13. 結婚から、妊娠・出産

2014年11月 改訂

妊娠前から出産まで血糖値を正常化する

 1型か、2型かという糖尿病のタイプにかかわらず、母子ともに健やかな出産を迎えるためには、妊娠前から出産まで血糖値を正常化する(糖尿病でない人と同じ血糖レベルを保つ)ことが第一です。そして、合併症がないか、あっても治療を受けて状態が安定していることが第二です。
 もしこの条件を満たさずに妊娠してしまうと、赤ちゃん(胎児)には奇形や子宮内胎児死亡など、母親には網膜症の急速な進行による視覚障害、腎症の悪化、妊娠高血圧症候群(旧:妊娠中毒症)など、いろいろなトラブルが起きやすくなってしまいます。
 ここで注意していただきたいことは、厳格な血糖コントロールを「妊娠してから」始めるのではなく「妊娠前から」、つまり妊娠を希望した時から始めるという点です。その理由は、妊娠が成立してから本人が気付くまでに、ふつう数週間のタイムラグがあるからです。
 胎児のからだの基本的な部分は妊娠成立後の数週間でかたちづくられます。仮にこの間の血糖コントロールがよくないと、胎児の奇形が生じやすくなってしまいます。また、合併症の治療のために薬を服用している場合も、その確率を高めてしまう可能性があります。

妊娠前からインスリン療法に切り替え

「妊娠OK」と医師が判断し計画妊娠がスタートすると、ふだん飲み薬やGLP-1受容体作動薬で治療している患者さんも、インスリン療法に切り替えます。その理由は二つあり、一つはインスリン療法のほうが血糖値を狙いどおりに管理しやすく厳格なコントロールに適していること、二つ目は飲み薬の成分が胎盤を通過して胎児の低血糖を起こしかねないからです。

血糖自己測定が欠かせません

 妊娠の経過とともにインスリン抵抗性が生じて血糖値が上昇してきます。それに合わせ必要なインスリン注射量が、いつもの1.5〜2倍ぐらいに増えます。
 逆に、つわりのために食事量が減ったり、胎児の血糖利用が優先される影響で低血糖も起きやすくなります。また、「高血糖にならないように」と食事の量を減らし過ぎることで低血糖気味になり、ケトン体が陽性になることがあります。ケトン体は胎盤を通って胎児に悪影響を及ぼします。それを防ぐには、必要なだけしっかり食べ、それに合わせて必要なインスリンをしっかり注射しなければいけません。
 このような複雑な変化に上手に対応するため、血糖自己測定をこまめに行う必要があります。測定結果をみながらインスリンの注射量を調整する方法を覚えてください。「血糖の正常化」とは、高血糖はもちろん低血糖も可能な限り減らすという意味です。なお、最近はインスリンを自動で連続注入できる器械があり、妊娠中に使うケースが増えてきています。

目標はグリコアルブミン15.8%未満

 妊娠中、通院時にはグリコアルブミン(GA)検査でコントロール状態が確認されます。GAは採血時から過去1〜2週間の血糖値と相関するので、コントロールが悪化した場合にもHbA1cより素早く把握できるからです。また妊娠中、HbA1cは実際の血糖状態との乖離が大きくなることがありますが、GAはあまり乖離しません。日本糖尿病・妊娠学会では、妊婦の血糖推移と妊娠に伴う合併症に関する学術研究を行い、その結果から「GA15.8%未満」をコントロール目標として推奨しています。

コントロールにはげみましょう
血糖値の目安

妊娠前
食前血糖:100mg/dL未満、
食後2時間血糖:120mg/dL未満、
HbA1c:7%未満
妊娠中
食前血糖:100mg/dL未満、
食後2時間血糖:120mg/dL未満、
グリコアルブミン:15.8%未満、
HbA1c:正常範囲(4.6〜6.2%)
食事療法

太りすぎに要注意
難産の引き金になります
妊婦だからといって食べすぎは禁物。妊娠にともなう体重増加は6〜8kgまでに
妊娠後期の体重増加の目安は1週間で300g以内に

食品交換表を活用して、自分でエネルギー量が計算できるようになり、カロリーを抑えた献立を
妊娠前半は1日150kcal、後半は350kcalを妊娠のためのエネルギーとして追加摂取。基本カロリーは標準体重1kgあたり30kcal
妊娠高血圧症候群予防のために、塩分は1日10g以下に
赤ちゃんの発育のために、鉄分とカルシウムをしっかりと
良質の蛋白質とミネラル、ビタミン類をたっぷりと
運動療法

適度な運動でインスリンの働きを活性化
妊娠前から決まった時間に15〜30分程度の運動を(妊娠中は医師の指導に従って)
出産のための筋肉を鍛えるために1日30分の散歩を

妊娠中のトラブルの予防と治療

 血糖コントロールを良好に保つことはもちろんですが、それ以外にもいくつか知っておくべきことがあります。

合併症の悪化

 網膜症と腎症は、妊娠によって悪化しやすい合併症です。妊娠前に網膜症があるか、ある場合でも妊娠に耐えられるかをチェックすることが大切です。
 妊娠前から血糖コントロールを良好に保つのが一番の予防法ですが、網膜症のあるまま妊娠した人は、少なくとも1カ月に1回以上の眼底検査を受けます。今ではレーザー光凝固術という出血を防止する治療が行われるようになり、適切な時期に治療を受ければ、網膜症の進行を食い止めることができるようにもなっています。
 腎症の場合も、腎機能がかなり低下するまで自覚症状が出てきません。そのため、定期的に腎機能検査を受けることが大切です。

妊娠高血圧症候群(旧:妊娠中毒症)

 妊娠によって高血圧や尿蛋白などが現れた状態です。子宮内胎児死亡の原因ともなる胎盤の早期剥離が起きやすくなったりします。以前は「妊娠中毒症」と呼ばれていましたが、さまざまな症状のおおもとは、妊娠によって引き起こされた高血圧であることが明らかになって以降、「妊娠高血圧症候群」と呼ばれるようになりました。
 予防法は、低塩分、低カロリー、高蛋白な食事を心がけることです。とくに塩分は1日10g以下(治療の際は7〜8g以下)に抑えます。バランスのよい食事、良質の蛋白質の吸収をよくするミネラル、ビタミンにも気を配ってください。

羊水過多症

 妊娠後半から臨月にかけて羊水は徐々に減っていくのが一般的ですが、羊水の量が異常に多いままの状態を羊水過多症といいます。母親の血糖が高いと起こりやすく、羊水過多症と診断されたら早産予防のため、安静入院を指導されます。

膀胱炎・腎盂炎・腟炎などの感染症

 妊娠すると一般に膀胱炎や、腎盂炎、腟炎、カンジダ腟炎、トリコモナス腟炎にかかりやすくなるのですが、糖尿病の妊婦さんの場合、発症率が一般の妊婦さんより高い傾向がみられます。とくに膀胱炎は、約6倍も発症しやすいという調査もあります。排尿後の痛み、残尿感があるときは、早めに受診しましょう。腎盂炎は、腎盂腎炎を起こし、さらに腎機能を悪化させます。

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