いま、1型糖尿病は
2008年10月29日
悩んでいる自分はおかしい?
血糖コントロールもさることながら、なにをどうしていいのか、分からなくなっているというのが本音のようでした。注射は打てる、血糖値も測定できる、しかし、それがどういうことなのか、どういうふうにすれば血糖値を下げることができるのか、そもそも「血糖コントロール」と言うけれどそれはどういう意味なのか、なにもかにも、ゴチャゴチャになっているという感じでした。
20歳も過ぎれば、親に話しても「自分のことなんだから」といってノッテこないし、親に自分の心の中まで話すことにはもうテレがある。「うまくいっていない」ということを親に言うことすら嫌だし・・・。
「入院中は、看護師さんをはじめ、皆分かってくれていたのに」と心の晴れない日々を送っていたという方が多いのです。
すこし先走って聞く?
外来の診察室で、なんとなく言葉を選んで話す様子に加え、血糖コントロールがうまくいっていないことや、自分の使っているインスリン製剤の名前や血糖自己測定器の名前などを聞いても「あれです、あれ」という答えしかできないなどなどから、「糖尿病のある自分」の身の置き場所に困っている様子が分かります。そういうときはすこし先走って、「こんなことがあるのでは?」「・・・な気持ちにならない?」と聞いてみます。すると、「ええっ」という顔とともに、それをきっかけに話しがはずんでくることがよくあります。
女性だったら「食べたくないのに食べてしまうのよね。そういうことがあったりする?」と聞いてみます。返事はなくても、うなずいてくれます。それなら、「これからあなたの気持ちを代弁して話すから、違っていたら、違うといってね」と、どんどん私は話していきます。「どう間違いがあった?」と最後に聞くと、頭を横に振ってくれます。こちらが先走って話したことが合っていたようですね。
自分の正面に大きな岩があると、「もうだめだ、自分はだめなんだ」と思ってしまう。どこかに細い道でもないかと探すこともせずにすぐあきらめてしまう。そして、自分の気持ちを静めるために、欲しくもないのにお腹いっぱい食べてしまう。よくあることです。ほかのことに走ることもあります。
どうして、こんなことができるのでしょうか?
どうしてこんな代弁をできるのでしょうか。それは、このような気持ちで悩んでいる方がとても多く、東京女子医科大学糖尿病センターの初診で、私どもがお話しを聞く機会が多いからです。そうなんです。あなただけでなく、たくさんのお友達が同じことで悩んでいるのです。インスリン注射している自分はこれからどうなるのか、身近に先輩もいないし。
近くに、ロールモデルになる方がいるのといないのでは、とても違いますね。ロールモデルというのは、あなたがあの人のようになりたい!!と思う方です。会社の先輩に素敵な方がいて、仕事がバリバリできて、英語もできて、カッコいいとします。あなたは、その方に憧れて、あんなふうになりたいと思って、努力し始めるとしましょう。この先輩はあなたのロールモデルなのですね。
ロールモデルを探す手前の段階
ロールモデルをもっている方はもう大丈夫なのですね。そこまでも気持ちが行かない、糖尿病とどうやって暮らしていけばいいのか、まったくかいもく分からないという方に、グループミーティングを、東京女子医科大学糖尿病センターでは、長らく16年もの間、チャプレン斉藤先生を中心に行ってきました。東京女子医科大学糖尿病センターに受診していない方も、たとえ遠方であっても、グループミーティングに参加してくれていました。しかし、第2土曜日にしか行っていないために、なかなか参加しにくい方がいらっしゃったのではないかと考え、このたび、年に数回ではありますが、日曜日にグループミーティングを始めてみようと各方面の方々のご尽力を得て、企画することができました。
医療従事者にもグループミーティングに
いろいろなところに講演に行きますと、若い糖尿病患者さんが勤務先のクリニックや病院にいなくて、若い患者さんの気持ちやなにを考えているのかよく分からない、という医療従事者の方々の声をよく耳にします。これはほんとうでしょう。さきほど書きましたように、先走って「こうでしょう?」と私が言えるのは、多くの同じ悩みをかかえた患者さんにお会いしているからなのです。リクツ、理解ではありません。経験のみ。
そこで、今度始めてみようとしていますグループミーティングには、医療従事者の皆さんにも参加いただこうと考えております。「糖尿病をもつ若者はこんなことを考えているのか!」と知っていただくだけでも幸甚です。
人生半ばまで生きてきた方なら、こんな悪い血糖コントロールをしていたら合併症になる、なったら家族が!仕事が!とその先のことをすぐ考えることができるのですが、若い方はたとえそのように考えることができても、そうなら血糖を下げよう!というふうには、考えが結びついていきません。
考えが感情で揺り動かされている若者を知り、そしてどうやっていったらいいのか、を一緒に悩んでみたいと思います。
(糖尿病研修センター) 〒102-0073 東京都千代田区九段北1-8-10 住友不動産九段ビル15階 |
1型糖尿病に関わる医療従事者 20名 |
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