健康な生活スタイルによって細胞の老化を抑えられることが、分子レベルで解明された。生活スタイルを改善することで、体を短い期間で作り変えることができると、研究者は強調している。
生活スタイルを改善して、健康的な食事、運動、ストレス管理を実行すれば、細胞の老化を分子レベルで抑え、回復することができるという研究が発表された。この研究は医学誌「ランセット オンコロジー」に発表された。
「生活スタイルによって、私たちの体はダイナミックに変化しています。健康的な生活スタイルを続けていれば、体を細胞レベルで回復させることは可能です。糖尿病やがんなどの慢性疾患をもっている人も、病気と戦う活力を取り戻すことができます」と、カリフォルニア州ソーサリトにある予防医学研究所所長であるディーン オーニッシュ氏は言う。
体にある細胞の大半は、分裂できる回数に限りがあり、寿命がある。これには、染色体の末端に位置するテロメアと呼ばれる塩基配列が深く関係している。細胞が分裂するとテロメア配列が少しずつ失われていく。
「テロメアは細胞に備わった“靴ひもの先端”のようなもので、大切な遺伝情報を保護する役目を担っています。先端の止め具がなくなると、ひもの糸はばらばらにほどけてしまいます」と、カリフォルニア州ソーサリトにある予防医学研究所所長であるディーン オーニッシュ氏は説明する。
ヒトの体の細胞は分裂回数に限りがあり、テロメアの長さは年齢によって一律に決まっていない。テロメアの長さはさまざまな生活スタイルによって変化するため、個人差がある。同じ年齢であっても、テロメアの短い人は、心臓病やがん、糖尿病、骨粗鬆症などになりやすいという研究が報告されている。
生活スタイルを変えれば、体はダイナミックに変化する
研究では、生活スタイルを改善するとわずか5年でテロメアが長くなることが示された。オーニッシュ氏は健康的な生活スタイルとして、次のことを勧めている。
- 健康的な食事
健康的な食生活を実践する手段として、全粒穀物や野菜、果物などのホールフードが勧められている。
ホールフード(Whole Food)とは、食品をまるごと食べるという意味。野菜なら葉から根まで、白米よりも玄米、白パンよりも全粒粉パンを選ぶことで、グリセミック インデックス(GI:炭水化物が消化・吸収される速さを相対的にあらわした数値)を低く抑えることができる。
- 運動の習慣化
適度な運動を習慣化する。1回30分の運動を週に5回以上行うのが目標。
運動をよく行っている人は、糖尿病、高血圧、肥満、心臓病、骨粗鬆症、がんなどの発症率が低下し、病状が改善されることが、さまざまな研究で確かめられている。
運動には、メンタルヘルスや生活の質の改善効果もある。
- ストレスの管理
受動的な緊張緩和にとどまらず、積極的なストレス対策が必要。日常生活の中でストレスを管理する工夫が求められる。
ヨガやメディテーションが心身をリラックスさせ、自律訓練法として有効という報告もある。
- 社会的なサポート
自分の仕事や生活での不安、悩み、ストレスについて相談できる人をもつことは重要。グチやボヤキでもよいので、相談相手をつことが、ストレス管理の改善につながる。
ソーシャルメディアを活用して話し合える相手をもつこともひとつの方法だ。
次は...改善群ではテロメア長さが平均10%増加
オーニッシュ氏ら研究チームは、危険性の低い前立腺がんと診断された男性35人を対象に実験を行った。被験者を2群に分け、10人には生活を全体的に見直し、生活スタイルの改善に努めてもらった。25人は従来通りの生活をした。
生活スタイルを改善した群は、週に1回のミーティングに参加してもらい、専門家より生活改善の指導を受けてもらった。参加者は多くの場合、意欲的に参加したという。
5年後に被験者の血液サンプルを採取し、テロメアの長さを測定したところ。生活スタイルを改善した群では、テロメア長さが平均10%増加していた。対照群では平均3%縮小していた。
「生活スタイルを健康的に変えていくことは、もっとも効果的な薬になります。わずか5年間という短い期間でも、健康的な生活を選んだ人では、テロメアはより長くなりました」と、オーニッシュ氏は強調する。
今回の研究は予備的に行われたものだが、今後の大規模な無作為化比較試験への期待を抱かせるのに十分なものだったという。
「老化を促す要因を取り除くことで、体に備わっている治癒力は強められます。このメカニズムはとてもダイナミックで、短い期間で体を変えることが可能であることが、研究で示されました。大変に感慨深いことです」と、オーニッシュ氏は述べている。
Effect of comprehensive lifestyle changes on telomerase activity and telomere length in men with biopsy-proven low-risk prostate cancer: 5-year follow-up of a descriptive pilot study(Lancet Oncology 2013年9月17日)
予防医学研究所(PMRI)
[ Terahata ]