糖尿病セミナー

9. 薬物療法(経口薬)

2014年9月 改訂

監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
自治医科大学名誉教授 葛谷 健 先生


 日本人の糖尿病の大多数を占める2型糖尿病は食事療法と運動療法が治療の基本です。それだけでは思うように高血糖を改善できないときに薬物療法を始めます。多くの患者さんでは、最初は飲み薬(経口薬)を使います。糖尿病の経口薬がどのように血糖値を下げるのかを知っていただくため、まずは、ふだん血糖値がどのようにコントロールされているのか、からだの中を覗いてみましょう。

からだの中で血糖値が上下動する仕組み

血糖値に関係する臓器や組織

①膵臓〈すいぞう〉
 膵臓は、インスリンやグルカゴンなどのホルモンを分泌しています。インスリンは血糖値を下げるホルモンで、グルカゴンはその反対に血糖値を上げるホルモンです。インスリンの分泌が減ったり、グルカゴンの分泌が増えたりすると、高血糖になります。
②肝臓〈かんぞう〉
 肝臓はインスリンの働きを借りて血液中のブドウ糖(血糖)を取り込みグリコーゲンとして貯蓄したり、グルカゴンの働きを借りてブドウ糖を作り血液中に血糖として放出します。インスリン作用の不足やグルカゴンの分泌が多すぎるために、前者の働きが弱まったり後者の働きが過剰になると、高血糖になります。
③筋肉
 筋肉はインスリンの働きを借りて血液中のブドウ糖(血糖)を取り込み、エネルギー源として利用します。インスリンの作用不足などのために筋肉での血糖の取り込みが少なくなると、高血糖になります。
④内臓脂肪
 インスリンの作用を邪魔する物質を血液中に放出したりして高血糖を招きます。
⑤小腸
 食べた物(炭水化物)を消化吸収し、ブドウ糖として体内に取り込みます。食事療法が適切でなく、取り込まれるブドウ糖が過剰な場合は高血糖になりやすくなります。
⑥十二指腸や小腸
 食後にインクレチンというホルモンを分泌します。インクレチンは膵臓からのインスリン分泌を促し、グルカゴン分泌を抑えるので、血糖値が下がります。
⑦腎臓〈じんぞう〉
 腎臓は血液中の不要物をろ過して尿に出す臓器です。その最初の過程は大雑把で、ろ過したもの(原尿といいます)の中に、まだからだに必要なものが残っています。そこで、ろ過の二番目の過程では、原尿の中にあるからだに必要なものを再度、血液中へ戻します(再吸収といいます)。ブドウ糖もからだに必要な栄養素なので再吸収されるのですが、高血糖状態ではブドウ糖を再吸収しきれず一部が「尿糖」として排泄されます。

インスリンの作用を左右する2つの要素

①インスリン分泌量の減少
 膵臓から分泌されるインスリンは、血糖値を下げる唯一のホルモンです。その分泌量が少なくなると、高血糖になります。

②インスリン抵抗性
 からだのインスリンに対する感受性が弱まり、その作用が低下することを「インスリン抵抗性」といいます。インスリン抵抗性があると、インスリンの分泌量がかなり保たれていても高血糖になります。

 以上のように血糖値はいくつかの臓器や組織の働きと、インスリンの作用を左右する2つの要素で決まり、それらのどこかがおかしくなると高血糖になってしまいます。そのおかしくなった部分に働いて血糖値を下げる飲み薬が「経口血糖降下薬」です。

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