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2020年06月30日

なぜ運動? 運動により世界の390万人以上の命が救われている 運動はメンタルにも良い

 ウォーキングなどの運動を続けることで、世界で年間390万人以上の命が救われているという調査結果が発表された。
 運動によって身体的な健康だけでなく、心理的な幸福感も得られやすいことも明らかになった。
世界中で運動不足が深刻な問題に
 世界保健機関(WHO)によると、世界の14億人が運動不足で、肥満、2型糖尿病、心血管疾患、脳卒中、がん、認知症などの危険性が高まっている。日本でも3人に1人以上が運動不足だ。WHOは2025年までに世界で運動不足を10%減らすことを目標にしている。

 運動の必要性が呼びかけられた影響で、ウォーキングなどの運動に取り組む人は世界中で増えている。英国のケンブリッジ大学などの研究によると、世界で多くの人が運動による恩恵を受けており、早期死亡のリスクを回避しているという。

 WHOは、ウォーキングなどの中強度の有酸素運動を週に150分以上、あるいは筋トレなども取り入れた強度の高い運動を週に75分間以上、さらには両方を組み合わせて、運動を毎週続けることを推奨している。
運動により年間に390万人以上の命が救われている
 ケンブリッジ大学とエジンバラ大学の研究グループは、運動によってどれだけの恩恵を得られているかを、168ヵ国の40~74歳の人のデータを分析して調べた。

 運動をしている人としていない人の早期に死亡するリスクの推定値を組み合わせて、運動や身体活動により早期死亡の数がどれだけ変わるかを推定した。この研究の成果は、医学誌「ランセット グローバル ヘルス」に発表された。

 その結果、運動により早期死亡が15%減少し、世界で年間に390万人以上の命が救われていることが明らかになった。運動により、米国だけでも年間14万200人、英国では2万6,600人の早期死亡を防止できているという。

 運動を習慣として行っている人は、そうでない人に比べ、年間の早期死亡が平均(中央値)で15%少なく、男性では16%、女性では14%それぞれ早期死亡が減少しているという。
運動のメリットが分かれば続けやすくなる
 「運動不足により健康が損なわれるデメリットばかりが注目されていますが、運動のもたらすメリットについて、もっと強調する必要があります」と、ケンブリッジ大学医療研究会議疫学ユニットのテッサ ストレイン氏は言う。

 「運動不足、不健康な食生活、過度の飲酒、喫煙などの生活スタイルについての研究のほとんどは、これらが健康に及ぼす害に焦点を当てています。しかし、多くの人が求めているのは、そうした生活スタイルを改善することで、どのような利益を得られるかという物語です」と、ストレイン氏は言う。

 「運動を習慣として続けることで、どれだけ多くの恩恵がもたらされるかを理解してもらえば、運動に取り組む人をもっと増やせるはずです」と、エジンバラ大学健康研究センターのポール ケリー氏は指摘する。

 「運動をしていない人は、スポーツでも、ジムでも、ランチタイムの活発なウォーキングでも良いので、いますぐ運動に取り組むべきです。すでに運動をしている人は、そのレベルを高めることで、より多くの利益を得られます」と、ストレイン氏は強調している。
新型コロナの影響で運動不足に アクティブに体を動かす6つの方法
 新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、世界的に運動不足の人が増えている。研究者は、コロナの影響化で運動不足を解消するために、下記のことを勧めている。

・ 毎日外に出て、ウォーキングや自転車など、何でも良いのでとにかく体を動かすことを心がける。
・ 運動に慣れてきたら、ウォーキングの歩幅を拡げたり速度や距離を延ばすなどして、運動のレベルを上げる。
・ 運動の前後に、筋肉や関節のストレッチやヨガなども行う。
・ もしも自由に使える庭があるならガーデニングに取り組むなど、身近でできる身体活動を見つける。
・ 公園や緑地での活動や地域の住人との交流は、メンタル・社会的な健康にもつながる。
・ 最近はインターネットを使ったオンラインの運動セッションも増えている。スマホなどで利用できるものを探してみる。
運動をすると心理的な幸福感も得られやすい
 ケンブリッジ大学などの別の研究では、運動や身体活動によって、身体的な健康だけでなく、心理的な幸福感も得られやすいことも明らかになった。それがどのような運動であっても、また運動量が少ない場合でも、体と心の両方に利益をもたらすという。

 ケンブリッジ大学とエセックス大学の研究グループは、運動と幸福の間の関係を調査するため、スマートフォンのアプリを活用し、1万人以上から大規模なデータを収集した。

 研究グループは、Android向けのスマホ・アプリを開発。スマホの加速度計から活動量を計測し、同時に利用者に1日にランダムに2回、短いテキストを送信し、感情の状態について質問した。利用者にどんなときに活動的か、疲れているか、気分がポジティブであるか、逆にネガティブであるかなどを答えてもらった。

 その結果、適度なレベルの運動や身体活動により、感情的な幸福感を高められることが明らかになった。多くの人は身体的に活発に活動しているときに、より幸福感を得やすいことが示された。1日を通して活動レベルが高い人ほど、感情的な状態が肯定的である傾向も示された。
活発に体を動かす時間を持つことが大切
 「今回の調査により、人々は一般的に活動的であるときに、幸福を感じやすくなることが示されました」と、ケンブリッジ大学心理学部のジェイソン レントフロは言う。

 「個人のベースラインでの幸福感に関係なく、体を活発に動かしているときに、前向きな気分は増えやすくなります。重要なことは、1日を通して活発に体を動かす時間を習慣として持つことです。休憩時間にオフィスの周りを歩くといったことでも効果はあります。マラソンなどの本格的なスポーツをやらなければならないわけではありません」。

 「人々はウォーキングをしたり、スポーツジムに行ったといったことは覚えていますが、デスクからコピー機まで歩く、車からオフィスのドアまで歩くといった日常的な身体活動については記憶していません。しかし、こうした小さな身体活動であっても、積み重なると影響が大きいと考えられます」と、エセックス大学心理学部のジリアン サンドストロム氏は言う。

 「日常生活でなるべく体を活発に動かすことを心がけることが、健康増進だけでなく、メンタル面での健康を維持するのに役立つ可能性があります。そうしたことが、大規模な縦断的研究だけでなく、モバイルのウェアラブルデバイスを活用した研究により明らかになった意義は大きいと言えます」としている。

Physical activity prevents almost four million early deaths worldwide each year(ケンブリッジ大学 2020年6月18日)
Use of the prevented fraction for the population to determine deaths averted by existing prevalence of physical activity: a descriptive study(The Lancet Global Health 2020年7月)
Keeping active or becoming more active in middle and older age linked to longer life(BMJ 2019年6月26日)
Physical activity, even in small amounts, benefits both physical and psychological well-being(ケンブリッジ大学 2017年1月5日)
Happier People Live More Active Lives: Using Smartphones to Link Happiness and Physical Activity(PLOS ONE 2017年1月4日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所

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