糖尿病セミナー
10. 糖尿病生活Q&A
2016年9月 改訂
監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生
編集
高岡ふしき病院糖尿病センター センター長 小林 正 先生
糖尿病といわれたら
よい血糖コントロールを続けていれば、糖尿病があっても、健康な人と変わらない生活を送ることができるといわれています。では、健康な人と変わらぬ生活とは、どんな生活なのでしょうか。自由で活動的で、快適さのある生活というふうにいえるのではないでしょうか。糖尿病の初期は、合併症は気配すらみせないので、コントロールはついおろそかになりがちです。しかし、コントロールが不十分な状態が続くと、さまざまな合併症が発症し、その進行とともに、生活から快適さや自由さは確実に失われていきます。そして、失明や透析、下肢切断といった最悪の事態に至ります。
そうしたことにならないよう、糖尿病の治療では、よいコントロールを保ち続けることが、何よりも重要です。糖尿病と診断されて、落ち込まない人はいません。しかし、1日も早く立ち直って、積極的に治療にはげみ、糖尿病と仲良く暮らしていきたいものです。
ここでは、治療に役立つ日常生活上の知識を、Q&Aでご紹介しましょう。
Q1 太るとなぜ糖尿病によくないのでしょうか?
A 血糖が上がる原因として、インスリンの分泌力が低下することと、筋肉などの組織でインスリンの感受性が低下することの、ふたつがあります。太ると脂肪の量が増え、インスリンの感受性が低下するので、血糖がますます上がって、糖尿病が悪化します。最近、インスリンの分泌や効き目を改善する薬も出てきていますが、そうした薬に頼るより、インスリンの感受性を増すために、まず食事量を減らし、標準体重にすることが大切です。太ると、糖尿病を悪化させるだけでなく、動脈硬化や高血圧などの生活習慣病も、合併しやすくなります。
Q2 ストレスが糖尿病に与える影響を教えてください。
A ストレスは、過食、運動不足とともに、糖尿病の3大原因のひとつです。そればかりか、病状を悪化させる大きな要因でもあります。怒ったり興奮したり、時間に追われてイライラするといったストレスを感じると、体内ではカテコールアミンが大量に分泌されるので、インスリンの分泌や感受性が低下し、血糖が上がります。そのため、毎日の生活からストレスを減らす工夫が、治療上も非常に大切です。みなさんのライフスタイルにあった方法で、解消に努めてください。最近普及してきた、自律神経を強くする訓練なども有効ですが、何より重要なのは、働き過ぎず、リラックスする時間をもつことでしょう。
Q3 補食が必要な場合は、どんな時ですか?
A 補食は、ふだんより活動量が増えた時などに、低血糖を防ぐためにとる一時的な食事で、山登りや水泳など強い運動の時、長時間運動する時、体育の授業の時などに、とるものです。薬物療法の人はとくに必要です。補食をとらないで、薬物を減らして調整する方法もありますが、計算が簡単ではなく、インスリンを減らし過ぎる危険もあり、困難です。インスリンは、ぶどう糖の代謝だけでなく、成長期には身体の成長などの代謝にも必要ですので、このような時期に、運動のためにインスリンを極端に減らすことは、避けるべきです。
とくに、低血糖が起きやすい厳格な薬物療法の場合には、補食の上手な活用が欠かせません。
Q4 天気が悪い時の運動には、どんな方法がありますか?
A プールなどで泳ぐ方法が一番よいのですが、そのような施設はなかなか見当たりません。雨の日に傘をさして歩くのも方法ですが、交通事故などの心配もあります。梅雨どきや、雪が多い地域では、室内で簡単にできる自転車エルゴメータがよいでしょう。最近では、安くて静かでいいのが出回っています。
雪の多い地域の場合は、マウンテン・スキーで、雪上を歩くのもよい方法かもしれません。
Q5 運動療法ができない場合は、どんな時ですか?
A 運動療法に制限があるのは、合併症があって、しかも進行している場合です。軽い合併症があっても、歩行など中程度の強さの運動であれば、まず問題はありませんが、走る、泳ぐといった強い運動は、かえって病状を悪化させます。腎症、増殖網膜症、狭心症、眼底出血、下肢の動脈硬化による動脈の閉塞などがある場合は、禁止か、制限があります。合併症の程度や年齢などの違いもあるので、状態に応じた運動を主治医に処方してもらい、その範囲内で運動します。
Q6 経口薬を飲み忘れた時の対応は?
A 経口薬を服用し始めの頃には、よくあることです。糖尿病は、規則正しい生活をし、薬も決められた時間に飲むのがよいのはいうまでもありませんが、1回くらい飲み忘れても、それで合併症が一気に進むことはまずありません。SU薬などの朝夕に1回または2回飲む薬の場合、1〜2時間程度の遅れならふだんの量をそのまま、数時間以上の遅れなら半分に減らして飲みます。忘れたからと2回分まとめて飲むと、低血糖の原因になります。食後過血糖改善薬のように食前に飲む薬の場合は、食後に飲んでもあまり意味がないので、次から忘れずに飲むようにしてください。
Q7 インスリンを打ち忘れた時の対応は?
A インスリンを忘れた場合に大切なのは、量を打ち過ぎないことです。経口薬にくらべてインスリンは効き目が早く、時間単位で効いてくるからです。打ち忘れに気付いたら、まず落ち着いて血糖値を測り、その状態に合った量を注射するのが、原則です。量の加減は個人差もあるので、主治医と相談して、ある程度の目安を事前に決めておきましょう。コンテンツのトップへ戻る ▶
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糖尿病3分間ラーニングは、糖尿病患者さんがマスターしておきたい糖尿病の知識を、 テーマ別に約3分にまとめた新しいタイプの糖尿病学習用動画です。
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- 03. 運動療法のコツ(1) 基礎
- 04. 高齢者の糖尿病
- 05. インスリン療法(2型糖尿病)
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- 06_1. 生活の中にどう生かす血糖自己測定 『生活エンジョイ物語』より
- 07. 肥満と糖尿病
- 08. 小児の糖尿病(1) 基礎
- 09. 薬物療法(経口薬)
- 10. 糖尿病生活Q&A
- 11. 糖尿病用語辞典(より簡潔に)
- 12. 病気になった時の対策 シックデイ・ルール
- 13. 結婚から、妊娠・出産
- 14. 糖尿病による腎臓の病気
- 15. 糖尿病による失明・網膜症
- 15_1. 眼科医からみた失明しないためのアドバイス 『生活エンジョイ物語』より
- 16. 糖尿病と脳梗塞・心筋梗塞
- 17. 足の手入れ
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- 18_1. 糖尿病からの危険信号神経障害 『生活エンジョイ物語』より
- 19. 糖尿病の検査
- 20. 低血糖
- 21. 食事療法のコツ(2) 外食
- 22. 糖尿病の人の性
- 23. 口の中の健康
- 24. 動脈硬化と糖尿病 メタボリック シンドローム(代謝症候群)
- 25. 糖尿病と感染症
- 26. 食事療法のコツ(3) 腎症のある人の食事
- 27. 糖尿病と高血圧
- 28. 小児の糖尿病(2) 日常生活Q&A
- 29. 運動療法のコツ(2) 合併症のある人の運動
- 30. 骨を丈夫に保つには
- 31. 痛風・高尿酸血症と糖尿病
- 32. 糖尿病予備群
- 33. 小児2型糖尿病
- 34. 糖尿病とストレス うつとの関連、QOLの障害