糖尿病臨床栄養1・2・3
2006年10月26日
簡単な食事療法でコントロールできた症例から、
試みてみたい類似症例像を考える
来院までの経緯と来院時の検査値
F氏は38歳男性で、35歳のとき定期健康診断でIGTを指摘されたが、そのまま放置し食生活を含めた生活習慣の改善をしないまま、3年間が経過していた。本年の健康診断にて糖尿病の疑いの判定を受け、専門外来を受診した。
来院時は、自覚症状はなく、BMI27.7kg/mxm(身長173cm、体重83kg)、血圧154/113mmHg、検査成績での異常値は、中性脂肪(TG)350mg/dL、空腹時血糖(FPG)185mg/dL、HbA1c7.2%であった。
体重歴、生活歴、食事分析
体重歴を問診すると21歳時70kg、23歳ころより体重が増加し33歳のとき83kgとなり、その後減量できないまま現在の体重83kgに至っている。
学生時代は、テニスやフットボールなどでハードな運動をしていたが、社会人となりデスクワークでの遅い時刻までの仕事時間が長く、極端に運動量が減少した。
一方、食事は学生時代と大差なく、36kcal/kg(IBW)/日、脂肪エネルギー比34%、食物繊維8〜12gを摂取していた。
食事回数は、朝・昼・夕と3回/日、時刻はそれぞれ7:00、12:00〜13:00、22:00〜23:00、食事のエネルギー量の比率は、それぞれ0.5(300kcal):1(700kcal):2(1,400kcal)と夕食に多い状況であった。
食事療法処方と栄養指導
F氏への食事療法の処方箋は、エネルギー1,800kcal、エネルギー比では炭水化物50〜60%、蛋白質15〜20%、脂質25%、食物繊維18gであったが、F氏の生活パターンにあわせ夕食を18:00ころに会社の食堂の定食(700kcal)を食べ、その後、再度仕事を続け仕事が終わり、帰宅後の22:00〜23:00には、お茶づけか軽く一膳のご飯と野菜の小鉢料理とした。
栄養指導後の経過
この栄養指導により、摂取エネルギーは−500kcalとなり、体重は1週間後には82kgの−1kg、1カ月後には79.5〜80kgと約−3kgの減量できた。
そして、2カ月後には体重77.5〜78kgと食事療法開始時より約5kg、BMIで−1kg/mxm低下し、HbA1c6.7%、空腹時血糖(FPG)123mg/dL、血圧124/62mmHg、TG157mg/dLと改善した。
F氏が実行した食事内容の食行動連鎖
F氏の食べた食事は処方箋のエネルギー量より100kcal/日多い食事量でしたが、BMI1kg/mxm以上の減量効果をあげましました。このことを次のように食行動連鎖で整理してみると、継続できた理由を抽出できます。
- 会社の食堂で夕食をとった
- 夕食のメニューは脂肪分の少ない定食メニューにした
- 夕食の摂取エネルギー量が減った
- 夜遅く帰宅後に少しお腹が空く
- お茶づけ1膳またはご飯1膳と野菜料理小鉢1杯を食べる
- 空腹感はなくなった
- これなら毎日つづけることができるかもしれないと思った
- 1カ月以上食事療法を継続した
- BMI1kg/mxm以上の体重が減量できた
- 血糖値が下がってコントロールが良好になってきているかも知れない
- やはり、このまま食事療法をがんばって続けてみよう
類似症例
F氏と類似した症例に上記のような食事療法で効果を期待することができます。
このような症例に共通の特徴として、
- 20歳台より体重が10%以上増加
- 発症(推定罹病期間)してからの期間が5年以内と比較的短い
- 高中性脂肪血症あるいは高尿酸血症を併発しているような症例
- 体重増加、脂肪エネルギー比の増加と血糖、尿酸、中性脂肪に敏感に影響する
といったことがみられます。
このような症例で重要なことは食事療法を早期に実行させること、一方では、実行しやすい食事療法の処方からはじめ、次いで、患者さん自身が効果を自覚し、やりがいをみいだすことです。しかし、この後の治療を進める上では症状や、治療管理指標となる検査データーに変化をみて柔軟に対応することが不可欠です。
食事療法は、開始することが重要です。そして、栄養指導にあたって、実行しやすい食事療法の処方からはじめるのは、本人にとっても指導する側にとってもメリットがあります。
もくじ
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