いま、1型糖尿病は
2008年10月15日
糖尿病の国際学会とドーンユース国際調査発表会2008
2008年6月初旬の5日間、例年のごとくアメリカ糖尿病学会が開催されました。今年はサンフランシスコでした。6月の米国糖尿病学会(ADA)、9月の欧州糖尿病学会(EASD)はローマでした。この2つの学会は、世界の糖尿病の研究、治療のトレンドをみるのには格好の集会です。
10年前、15年前の学会の様子と比べますと、糖尿病の発症、予防、治療において、大きな進歩があったなと思います。大学における研究、企業における研究、新しいインスリン製剤、新しいインスリンデバイス、いずれも魅力的なものです。また、米国と欧州の考え方の違いも見受けられます。これはこれでおもしろいものです。
帰国しますと、得た情報を他の医師と共有します。新しい情報がすぐ明日の治療に結びつくことは少ないのですが、昨今はDCCTのような大規模研究が次々と発表され、少しでも新鮮な情報にふれて日々の外来で皆さんとの会話の中に、ちりばめていくことができます。世界中の研究者や医師が、1日でも早く、糖尿病を予防したい、合併症の薬を見つけたい、すばらしいインスリン製剤を作成したい、とがんばっている雰囲気にふれて、我々もがんばるぞーという気持ちになります。
インスリン遺伝子異常の発表ばかりのADAもありました、インスリン受容体異常症についての多くの発表に明け暮れたADAもありました。発表 を待つ、ということもありました。
発表 されたことです。これらの調査に入った(臨床試験に入るのと同じ考えです)2型糖尿病患者さんは、すでに診断されてから5年とか10年を経過した患者さんです。ですから、すでに合併症をもっている患者さんが多かったのです。
このような2型糖尿病患者さんを大勢集めて、飲み薬やインスリン治療で血糖コントロールを良くして数年経過してから調査すると、予後が良くなるという研究結果と必ずしも予後 が良くならなかったという研究結果に分かれました。どうしてか?とまたいろいろな角度から追加結果が発表されました。9月のEASDが終了した時点ではいまのところ、発症後の罹病期間が長くなった2型糖尿病患者さんの場合は、ゆっくりと血糖コントロールするくらいで良いのではないか、発症して間もない時期の2型糖尿病患者さんには速やかに血糖コントロールするほうが良い、というコンセンサスが得られつつあると感じています。
2つめには、2型糖尿病患者さんの血糖コントロールと合併症の関係を調査したUKPDSのその後の結果が発表されたことです。DCCTのEDIC調査のようなものです。UKPDSの強化コントロール群と従来コントロール群はUKPDSの終了後は年々ともにだんだん同じHbA1cになっていきました。つまり前群のHbA1cは少しし上昇し、後群は少し良いHbA1cで経過したわけです(両群とも参加人数は半分になってしまいましたが)。
そして、UKPDS終了後約10年してから、合併症がどうなっているかが調査されました。細かい血管合併症も大きな血管合併症も、ともにUKPDS時代の強化コントロール群の患者さんが統計的に有意に発症しにくいことがわかりました。メタボリックメモリーという言葉は使わずに、良い血糖コントロールの遺産効果(legacy effect of improved blood glucose effect)という言葉が使われました。遺産、すばらしい言葉ですね。10年間良好な血糖コントロールしておくとその後に少しHbA1cが悪くなっても合併症は発症しにくい、というわけです。残念ながら、血圧に関しては、過去の遺産は引き継がれませんでした。
この結果はDCCT/EDICの結果とまったく同じで、とても勇気付けられる、活力の出る結果です。
6月にサンフランシスコで開催された「米国糖尿病学会」を伝える紙面と、9月にローマで開催された「欧州糖尿病学会」のポスター |
帰国しますと、得た情報を他の医師と共有します。新しい情報がすぐ明日の治療に結びつくことは少ないのですが、昨今はDCCTのような大規模研究が次々と発表され、少しでも新鮮な情報にふれて日々の外来で皆さんとの会話の中に、ちりばめていくことができます。世界中の研究者や医師が、1日でも早く、糖尿病を予防したい、合併症の薬を見つけたい、すばらしいインスリン製剤を作成したい、とがんばっている雰囲気にふれて、我々もがんばるぞーという気持ちになりま
学会ハイライトに変遷
それぞれの学会は、それそれ記憶に残るハイライトをもっています。
1型糖尿病の発症機序、特に主な自己抗原がGAD(グルタミン酸脱炭酸酵素)であることが発見された年のADA、
DCCT(1型糖尿病患者を対象にした、血糖コントロールをすれば糖尿病性神経障害、網膜症、腎症のそれぞれを、発症、進展とも防止できることを調べた研究)の発表時のADA、
UKPDS(2型糖尿病患者を対象にした、血糖コントロールをすれば糖尿病性細小血管合併症を発症、進展とも防止できることを調べた研究)が発表されたEASD、
DPP(境界型程度の方を対象に、生活改善、数種の経口薬服用のどれがもっとも2型糖尿病への移行をおこしにくいかを調べた研究)、DPT-1(1型糖尿病発症危険度の高い人においてインスリンの予防注射が1型糖尿病発症を予防するかどうかを調べた研究)の発表 がなされた年のADA、
などがいますぐ思い出すことのできるところです。DCCT(1型糖尿病患者を対象にした、血糖コントロールをすれば糖尿病性神経障害、網膜症、腎症のそれぞれを、発症、進展とも防止できることを調べた研究)の発表時のADA、
UKPDS(2型糖尿病患者を対象にした、血糖コントロールをすれば糖尿病性細小血管合併症を発症、進展とも防止できることを調べた研究)が発表されたEASD、
DPP(境界型程度の方を対象に、生活改善、数種の経口薬服用のどれがもっとも2型糖尿病への移行をおこしにくいかを調べた研究)、DPT-1(1型糖尿病発症危険度の高い人においてインスリンの予防注射が1型糖尿病発症を予防するかどうかを調べた研究)の
インスリン遺伝子異常の発表ばかりのADAもありました、インスリン受容体異常症についての多くの発表に明け暮れたADAもありました。
学会会場の雰囲気
センセーショナルな発表があるぞとわかった年の学会は、早めにその会場(たいていは一番大きな会場で、会場が大きすぎて壇上の演者が米粒大に見えるのが普通)に入り、大きなモニターが良く見える良い席を確保します。マスコミの集音マイク(長い金属の棒の先についている)の林立した中で、席を確保できなかった聴衆が壇上近くの床に座り込んで2008年のADA、EASD
さて、本年のADAやEASDのハイライトのひとつめは、血糖コントロールすればするほど2型糖尿病患者さんの予後を良くするのかというテーマに対する大規模調査研究の結果が次々とこのような2型糖尿病患者さんを大勢集めて、飲み薬やインスリン治療で血糖コントロールを良くして数年経過してから調査すると、予後が良くなるという研究結果と必ずしも
2つめには、2型糖尿病患者さんの血糖コントロールと合併症の関係を調査したUKPDSのその後の結果が発表されたことです。DCCTのEDIC調査のようなものです。UKPDSの強化コントロール群と従来コントロール群はUKPDSの終了後は年々ともにだんだん同じHbA1cになっていきました。つまり前群のHbA1cは少しし上昇し、後群は少し良いHbA1cで経過したわけです(両群とも参加人数は半分になってしまいましたが)。
そして、UKPDS終了後約10年してから、合併症がどうなっているかが調査されました。細かい血管合併症も大きな血管合併症も、ともにUKPDS時代の強化コントロール群の患者さんが統計的に有意に発症しにくいことがわかりました。メタボリックメモリーという言葉は使わずに、良い血糖コントロールの遺産効果(legacy effect of improved blood glucose effect)という言葉が使われました。遺産、すばらしい言葉ですね。10年間良好な血糖コントロールしておくとその後に少しHbA1cが悪くなっても合併症は発症しにくい、というわけです。残念ながら、血圧に関しては、過去の遺産は引き継がれませんでした。
この結果はDCCT/EDICの結果とまったく同じで、とても勇気付けられる、活力の出る結果です。
ドーンユース国際調査記者発表会 in Roma
欧州糖尿病学会(EASD2008)の機会に便乗して、この連載のNo.36でお話した「ドーンユース国際調査」の結果が世界77ヵ国からの記者を集めて、世界にプレスリリースされました。
2008年9月ローマで開かれたDAWN Youth(ドーン ユース)調査の発表会について、下記サイトで紹介されています。
日本におけるDAWN Youth調査研究の結果について、社団法人日本糖尿病協会のサイトで紹介されています。
(編集部)
DAWN Youth (ドーン ユース)のグローバル調査結果をローマで発表 ノボ ノルディスク ファーマ(株)
日本におけるDAWN Youth調査研究の結果について、社団法人日本糖尿病協会のサイトで紹介されています。
日糖協の調査研究 (社)日本糖尿病協会)
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