糖尿病セミナー

14. 糖尿病による腎臓の病気

2017年4月 改訂

監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
滋賀医科大学名誉教授 吉川隆一先生


年々増加する糖尿病性腎症

糖尿病が原因で透析を受けている人の割合

(2016年現在)
 糖尿病は日常の血糖コントロールがきちんとできていれば、こわい病気ではありません。ところが糖尿病は、発熱したり、からだのどこかが痛くなったりといった自覚症状がないまま病状が進行するため、そのまま放置してしまったり、不適切な治療を行っていると、5年、10年と時間がたつうちに、深刻な合併症を引き起こすことになります。
 糖尿病が原因でよくみられる合併症は、神経障害、網膜症、それに今回紹介する腎症の三つで、これらは糖尿病の三大合併症と呼ばれています。そのうち、網膜症は進行すると失明してしまいますし、腎症では末期腎不全におちいって、生命の維持に透析療法が欠かせなくなります。腎臓は血液が運んできた体内の老化物をろ過し尿として排泄する重要な機能をもっているのですが、腎症が進むにつれ尿を作る機能が低下し、最後には人工腎臓によって腎臓の機能を代行しなければ生きられなくなってしまうのです。
 残念ながらわが国では、こうした糖尿病が原因で透析療法を受ける人が少なくありません。現在透析を受けている人の数は全国で33万人、その38%が糖尿病性腎症によるもので透析導入原因のトップを占めています。さらにこれを最新の年間新規透析患者数でみると43%にも及んでいるのです。しかも、糖尿病で透析を受けている人のその後の経過は、ほかの病気で透析を受けている人に比べると、必ずしもよいとはいえません。
 加えて最近、腎症が進行すると、たとえ腎不全にならなくても、心臓や血管の病気(心臓・血管病)が起きやすくなることが注目されています。むしろそのことが寿命を左右したりします。腎症は、腎臓だけの問題では済まないということです。

原因は高血糖や高血圧

 なぜ、糖尿病が腎症を引き起こしてしまうのでしょうか。
 腎臓は、糸球体と呼ばれる細小血管の塊が集まった組織で、この糸球体が、左右の腎臓のなかに100万個ずつもあります。この糸球体の一つひとつで、血液中の老廃物がろ過される仕組みになっているのです。糖尿病性腎症は、糸球体の細小血管が狭くなり十分に老廃物をろ過できないために起こります。その原因となっているのが高血糖です。
 このように小さな血管に何らかの障害が起こる病気を細小血管症といいます。糖尿病の三大合併症は、すべて細小血管症によるものです。例えば網膜にも、腎臓同様に小さい血管がたくさん分布しています。高血糖は、この小さな血管の正常なメカニズムを長い時間かけて徐々に変えてゆき、障害を引き起こしていくのです。
 腎症の場合、高血糖に加えて高血圧、高食塩・高タンパクの食習慣、肥満、脂質異常症などが増悪因子で、それらにより進行に拍車がかかることが知られています。

糖尿病性腎症発症のメカニズム

 腎臓の糸球体では、正常な場合、タンパク質や赤血球や白血球などはろ過せず、水や電解質(ミネラル)、老廃物だけを通過させ、尿のもとをつくります。しかし高血糖が続くと、この糸球体の血管が硬化し血管が狭くなると同時にろ過作用が低下し、だんだんとタンパク尿が出るようになります。そしてついには尿が出にくくなって、老廃物が体にたまって尿毒症になります。

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