子どもたちが夏休みに入り、大人たちの夏休みの時期も近づいてきた。夏を楽しみにしている人は多い。しかし、糖尿病のある人は暑い夏には注意が必要だ。猛暑のために血糖コントロールが難しくなる場合があるからだ。
糖尿病と暑い夏 異常な高温にどう対策するか
糖尿病のコントロールについて十分に注意していれば、他の人のように夏を楽しめなくなる理由はない。しかし、暑い気候を安全に楽しむためには注意が必要だ。
英国糖尿病学会(Diabetes UK)は以下のことについて注意を喚起している。
・ 暑い夏には血糖コントロールになおも注意
気温の高い夏には体を動かさずに、じっとしている時間が増える。運動療法をふだん通り続けるのも難しくなり、血糖値が通常よりも高くなりやすい。
その反面、気温が高いときには血行が良くなり、インスリンを注射すると注射した部位からインスリンが迅速に吸収され、効きが速くなることがある。その結果、少し運動しただけで低血糖を起こすおそれがある。
インスリン療法を行っている人は、血糖自己測定を行い、血糖値の変動について普段以上に注意する必要がある。それに応じて食事やインスリン投与量を調整する必要がある場合もある。
・ 高温や直射日光からインスリンやセンサーを守る
高温や直射日光の暴露は、インスリン、血糖値測定器やセンサーにも影響を及ぼす。高温や直射日光にさらされるとインスリンは変性して働きが失われてしまう。血糖値が予想以上に高く出る場合は、インスリンに変性が起きていないか検討してみる価値がある。
インスリンが熱により変性すると、一般的に透明なインスリンは濁り、曇っているインスリンは粒子状になり容器の側面に付着する。直射日光にさらされたインスリンは茶色がかることもある。これらの変化したインスリンは使用しないようする。不明な場合は、主治医やかかりつけの看護師、薬剤師に相談しよう。
暑い時期には、インスリンを冷蔵庫やクールバッグに保管すると安心できるが、その場合は凍結しないように気を付ける必要がある。また、血糖値測定器やセンサーも、なるべく室温に近い直射日光の当たらない場所に保管する。
・ 自律神経の働きが低下し汗をかけないことも
政府は、節電や地球温暖化対策として、エアコンの設定温度を28度にするように求めている。しかし、これが熱中症を引き起こすひとつの原因になっている場合もある。
気温が28度でも湿度が高いと、熱中症を起こす危険性が上昇する。さらに、糖尿病で血糖コントロールが良くなかったり、脳卒中などの既往歴のある人は、体温を調整する自律神経の働きが低下している場合がある。
体温が上がっているのに汗をかけなくなると、熱が体にこもってしまう。エアコンを28度に設定しても、実際の気温がもっと高くなっている、あるいは湿度が高く、熱中症の危険度が高い状態になっていることがある。
なお、汗を激しくかくと、水分とともに汗に含まれる塩分も失われるので、塩分の補給が必要になる。しかし、汗をかいていないのであれば、塩分補給は効果がない。逆にスポーツドリンクなどは糖分が含まれるので、飲み過ぎは血糖コントロールの悪化につながる。
気分が悪くなりそうであれば、扇風機を併用したり、エアコンの設定温度を1〜2度下げることが勧められる。
関連情報
小児や高齢者、持病のある人は「熱中症弱者」
血糖コントロールが良好であれば、熱中症に対する注意点は糖尿病でない人と変わらない。
日本救急医学会の熱中症に関する委員会(委員長:清水敬樹・東京都立多摩総合医療センター救命救急センター)は、熱中症患者の増加を受け、「熱中症予防に関する緊急提言」を発表した。
小児や高齢者、持病のある人は体温調節機能が弱い「熱中症弱者」として認識する必要があると注意喚起を行っている。
熱中症予防に関する緊急提言 4つの緊急提言
・ 暑さ指数(WBGT)を意識した生活を心がけ、運動や作業中止の適切な判断を!
・ 水分をこまめに取ること。おかしいなと思ったらすぐ涼しい場所に誘導を!
・ 適切な重症度判断と応急処置を。見守りつつ改善がなければすぐ医療機関へ!
・ 周囲にいるもの同士が、お互いに注意をし合う!
これらの人々は、次の理由で熱中症にかかりやすい――
・ 小児では汗腺の発達や自律神経が未熟で、高齢者や持病のある方は自律神経の機能が低下しており、体温調節機能が弱い。
・ 高齢者では全身に占める水分の割合が低く、容易に脱水になりやすい。脱水になると発汗の機能が低下し、体温調整が困難となる。
・ 小児では身長が低いため、地面からの輻射熱の影響を受けやすい。
・ 自分で予防する能力が乏しい。
暑さ指数を意識した生活指導が必須
「暑さ指数」(WBGT)とは、熱中症が起きやすい外的環境を知るための指標で、気温だけでなく、湿度や輻射熱を考慮した判断が可能になる。その内訳は気温:湿度:輻射熱が1:7:2であることから、気温だけでなく、湿度や輻射熱をも考慮した判断が可能になる。
気温だけでなく、この暑さ指数を意識した生活指導が必須であり、これを用いた屋外活動の可否判断が重要だ。
WBGTが21度以上では熱中症による死亡事故が発生する可能性があり、運動の合間に積極的に水分補給が必要。28度以上では、激しい運動や持久走などの体温が上昇しやすい運動は避け、31度以上では、運動は原則中止するのが望ましいとしている。小児の場合は、さらに厳格な対応が必要となる。
屋外活動や運動をする場合は、20〜30分程度の間隔での頻繁な水分・塩分補給と休憩を行った上で実施するべきだとしている。
熱中症を疑ったときには何をするべきか
熱中症を疑った場合はまず、涼しい場所で休憩させること。必ず付き添いの者をつけ、周囲の見守りがあることが重要だという。
意識がない場合、水分を自力で摂取(自身で手に飲料水を保持して自分自身で飲水すること)できない場合、水分を自力で摂取しても十分に体調が回復しない場合は、救急搬送の要請が必要となる。
5分程度ですべての症状がなくなったかが回復の目安であるが、自覚症状がなくても全身の体熱感が残っている場合は、救急搬送を要請すること。
熱中症の重症度別の対処法や救急搬送の判断の基準は、日本救急医学会のWebサイトにて確認することができる。
応急処置で十分に体調が回復したとしても、再発の可能性が極めて高いため、屋外活動には復帰させず、涼しい場所で経過を観察し、帰宅後も体調の変化に注意してみるように保護者とのコミュニケーションを密に行うことが大切だ。
Diabetes and hot weather(英国糖尿病学会)
Information and public health advice: heat and health(世界保健機関)
日本救急医学会
熱中症環境保健マニュアル2018(環境省)
[ Terahata ]