や角膜に付着したアレルゲンを洗い流してしまうことも効果的な治療法です。結膜や角膜に傷ができてしまっているときなどは、抗生物質を点眼して感染症を防ぎます。
企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2012年2月改訂
もくじ
特集
- No.1. 目で見る眼の仕組みと病気
- No.2. 糖尿病網膜症
- No.3. 糖尿病黄斑症
- No.4. 高血圧網膜症
- No.5. 網膜静脈閉塞症
- No.6. 網膜動脈閉塞症
- No,7. 加齢黄斑変性
- No.8. 中心性漿液性脈絡網膜症
- No.9. 網膜色素変性症
- No.10. 緑内障
- No.11. 白内障
- No.12. 網膜裂孔・網膜剥離
- No.13. 色覚の異常
- No.14. ドライアイ
- No,15. 屈折異常・調節異常─近視・遠視・乱視・老眼─
- No.16. 子どもの目の病気
- No.17. 結膜炎
- No.18. 角膜の病気
- No.19. ぶどう膜炎
- No.20. 黄斑円孔・黄斑前膜
- No.21. 眼の神経の病気
- No.22. 涙道や涙腺やまぶたの病気
- No.23. 目の外傷
- No.24. 目の病気の手術治療
- No.25. 目の病気の薬物治療
- No.26. バセドウ病と目の病気
- No.27. まぶたの病気とQOL
- No.28. 眼精疲労
- No.29. アレルギーによる目の病気
- No.30. コンタクトレンズ
- No.31. 飛蚊症
- No.32. ロービジョンケア
- 別冊:視神経乳頭の"異常"と"正常"
リラックス アイ
※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。
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