私の糖尿病50年-糖尿病医療の歩み
19.発病する前に異常はないか
1.Prediabetesの研究
1970年頃まで糖尿病の発病は(仮想の)糖尿病遺伝子の有無によってきまると考えられていた。したがって生まれてから発病するまでがPrediabetesで、GTT(糖負荷試験)が正常でも何か異常があるのではなかろうかと考えられていた。1933年すでにBixによって指摘された巨大児分娩はその1つのサインというのが通説であった。1954年にミシガン大学のS. FajansとJ. Connはコーチゾンを前日夜と当日朝に服用してからGTTを行い、GTTが糖尿病に増悪することから糖尿病を予測しうる可
1962、3年頃より名古屋大学第3内科山田弘三教授がprediabetesの研究グループを組織した。スポンサーはラスチノン(トルブタマイド)の販売元の興和新薬で、年2回位ほど名古屋に集まって研究成果を発表した。自由で活気に溢れた集会であった。prediabetic stageでも眼底所見が現れること(京府医大葛谷覚元助教授、筆者)や巨大児分娩(三村悟郎、平田幸正講師)など多くの知見が発表された。筆者は糖尿病の病期についてはCameriniの考えを参考にして表1のように考えてみた。
表1 糖尿病の進展の順序
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表2 前糖尿病状態
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また前糖尿病状態はグルココルチコイド併用GTT(CGTT)で陽性となるものと、それ以外のものとを表2のように分けた。当時はGTTで糖尿病でなくCGTTで陽性となるものはprediabetesとされていた。このような目でみると当時のCGTTの成績は表3のようであった。
表3 糖尿病患者血縁者のグルココルチコイド併用GTT陽性率
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2.夫婦糖尿病の子供
糖尿病の遺伝については1950〜60年代は劣性遺伝、優性遺伝、伴性遺伝などいろいろの説が提唱された。現在のMODY、ミトコンドリヤ遺伝子異常の病態をみてもMODYは優性遺伝、ミトコンドリヤ異常は伴性とみなされる可能性が考えられる。当時多くの支持を得ていたPincusとWhiteの単純劣性遺伝説によれば、「夫婦ともに糖尿病になった人達の子供は、糖尿病になる素因を持っている」ことになるので、筆者はそのような人達を探してみた。その目でみるとその組み合わせは決して少なくないことに気づいた。秋田赤十字病院の菅原眞博士は大家族を紹介して下さり、雪深い横手盆地に除蛋白液の入った試験管を2、30本持ってGTTに出掛けたこともあった。対象となる人達は自覚的に何も症状がなく、GTTで糖尿病になっていないか検査してほしいという人達であったので、日曜日に検査したことが多かった。当時はまだわが国でもGTTの判定基準がなく海外の文献や自分達の正常例の成績をもとに正常範囲や異常値をきめたものが多かった。筆者らは50gGTTを行っておったので2時間値120mg/dl 以下を正常とし、140mg/dl 以上を糖尿病と判定していた(当時はヨーロッパではこの基準が多く用いられていた)。その判定基準を用いると対象とした方々は年齢とともに糖尿病が増し、50歳以後は全例糖尿病と判定された。
図1 糖尿病の両親をもつ137例のGTTの成績(年齢別)
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※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。
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