糖尿病 男の悩み ―糖尿病と性機能低下―
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糖尿病3分間ラーニング
男性医学と泌尿器科専門医の立場から

3. 糖尿病における性機能低下
―Active Aging のための医学的対応を考える―
疫学調査と診断の問題

熊本 悦明

A. 糖尿病合併症の問題点

問題点(1)

 我が国の食生活の変化に伴って、糖尿病は最近急増しており、この30年間で20〜30倍にまで症例数が増えてきています。1975〜93年にわたる疫学調査での男性有病率は7.1%(地域差があり、5.7〜17.4%と大きなバラツキがある)とされています。女性は4.5%、男女平均5.4%です。

 2010年には1000万人を超えるのではないかと予想されるところまで事態は進んでいます。しかも、HbA1C 5.6〜6% の予備群とされる人も、それとほぼ同数はいるとされていて、膨大な疾患群と言って過言ではありません。

 しかも糖尿病には、問題の多い合併症が少なくなく、そのため、糖尿病合併症学会が創立され、本年は22回総会を迎えているほどです。ことに micro-angiopathy(細小血管症)による神経障害、網膜症、腎症の発症頻度は高く、それらが患者さんのQOL(生活の質)を低下させることから三大合併症とも呼ばれています。そのうち神経障害は高頻度で、罹病期間10年で35%にみられることが報告されています。

 ところが、それら合併症よりかなり頻度の高い性機能障害については、なぜかあまり議論されていません。しかも、かなり若年世代から、すでに性機能低下が発症し始めており、それが加齢とともに徐々に高頻度かつ重症化していくという長い経過をとっており、相当数の患者さんが“性機能低下の悩み”をひそかに悩んでいるはずなのです。調査の仕方、また調査対象の年齢分布や血糖管理の良否により、発症頻度には報告によりかなりの幅がありますが、少なくとも25%、多いものでは75%にまで高くなっています。

 この糖尿病の micro-angiopathy による神経障害、それによる性機能障害は、もう一つ問題をかかえております。その血管障害が精巣の男性ホルモン合成機能障害をも起こしていることで、男性糖尿病症例の血中 testostelon 値が低くなっていることは、最近の男性医学の進歩の中で、かなり注目されるようになってきております。その点については、次回、詳しく説明させていただくつもりです。

 いずれにしても、神経障害と男性ホルモン低下が重なって、かなり糖尿病の早期から性機能低下が発症してくるわけで、神経障害の早期チェックの臨床診断上の一つのポイントにもなるものと考えております。

 しかしいずれにせよ、高頻度合併症といわれる神経障害が35%程度とされているのと比べれば、著しい高率発症であることは間違いないのではないでしょうか。21世紀の医学はQOLの医学とされているにもかかわらず、いまや性問題は“生き物としての男”にとって極めて重要なQOL問題であることが忘れられており、医学界からあえて無視されている現状と言わざるを得ません。しかも性機能障害は、神経障害の臨床上早期に示される警鐘という役割ももっております。

 我が国の糖尿病症例での性機能障害発症頻度が低いのは、内科系の糖尿病担当医の方々が、性問題をあえて避けて、患者さんに聞きもしないために、患者さんの側から積極的に訴える機会もなく、臨床診療の現場で問題化されないためと言って過言ではありません。人生80年時代の医学として、もっと男性医学的視点に立った医療が強く求められていると言えないでしょうか。ぜひ、あとのB項aに示した質問紙で、患者さんに具体的に聞いてあげてください。


男として最も重要な「性機能」が医療の蚊帳の外とは、なぜ?

 また患者さん側も積極的に遠慮せず医師に話して、医学的対応を検討してもらえるように話し合うことをお薦めします。基本的な性機能はパートナーとの関連とは関係なく、患者さんご本人の“男としての自信”につながる重要な問題であることを、このインターネットシリーズの「1. 男の人生の活力と性」のところに説明してあります。改めてぜひご一読ください。

問題点(2)

 我が国では、糖尿病関連のみではく、性問題については社会的にタブー視される傾向が非常に強くあります。そのため、最近のアジア各国も含めた幅広い国際的調査によれば、医師側から患者さんに性関連の質問をする頻度も、またその逆の患者側から医師に性問題を訴える頻度も、ともに世界最低という成績になっていたことが国際的にも注目され、「なぜ?」とよく話題にされています。それは性問題への偏見によるもので、言うならば“週刊誌ジャーナル中毒症”により性を興味本位にしか見ない我が国の風潮によるものなのではないでしょうか。

 そのような社会的風潮の中、糖尿病治療にあたる内科の医師は、“性問題”にかかわることは自らの品位を落とすかのように考えて、“性”に対して半身に構える方が多いようです。先日もある地方で高名な年輩の糖尿病専門医が、驚くことに、「すでに万に及ぶ糖尿病症例の経験を持っているが、今まで性問題の相談に対応したのはわずか百数十人にも満たない」と発言していました。性問題に関心の高い一部の医師以外は、ほとんど糖尿病症例の性問題は、まったく無視して、あえて触れようとしないことが通常のようです。


ロボット糖尿病患者さん?
(男が生き物であることを忘れないでください)

 改めて再言させていただくと、21世紀の医学は“QOL”の医学とさえ言われる中で、“男性のQOL”、さらには“男の自信維持”にとって極めて重要問題となっている“性”についてほとんど触れられない治療学は、男を生き物でなくロボットとして取り扱う、かなり旧態依然たる医学であると言わざるを得ません。女性側の“月経”がなくなることが、基本的な“女性性”の喪失と女性自身の心で受け止められているのと同様に、男性も早朝勃起に全く気付かなくなることは“男性性”の喪失、「もう自分も糖尿病で男を失ってしまった」と、心のどこかで自沈してしまっている方が、かなりおられます。

 ただ、現在の糖尿病関連医師側がこのような対応をするのは、“男性の性機能”そのものについて教育も受けていない素人的なところがあり、また男性医学の情報・知識が極めて少なく、また“性は dirty”との認識があることも事実と言えます。そのような事情のもとで、患者さんの側から性問題に対する積極的な理解を求めることも、実際問題としてかなり難しい問題なのかもしれません。

 糖尿病症例についての性機能関連の詳しい調査や検討を、もう少し医学界としてより積極的に行われるべきであると言えます。そして、その知見を関連医師に詳しく情報として流せるようなシステムが必要であると思います。患者さん側も含め糖尿病担当医師へのQOLとしての性問題の啓蒙が、今や強く求められると痛感しているところです。

 ことに、最近の長寿社会化の流れの中で、中高年男性の性の維持がQOLの維持、男の自信の支えになる重要な鍵となりつつあります。自ら積極的には訴えはしませんが、患者さん自身がかなり内心、問題視し始めていることは間違いない事実です。そのためにも医師側の中高年糖尿病症例の性問題への関心を求める必要性が高まりつつあると言ってよいでしょう。しかも最近の男性性機能に関する男性学的治療学の著しい進歩はめざましく、それら症例に結び付ける義務が担当医師側にあると信じています。

©熊本 悦明

もくじ

2012年4月からヘモグロビンA1c(HbA1c)は以前の「JDS値」に0.4を足した
「NGSP値」で表わされるようになりました。過去の記事はこの変更に未対応の部分があります。

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