米国のダラスに住む男性、Hal Harbuckさんは、湖の波止場から湖畔の小屋に向かい歩いている時、強い胸痛を感じた。水上スキーのやり過ぎで肉離れが起きたのかと思った。これまでに経験したことのない、ひどい胸やけのようにも思えた。しかしやがて、心臓発作の可能性に思い当たった。
息子のJoshさんが最寄りの病院に電話をかけ相談している間、Harbuckさんはソファでアスピリンを噛み砕いていた。結局、救急車が出動することになった。ただしその病院は車で30分もかかるため、Joshさんの運転する車で病院に向かい、途中で落ち合うことにした。
救急治療室に着き、医師たちから生活習慣に関して問われたHarbuckさんは、最近禁煙したことを伝えた。「いつごろやめましたか?」、「30分ほど前です」。その場に笑いが起こった。このようなジョークは、1981年以来、Hal Jayという名前でダラスのラジオパーソナリティーをしているHarbuckさんにとっては、お決まりのせりふと言えるものだった。
この出来事は17年前のことだ。Harbuckさんの心臓には血流を回復させるために2本のステントが留置され、さらに1ヵ月後、ペーシング機能付き除細動器が埋め込まれた。術後、彼は禁煙を誓い、それを守った。
2022年10月になり、Harbuckさんは心室頻脈という致死性の高い不整脈を経験した。その後も数度、心室頻脈を起こした。その影響もあって心不全に陥った。医師たちは、Harbuckさんには新しい心臓が必要と判断した。心不全治療や心臓移植を専門とするShelley Hall氏は、「心拍の異常により心臓がショックを受けると、それまでよりも心臓が弱くなることがある。Harbuckさんにもそのような変化が現れ、彼の心臓は限界に近付いていた」と話す。
移植待機リストに載せるために必要な検査を進めている段階で、Harbuckさんの肺に影が見つかり、その生検を施行中に再び心室頻脈が起きた。そのために彼の心臓はさらに弱まり、待機リストの優先順位が繰り上げられた。それでもHall氏はHarbuckさんに対して、移植のチャンスが訪れるのに最長4ヵ月かかることを覚悟するように伝えた。しかし実際は10日後にその機会が訪れた。
手術室に搬送される途中でHarbuckさんは祈りを捧げた。すると、「2017年に交通事故のために亡くなった長男、Joshさんの存在を感じて励まされた」と、彼は後に語っている。そして手術後に目覚めたHarbuckさんは神に感謝するとともに、14歳の次男と12歳の三男をしっかり育てていくことをJoshさんに約束した。
翌日、看護師に促されて立ち上がって廊下の端まで往復し、その間に心拍数がどのくらい上昇するかを調べるという検査が行われた。わずかな体動でも心拍数が上昇することを理解でき、Harbuckさんは新しい心臓をいたわりながら運動を続けていくことを決意した。「見知らぬ家族が私に心臓を届けてくれた。私はその人たちの愛を享受し得る人となりたい」。
33日間の入院の後、Harbuckさんは自宅退院した。退院後も最初は着替えやシャワーにも妻のAnnさんの介助が必要だった。しかし、心臓リハビリテーションにより、自分でできることが着実に増えていった。心臓発作の再発を恐れることなく、自分自身を追い込める自信を得られた。それはHarbuckさんにとって、「それまで経験したことの中で最も素晴らしいことだった」という。
新しい心臓は彼に命を与えた。そして、リハビリを経て、以前の生活に戻った。ラジオパーソナリティーとしても復帰を遂げた。復帰後、初の放送日には日の出前にスタジオに向かった。全てから解き放たれ、行動を制限するものが何もない自由を感じた。間もなく、彼はマイクを前にし、再び大勢の聴衆に向けてHal Jayという役割を担い始めた。
当然ながら、彼は自分の体験をリスナーに伝え、各自の健康を大切にすることを促し、そして、より重要なこととしてドナー登録を呼びかけた。彼はまた、「単純に、他人に親切に接することをみなさんに勧めている」と話し、「家族や友人に囲まれながら生活できれば、かなり充実した人生になるに違いない」とのメッセージを送っている。
[American Heart Association News 2023年7月31日]
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Photo Credit: Hal Harbuckさん(本人提供)
[ mhlab ]