目と健康シリーズ Eye & Health

2015年06月02日

No.24. 目の病気の手術治療

編集 江口眼科病院院長
江口 秀一郎 先生
も く じ



アイのおばあちゃん、もうすぐ白内障の手術を受けるんだって。
目の手術って、どんなふうにやるのかなぁ?
痛くないか、おばあちゃん心配してるだろうな。
明日このご本を持って行ってあげよっ!

眼病治療における手術の役割

 「手術はできるだけ避けたい」というのは誰もが共通してもつ心情です。でも、手術でしか治せない病気もあります。手術は、薬が効かない病状でも視機能しきのう(視力や視野)の回復を望める一方、薬の副作用と同じように、偶発ぐうはつ症や合併症があります。ですから手術を受けるときは、なぜその手術が必要なのか、どのような危険があるのかといったことを、よく知っておいてください。
 
眼科の手術の分類(大まかな目安なので例外もあります)
◆目的からみた場合
 (1) 視機能の回復をめざす手術
 角膜移植、屈折矯正、白内障の手術、網膜剥離の手術、硝子体手術、黄斑浮腫のレーザー凝固、斜視の手術、翼状片の手術、眼瞼下垂(まぶたがしっかり開かない状態)の手術
(2) 視機能を維持するための手術
 開放隅角緑内障の手術、糖尿病網膜症や網膜裂孔のレーザー凝固
(1) と (2) の両方に該当する手術(病状により目的が異なる手術)
 加齢黄斑変性のレーザー治療、閉塞隅角緑内障の手術、糖尿病などによる増殖網膜症のレーザー治療、涙道の手術、ものもらいや逆さまつげの手術、眼窩底骨折や視神経損傷の手術、腫瘍の摘出
◆必要性からみた場合
 (1) 手術以外の治療法がない病気
 網膜剥離・裂孔、閉塞隅角緑内障、黄斑円孔・前膜、角膜移植が必要な状態、斜視、翼状片、眼瞼下垂、目の腫瘍、糖尿病などによる増殖網膜症
(2) 手術以外にも治療法や進行防止法があり、病状に応じて手術が選択される病気
 開放隅角緑内障、白内障、加齢黄斑変性、視神経損傷、黄斑浮腫、硝子体出血、涙道の病気、ものもらいや逆さまつげ、眼窩底骨折、屈折異常
◆緊急性からみた場合
 (1) できるだけ早く手術したほうがよい病気
 閉塞隅角緑内障(とくに発作時)、網膜剥離・裂孔、糖尿病などによる増殖網膜症・増殖前網膜症
(2) 経過を観察して手術の時期を決める病気
 開放隅角緑内障、硝子体出血、涙道の病気、ものもらいや逆さまつげ、黄斑浮腫、加齢黄斑変性、黄斑円孔・前膜、斜視、眼瞼下垂、眼窩底骨折、視神経損傷、翼状片、白内障、角膜移植が必要な状態、屈折異常
 

手術の種類


目的からみると...
 眼科の手術を目的で分類すると、(1) 視機能を回復するための手術、(2) 現在の視機能を維持するための手術、に分けられます。(2) の場合は手術の目的をより詳しく把握しておく必要があります。

必要性からみると...
 手術の重要性という観点からは、(1) 手術以外に治療法がない場合、(2) 手術以外にも治療法があったり、自然に治る可能性がある場合があります。(2) の場合、手術は病気の重症度や効果、安全性から必要性を考えます。

緊急性からみると...
 (1) できるだけ早い時期に手術をしたほうがよい場合と、(2) 病状を見守りながら手術の時期を決めればよい場合があります。(1) の極端な場合が緊急手術です。

副作用からみると...
 (1) 手術侵襲しんしゅうが少ないもの、手術件数が多くて比較的安全なもの、(2) 手術侵襲が大きいもの、手術件数がまだあまり多くないものがあり、(2) のときは、効果と安全性をより慎重に検討する必要があります。なお、副作用の頻度や程度は、同じ病気の手術でも、病状や全身の状態などによって差が生じます。

 このページでは、手術件数が多いおもな手術をとりあげて解説します。


必要に応じてこのシリーズのNo.1や当該テーマの号をご参照ください

※手術侵襲手術によるからだへのダメージ。組織が大きく傷つけられる場合、手術に長時間要する場合、出血量が多い場合などは「侵襲が大きい手術」と言います。

手術を受けるまでに...
 手術の方法や危険性、手術しない場合の経過の予測など、疑問や不安があれば、どんな些細なことでも納得するまで医師に尋ねてください。

手術中には...
 患者さんはよく'痛み'について心配しますが、眼科の手術はほとんど局所麻酔で行いますから、もし痛かったら「痛い」と言ってもらえば麻酔を追加できます。

手術が終わったあとも...
 術後にも、効果の確認、感染症の予防、合併症のチェックなど、やるべきことはたくさんあります。指示されたこと(安静にしているべき期間、通院の頻度、点眼や服薬など)は、必ず守ってください。感染症は、対処が遅れると、失明しかねません。


白内障手術

 
 
目的
 白内障は、カメラのレンズに相当する水晶体すいしょうたいが、歳をとることなどで次第に濁ってくる病気です。根本的な治療法は、濁った水晶体を眼内レンズに置き換える手術です。

方法
 「超音波乳化にゅうか吸引術」と呼ばれる方法が一般的です。
 結膜けつまくをわずかに切開し細い器具を眼球内に入れ、水晶体の前嚢ぜんのう(水晶体の前方の壁)を切り開きます。その器具の先端から濁った水晶体に向けて超音波を当て、後嚢こうのう(水晶体の後方の壁)以外の水晶体を砕きます。超音波により砕かれた水晶体を吸引し、そこにできたスペースへ、後嚢を足場にして眼内レンズを挿入します。
 最近は傷の作り方が工夫され、切開創を縫合ほうごうしないことが増えてきました。

視機能の変化
 手術を受けたその日のうちに、以前よりも視野が明るくなり、はっきり見えるようになります。

手術時間
 15〜45分程度です。水晶体が固い人(進行した白内障や高齢者に多い)、瞳孔どうこうが小さい人ほど時間を要します。

麻酔
 注射で麻酔することが多いですが、点眼麻酔だけのこともあります。

入院期間
 長くて1週間、短ければ日帰り手術になります。術後の管理を考えると、短いほどよいとは限りません。

術中の偶発症
 水晶体の後嚢が破れたり、チン小帯が切れて、眼内レンズを挿入できず、術後に遠視の矯正が必要になることがあります。また、水晶体の破片が硝子体に入ってしまい、硝子体手術(「硝子体手術」の項目参照)が必要になることがあります。


術後の合併症
 感染症が起こることがあります。最近増えてきた切開創を縫わない方法の一部では、術後に乱視が生じるのを防ぐ効果がある一方で、感染症の危険がやや高くなる場合があります。なお、術後数カ月から数年たつと後嚢が濁って白内障が再発したように感じることがあります(後発白内障)。これはレーザーで、短時間で治療できます。

術前の注意
 全身の病気(例えば糖尿病など)があれば、きちんと治療しておきましょう。

術後の注意
 切開創がしっかり塞がり状態が落ち着くまで(医師が許可するまで)は、洗顔、洗髪、入浴、スポーツなどを控えます。感染症が、術後1〜2カ月たってから現れることもありますので、痛みや見え方がおかしいなどの異常を感じたら、すぐに受診してください。

緑内障手術

目的
 緑内障は、眼球の後方にある視神経乳頭〈ししんけいにゅうとう〉(視神経が束になって眼球から脳へと出て行く所)が押し潰されて、視野が狭くなる病気です。眼圧〈がんあつ〉(眼球内の圧力)が高いと視神経乳頭が障害されやすいので、薬で眼圧を下げますが、その効果が不十分なときに、房水〈ぼうすい〉(眼球前方を流れている水分)の排出をよくして眼圧を下げる手術を行います。また緑内障の急性発作のときは、すぐに手術をします。手術をしても眼圧降下が不十分な場合、房水を作っている毛様体〈もうようたい〉に対してレーザー光凝固や冷凍凝固などを行い、その機能を抑えることもあります。

開放隅角緑内障

方法
 房水の新たな排出経路を作る「濾過〈ろか〉手術」を行います。
 角膜かくまくのすぐ近くの結膜を剥がして強膜きょうまくに小さな穴を開け、その下の虹彩こうさいを少し切って、房水が強膜内に流れ込むようにする方法がよく行われます。細い管を入れる方法もあります。これらにより、房水が結膜の下の血管に吸収されるようになって、眼圧が低下します。

視機能の変化
 一度障害された視神経は回復しませんから、視機能はよくなりません。この手術は、眼圧を下げて視野障害の進行を防止することが目的です。

手術時間
 30分〜1時間ほどです。

麻酔
 結膜への注射か、眼球全体の局所麻酔です。

入院期間
 術後も眼圧の微調整が必要なので、1〜2週間の入院となります。

術中の偶発症
 眼圧が急に下がった影響で、稀に視力や視野が悪化することがあります。また虹彩を切ったときの出血が予想より多いことがあります。ただし出血については、通常、数日で吸収されます。

術後の合併症
 白内障と同様に感染症に注意が必要です。また、人間のからだに備わっている創傷治癒力(怪我をけが治そうとする力)によって、手術で作った房水の排出経路が塞がってしまうことがあります。それを防ぐために最近は術中に、創傷治癒力を抑える薬を使うのですが、その薬が角膜に障害を起してしまうこともあります。

術後の注意
 微妙なバランスで眼圧をコントロールすることになるので、目を強く押さないように気を付けてください。また、術後は感染症が起きやすくなるので、痛みなどが現れたらすぐに受診してください。


閉塞隅角緑内障

 
 
方法
 毛様体で作られた房水は、水晶体と虹彩のすき間(瞳孔の縁の部分)を通って前房ぜんぼう(虹彩の手前のスペース)に流れていきます。閉塞隅角緑内障は、水晶体と虹彩のすき間が狭く、房水が後房こうぼう(虹彩の後ろ側)に滞るために、水圧で虹彩が手前に押されて隅角が狭くなり、房水の排出がさらに妨げられている状態です。そこで虹彩にレーザーを当てて穴を開け、後房から前房への房水の通り道を作る「レーザー虹彩切開術」を行います。

視機能の変化
 眼痛や頭痛などはすぐに治まります。視機能は、角膜の浮腫ふしゅ(むくみ)が消えるとともに、少し改善します。

手術時間
 数分から15分程度です。

麻酔
 点眼麻酔で行います。

入院期間
 外来で行います。

術中の偶発症
 虹彩から出血することがありますが、数日で吸収されます。

術後の合併症
 角膜内皮細胞(角膜の裏側の細胞)が減るため、何年もたってから角膜が濁ることがあります。角膜内皮細胞は再生しないので、角膜移植でしか治せません。このほか合併症とはいえませんが、手術をしても隅角が狭いままのときがあって、濾過手術を追加することがあります。

術前の注意
 普段は自覚症状がない患者さんに発作が起きたとき、脳卒中などと勘違いして対処が遅れることがよくあります。緑内障発作の可能性をいつも頭の片隅に置いておいてください。

網膜・硝子体手術

 眼球の外側(強膜側)から行う手術と、眼球の内側(硝子体側)から行う手術、切開せずに行うレーザー光凝固術の三つに分けて解説します。

強膜内陥ないかん

目的
 網膜剥離はくりの治療法です。眼底から剥がれて眼球の内側にめくれ上がっている網膜に対し、眼球を外側からへこませることで網膜剥離の原因となる網膜裂孔を閉鎖し、網膜が再び眼底にくっつくようにします。

方法
 網膜剥離が起きている部分の強膜に棒状のシリコンを巻いたり縫い付けたりして、網膜裂孔の位置にあたる眼球の一部を内側に陥没させます。同時に網膜の下に溜まっている水分を抜き出したり、眼球内部に空気などの気体を入れその浮く力で網膜を眼底側に抑えつけたり、強膜を凍らせて冷凍凝固瘢痕はんこんを作り網膜を固定したりすることもあります。

視機能の変化
 見えなかった部分の視野が数日〜数カ月かけて回復します。剥離が起きてから手術を受けるまでの時間が長かった場合は、回復の程度やスピードが鈍くなります。

手術時間
 1〜2時間です。

麻酔
 全身麻酔または眼球全体の局所麻酔で行います。

入院期間
 網膜が元の位置に固定されるのを確認するため、2〜3週間の入院になります。

術中の偶発症
 眼球内への多量の出血、眼圧上昇による網膜動脈の閉塞、冷凍凝固の過凝固などが起こり得ます。これらのため、網膜剥離は治ったのに視機能が回復しないことがあります。とくに術前に黄斑おうはん(眼底中央に位置する視力を司っている網膜)が健康だった場合に術中合併症が起こると、手術によってかえって視力が低下してしまいます。

術後の合併症
 ほかの手術同様に感染症の可能性があります。

術前の注意
 診断されてから手術を受けるまで時間がある場合は、剥離の拡大を防ぐために特定の頭位を指示されることがありますので、それを守ってください。なお、網膜剥離はしばしば緊急手術で行われ、手術の時期を逃すと視機能がより低下してしまいかねません。

術後の注意
 眼球に気体を入れた場合はそれが吸収されるまでの数日間、うつ伏せなどの姿勢を守らないと、せっかくの手術の効果がなくなってしまいます。また網膜剥離は再発傾向が強い病気なので、見え方の変化をいつも片目ずつチェックし(両目では症状に気付きません)、異常を感じたらすぐに受診してください。もちろん感染症への注意も必要です。
 

硝子体手術

目的
 網膜の病気の治療、または硝子体に出血や濁り・増殖ぞうしょく組織などがあって光が網膜に届いていないときに、硝子体を透明にする目的で行います。

方法
 眼球内に硝子体を切除するカッターを入れ、硝子体の濁りや増殖膜(出血や炎症などで生じた膜)などを切除・吸引し、かわりに透明の液体を注入します。網膜剥離や裂孔れっこう(網膜の亀裂)、出血などがあれば、同時にそれらも処置します。

視機能の変化
 硝子体の濁りはなくなるので、網膜をどの程度修復できるか、修復した網膜がどのくらい働いてくれるかで、視野や視力が決まります。

手術時間
 病状によりますが、1〜3時間です。

麻酔
 全身麻酔または眼球全体の局所麻酔です。

入院期間
 1〜3週間必要です。日帰り手術が行われる場合もあります。

術中の偶発症
 神経細胞の集まりである網膜のすぐ近くでの細かい作業が必要なので、手術は極めて慎重に行われますが、網膜裂孔・剥離、多量の出血が生じたりします。もちろんそれらは術中に処置します。しかし黄斑の働きに影響が残った場合、視力の回復が難しくなります。

術後の合併症
 白内障が起きやすくなります。このため硝子体手術と同時に白内障手術を行うこともあります。

術後の注意
 感染症に注意が必要な点は、ほかの手術と同様です。糖尿病や高血圧などの全身の病気は、術前術後を通してしっかり治療してください。

レーザー光凝固術

目的
 網膜の病気に対し、レーザーで網膜を凝固し、病気の治療・進行防止をめざします。なお、白内障があれば先に治療する必要があります。

方法
 瞳孔からレーザーを網膜に向けて当てて瘢痕を作り、網膜裂孔の周囲を固定して網膜剥離が起きるのを予防したり、網膜の下に溜まっている水分の排出を促し浮腫を改善したりします。また、糖尿病や網膜血管の病気でできる新生血管の発生を防ぐために行ったり、新生血管を焼き潰すこともあります。

視機能の変化
 治療の目的が浮腫の改善であった場合は、数日(長いときは数カ月)たつと視力が戻ってきます。網膜剥離や新生血管発生の予防のために行った場合は、視機能に変化はありません。

手術時間
 数分から15分程度ですが、凝固箇所が多い場合は何回かに分けます。

麻酔
 点眼麻酔で行います。

入院期間
 外来で行います。

術中の偶発症
 眼球が動いて偶然に中心窩ちゅうしんか(視力が最も鋭敏な一点)を凝固してしまうと、視力が著しく低下してしまいます。

術後の合併症
 凝固箇所が多いとき、黄斑に浮腫が起きて視力が低下することがあります。

屈折矯正手術

目的
 近視は、眼球の長さに対して角膜や水晶体の屈折率がきつすぎる状態です。角膜の一部を削り屈折を変え、網膜にピントを合わせます。

方法
 主流であるレーシック手術では、マイクロケラトームまたはフェムトセカンドレーザーという手術器械で角膜の表面を薄く剥がしてから、レーザーで角膜実質をわずかに削り、剥がしてあった部分を元に戻します。削る位置や量を工夫することで、遠視や乱視も矯正できます。ただし、円錐えんすい角膜などの場合、この手術を受けられません。

視機能の変化
 術後数時間から数日で視力が向上します。

手術時間
 数分から15分程度です。

麻酔
 点眼麻酔で行います。

入院期間
 外来で行います。

術後の合併症
 角膜が濁ることがありますが、これは通常、時間とともに消えます。屈折が矯正しきれなかったり、少し近視に戻ったり、乱視が発生することもあります。感染症の危険もゼロではありません。

術前の注意
 コンタクトレンズをしている人は、術前の検査の2〜3週間前から装着してはいけません。また、手術を受ける必要性について、ほかの矯正方法(眼鏡など)と比較し、どちらが有利かを十分に考えて決めてください。



シリーズ監修:堀 貞夫 先生(東京女子医科大学名誉教授、済安堂井上眼科病院顧問、西新井病院眼科外来部長)
企画・制作:(株)創新社 後援:(株)三和化学研究所
2012年6月発行

もくじ

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