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2018年11月21日
慢性腎臓病(CKD)の要因は腎臓での「エネルギー代謝障害」 新たな治療法を開発
慢性腎臓病(CKD)が悪化する原因のひとつは、腎臓でのエネルギー代謝障害だ。東京医科歯科大学などの研究グループが、腎臓のエネルギー代謝を活性化する方法を開発した。成功すれば、低タンパク食による食事療法の代わりになる、新たなCKDの治療法になる可能性がある。
腎臓のエネルギー代謝障害がCKDを悪化
日本腎臓学会によると、慢性腎臓病(CKD)患者数は1,330万人に達する。成人の8人に1人はCKDであり、国民病といえる。日本で透析治療を受けている患者数は32万人を超える。CKDを放置しておくと、透析のリスクが高まるだけでなく、心血管疾患やサルコペニアなどのリスク因子にもなることが明らかになっている。
しかし、CKDの有効な治療法はいまだになく、現状では血圧コントロールや血糖コントロール、食事療法などの保存的な治療に頼るざるをえない。
腎臓は、老廃物の除去や電解質のコントロールなど体内の恒常性を維持するために、大量のエネルギーを必要とする。そこで東京医科歯科大学などの研究グループは、腎臓のエネルギー代謝障害がCKDが悪化する要因と考え、これを引き起こす原因、さらにその治療法を開発することを目指した。
CKDの腎臓ではエネルギー状態が悪化
研究グループは、CKDにおける腎臓内のエネルギー状態や尿毒素などの代謝物の蓄積を評価するため、CKDのマウスの腎臓組織のメタボローム解析を行った。
腎臓には老廃物を尿として排泄する機能があるが、CKDになるとこれが妨げられ、さまざまな毒性を発揮する尿毒素が体内に蓄積する。また、メタボロームは生体内の化学反応によって生成される低分子代謝物で、これを解析することで代謝物の種類や濃度が網羅的に分かる。
アデノシン三リン酸(ATP)は、ATPは生物の生命活動のエネルギーを媒介する物質。ATPからアデノシン一リン酸(AMP)に変わる過程でエネルギーが放出される。研究グループは、CKDの腎臓ではこのAMP/ATPの比率が上昇し、エネルギー状態が健康な腎臓に比べて悪化していることを確認した。
次に、エネルギーセンサーとして重要な役割を果たしているAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)に着目した。AMPKは、細胞内のエネルギー状態を監視し、その状態に応じて糖・脂質の代謝を調節している因子。その機能異常は2型糖尿病、肥満、がんなど、さまざまな病気につながる。
AMPKは、低血糖や低酸素、虚血などのストレスに応答する。健康であれば、細胞内のエネルギーが低下すると、AMPKが活性化してATP産生を促し、体のエネルギー状態は改善する。
治療薬を開発 食事制限の必要のない治療法を視野に
しかし、CKDの腎臓では、AMP/ATP比が上昇しエネルギー状態が悪化しているにも関わらず、CKDによる尿毒素の蓄積や体内環境の酸性化などによって、AMPKが活性化されない「エネルギー不全感知障害」をきたしていることが明らかになった
そこで、研究グループは、AMPKを直接に活性化させる薬剤を開発した。この薬剤をCKDのマウスに投与したところ、腎臓のAMPKが活性化し、腎機能の障害が進行するのを止められることを突き止めた。この薬剤が腎臓の「エネルギー不全感知障害」を改善する、新たなCKDの治療法ととなる可能性がある。
Failure to sense energy depletion may be a novel therapeutic target in chronic kidney disease(Kidney International 2018年11月16日)
[ Terahata ]
日本医療・健康情報研究所
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