インスリン自己注射ガイド

2007年06月12日

インスリンの効果を生かすためのチェックリスト-1

ポイント1 注射する時間(タイミング)を正しくしましょう

 血糖値は時々刻々と変化しています。糖尿病の患者さんでも、血糖値が高い時間帯もあれば、それほどではない時間帯もあります。そのような血糖値の変化と、薬の効果を噛み合わせるため、糖尿病の薬は使用するタイミングがとても大切です。

 これは、インスリン注射に限らず飲み薬についても言えることですが、インスリンは血糖値を下げる効果が確実なだけに、タイミングを守ることがより大切です。タイミングをきちんと守ることで、血糖値が最も高くなる時間と、薬の作用が最も強くなる時間がちょうどよい具合に重なり合って、高血糖を抑えられます。このタイミングがずれてしまうと、高血糖を効果的に抑えられないばかりでなく、低血糖になりやすくなってしまいます。

ポイント2
(複数のインスリン製剤を使用している患者さんの場合)
インスリン製剤をしっかり見分けて使いましょう

 インスリン製剤には、食事の直前に注射するタイプ、食事の30分前に注射するタイプ、起床後や就寝前に注射するタイプなど、さまざまな種類があります。なぜそんなにたくさん種類があるのかというと、それもやはりポイント1でお話ししたように、血糖値が時々刻々と変化しているからで、その変化にあわせてインスリンの作用を生す最適の方法をとるためです。

 インスリン療法の効果をより確実なものにするために、一人の患者さんに2種類以上のインスリン製剤が処方されることがあります。その場合は、インスリンの種類を間違えないことが大切です。

 例えば、食後に高くなる血糖値を抑えるためには、注射をしたあとすぐに作用が現れ、短時間で作用がなくなるタイプの製剤(速効型または超速効型のインスリン)を使います。反対に、起床後や就寝前など、食事のタイミングとは関係なしに1日1〜2回注射するタイプの製剤(持効型または中間型のインスリン)は、注射をしてから十時間以上作用が長続きします。この二つのタイプを間違えてしまうと、高血糖を抑えられないばかりか低血糖が起きやすくなってしまうということが、容易におわかりになると思います。

 注入器の色や記号などを覚えることで、インスリン製剤を見分けられます。しっかり区別して間違えないようにしましょう。

補 足:色や記号による見分け方

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表中の画像は、ノボ ノルディスク ファーマ社、および、日本イーライリリー社
パンレットより、許可を得て引用しました。

ポイント3
(濁っているインスリン製剤を使用する患者さんの場合)
注射の前に、よく混ぜましょう

透明のインスリンと白く濁っているインスリン

 インスリン製剤には、透明のタイプと、白く濁っているタイプがあります。この違いがなにかというと、インスリンの結晶があるかないかという違いです。インスリン結晶がないタイプは無色透明です。

 では、白く濁ったインスリン製剤では、なぜ結晶になっているのかというと、プロタミンという名前のタンパク質が入っていて、このプロタミンがインスリンを結晶化しているわけです。この結晶は、注射したあと、体内での吸収に時間がかかりますから、作用時間が伸びることになります。

 簡単にいうと、無色透明のインスリンは、作用時間が短い速効型や超速効型のインスリンで、白く濁っているインスリンは、中間型インスリン、または中間型インスリンが混ざっている混合製剤・二相性製剤、ということです。

補 足

 なお、持効型溶解インスリン製剤(グラルギン製剤)は、プロタミンを入れるのとは別の方法で作用時間を長くした製剤なので、無色透明です。

白いインスリンは混ぜて使う

 白く濁っている中間型インスリン、および混合製剤・二相性製剤は、注射する前に、インスリンとプロタミンをしっかり混ぜ合わせないといけません。混ぜ合わせが不十分だと、注射後の体内への吸収速度が不安定になって、狙ったとおりに血糖値をコントロールできなくなります。

補 足:正しい混ぜ方


ノボラピッド30ミックスの新しいカートリッジ・注入器の使い始めは、(1) の方法で混ぜることがとくに大切です。冷蔵庫から取り出したあとで、しばらく室内において温度を室温程度にしてから、(2) の方法で混ぜるようにします。冷たいままだとカートリッジ内に沈殿しているインスリンの結晶がガラス面こびりついて、よく剥がれないからです。混ぜたあと、沈殿が残っていないかどうか、カートリッジを光に透かして確認しましょう。
このイラストは、ノボ ノルディスク ファーマ社のパンフレット
「インスリン自己注射手技確認のしおり」から、許可を得て引用しました。

ポイント4 毎回、試し打ち(空打ち)をしましょう

 試し打ちが必要な理由は二つあります。一つはカートリッジに空気が入っている場合にそれを抜くためです。では、カートリッジを目で見て空気(気泡)がなければ試し打ちは必要ないのかというと、そうではありません。それが次に説明する、試し打ちが必要な二つめの理由です。


このイラストは、日本イーライリリー社のパンフレット
「インスリン注射ワンポイントセミナー」から、許可を得て引用しました。

 試し打ちでインスリンがきちんと出てくるということは、針がしっかり取り付けられていることや、注入器がしっかり作動していることを意味します。反対に、もしも試し打ちでインスリンが出てこなければ、注射針がしっかり取り付けられていない、注入器が故障している、などの問題があることを発見できます。インスリン注入器はデリケートなので、なにかにぶつけた衝撃などで、知らないうちに故障している可能性もあるのです。

補 足

 なお、試し打ちをしても抜けきらない空気が残ることもありますが、小さな泡は問題ありません。注射をするときは針が下向きになり、空気は針の反対側に移動するからです。

 また、試し打ちのときに出るインスリンの量や勢いは、注入ボタンを押し込む速度や注入器の種類によって異なります。試し打ちのときに出てきたインスリンの量が少なく感じても、問題はありません。ただし、注入ボタンを押すのに、いつも以上の力が必要だったように感じた場合は、注射針がしっかり取り付けられているかや、針が曲がっていないかなどを、もう一度確認してください。

ポイント5 注射の量(単位数の設定)を確認しましょう

 飲み薬は「1回何錠」と処方されますね。インスリン注射で、飲み薬の「何錠」に当たるのは「何単位」です。

 1回2錠と言われた飲み薬を3錠ずつ飲んだら、恐らく副作用が現れやすくなるでしょう。逆に1錠しか飲まなかったら、効果が十分得られず、治療の意味がなくなってしまいます。

 インスリンも同じです。説明された単位数をきちんと確認して守らないと、副作用が現れたり、効果を得られなくなったりします。インスリン療法における副作用とは、おもに低血糖です。効果が得られない状態とは、高血糖とのことです。

補 足

 注射前の単位設定が正しくても、注射時に注入ボタンを押し切らず途中で止めてしまうと、設定量より少ない量しか注射されません。注射ボタンを垂直に押さずに斜めに押したりしたときに、このようなことが起こります。ですから、注入器を正しい方法で握って、注入ボタンは垂直に押してください。

どの握り方、どの押し方が正しいでしょうか?

このイラストは、ノボ ノルディスク ファーマ社のパンフレット
「インスリン自己注射手技確認のしおり」から、許可を得て引用しました。

 また、注射後は設定ダイヤルがゼロになっていることを確認しましょう。ただし、オプチクリックのみは、注射後の単位表示(デジタル表示)が注射前に設定した数値と同じままです。オプチクリックの場合は、設定ダイヤル(注入ボタン)が本体にしっかり収まったことを、カチッという音と目で見て確認します。

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