いま、1型糖尿病は
2008年03月07日
インスリン注射してから血糖が下がるまで
外来をしていますと、注射したらすぐインスリンの作用が現れると思っている方が多いことに気がつきました。
皮下のある一部にインスリン注射をして、その後どのようにしてインスリン作用がからだ全体に現れるのか、一度考えてみましょう。
もちろん、超速効型インスリンは、この過程にかかる時間が5分くらいといわれるように、短いわけですね。
今回は、速効型ないし超速効型インスリンの話です。
インスリン製剤中のインスリンはヒトインスリン?
速効型インスリン製剤のなかに入っているインスリンは、ヒトインスリンと同じものでしょうか。考えたこともなかったという方もいるかもしれませんね。はい、ヒトインスリンと同じものです。ただし、ヒトインスリンは血中では1分子として存在しますが、インスリン製剤としてバイアル瓶やカートリッジやペンの中に入っているインスリンは、ヒト型インスリン製剤であっても、6分子がひとつのかたまりとなって入っています。インスリン分子は6分子が集まると安定するためです。これを6量体といいます。1分子として存在するものを単量体といいます。
膵臓のβ細胞の、インスリン分泌寸前の分泌顆粒中にあるヒトインスリンは何量体でしょうか。6量体です。
超速効型インスリンはヒトインスリンではありませんが、やはり6量体の製剤になっています。6つの分子が集まって製剤になっているという点では、速効型インスリンも超速効型インスリンも同じといえます。
速効型インスリンを皮下に注射したらどうなるのか?
インスリン製剤の変化
6量体の速効型インスリンは皮下に注射されると、細胞と細胞の間にある「組織間液」で、だんだん希釈されていきます。「1mLが100単位」の製剤は組織間液で1万倍以上に希釈されると、まず6量体から2量体になり始め、さらに単量体つまり1つの分子になります。製剤中のインスリン濃度は、血中インスリン濃度の約10万倍から1000万倍(105〜107倍)濃いのでそうして、だんだん大きな血管へ流れていき、大静脈から心臓を経由して、大動脈から今度は全身の末梢の細かい血管のすみずみまで流れていき、全身の1個1個の細胞にインスリンが届くというわけです。インスリンが細胞の中に入って、はじめてインスリンの作用、つまり血糖が下がるということが発現します。
このような過程に、速効型インスリンならば、約30分前後かかるというわけです。
超速効型インスリンを皮下に注射したらどうなるのか?
超速効型インスリンは6量体から単量体へ分かれていく時間を短くできたインスリンで、ヒトインスリンと同じではありません。「ヒトインスリンもどき」、つまりヒトインスリンに似ているが似ていないところもあるインスリンといえます。2001年8月末に日本で使用できるようになったヒューマログ®は、製剤中では6量体ですが、希釈されると、2量体にはなりにくく、すぐ単量体になってしまう性質をもつインスリン製剤です。よって、毛細血管に入りこむまでの時間が短くなります。
次に2001年12月に日本で使用できるようになったラピッド®は、もともと製剤でも6量体になりにくくやっとやっと6量体もどきになっているというインスリン製剤で、皮下に入って希釈されるとすぐ単量体になってしまいます。そのために、毛細血管に容易に入り込みやすくなっています。
速効型インスリンを静脈注射した場合
シックディになって病院にいきますと、ただちに血糖値や尿や血液ケトン体を測定します。100%高血糖状態になっています。早く血糖値を下げなければなりません。このような場合には血管の中に直接インスリンを入れます。通常は速効型インスリンを、100mLや10mLの生理的食塩水に、加えて持続的に静脈中にいれます。
皮下から入れるのではなくて、直接静脈の中に入れますと、インスリンはただちに単量体になってしまいます。そして、インスリン作用がただちに発揮されるというわけです。
注射したらすぐ“効く”わけではありません
インスリン注射しても、すぐに全身に効くわけではないことがわかったと思います。各々のステップを経て、全身にまわって、インスリン作用が発揮されるのですね。
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