いま、1型糖尿病は

2006年08月10日

臨床試験について

 みなさんは「臨床試験」ということばを知っていますか。簡単に「治験」ということもあります。

 「臨床試験」とは、新しく開発された薬が医薬用薬品として国の許認可を得るために、必ず行わなければならない試験です。とても大切な試験ですが、臨床試験は、患者さんの福祉と安全、人権を守るという立場から、ヘルシンキ宣言というものに基づいて行わなければならないという大前提があります。

 臨床試験にはいくつかの段階があります。一番はじめは「前臨床」といって動物実験が行われます。その後、人において行われる第1相臨床試験に入ります。人において行われる試験を特に「治験」と呼びます。治験には第1相から第3相臨床試験まであります。

 第1相臨床試験は、正常者において行われるものです。時に患者さんを対象にすることもあります。第2相臨床試験以降は全員患者さんです。患者さんの協力のもとに行われます。患者さんの協力がないと行えません。

 第2相臨床試験以降は、実薬(ほんとうのくすり)と偽薬(薬効のないもの)を患者さんにも知らせない方法(2重盲検法といいます)で実施する試験になります。そして、第2相臨床試験の結果、偽薬群にくらべ、実薬群に明らかな効果と安全性が証明されますと、製薬メーカーは多くの患者さんに参加いただく第3相臨床試験を実施することになります。これらはすべて厚生労働省の監督下で行われます。

 第3相臨床試験でその効果と安全性が確認されますと、製薬メーカーはこの開発した薬を厚生労働省に申請する膨大な書類を作成して、許認可獲得への準備に入ることになります。
 補足ですが、1型糖尿病の患者さんに対するインスリン製剤の臨床試験は、偽薬を使用することができません。これまでのインスリン製剤と比較する形式で臨床試験が行われます。

 超速効型インスリン、持効型インスリンなど、いまとても便利に使用しているインスリン製剤は全部、みなさんの協力のもとにこのような臨床試験が行われ、厚生労働省の許認可を得て、今日どこの医療機関においても自由に処方できるようになっています。

 これからもいろいろなインスリン製剤や糖尿病の経口血糖降下薬などの新しい薬に対して、臨床試験が行われることと思います。

 みなさんの通院している医療機関の先生はみなさんにこのような臨床試験をお願いすることがあるかもしれません。みなさんに臨床試験に参加をお願いする前に、みなさんにかえって無理をお願いすることにならないか、危険性がないか、これが我々医療従事者がもっとも気をつかうところです。試験の実施自体に無理があったり、すこしでも危険性のある臨床試験は当然さけるべきです。しかしながら、まだ認可されていない薬であるがこの薬があると患者さんにはいいだろうなと思われる薬なら、積極的に臨床試験を行なっていきたいと思います。

 これまで大きな病院や大学病院でしか、臨床試験を行うことができませんでしたが、いまではクリニックでもできるようになりました。クリニック単位で臨床試験を行うためには、臨床試験実施に必要な委員会や人材を養成する必要があります。

 臨床試験をきちんとおこなうことは、患者さんにもいくばくかの無理が生じるかもしれませんが、医師のほうも簡単なことではありません。治験コーデイネータという職種の方の力も借りて、医師自体がきちんと行うという意思を持っていなければ臨床試験を貫徹することはできません。また、医師が患者さんとしっかりと意思疎通ができていなければできません。

 すでによく使用されている薬でも、これまでに認可されている薬効以外に、特別の大事な作用が見つかることがあります。このようなときでも、同様の特別な臨床試験が必要になります。
[ DM-NET ]



※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。

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