私の糖尿病50年-糖尿病医療の歩み
33.神経障害のビタミン治療
糖尿病の人達は、血糖が高くても苦痛はないが、神経障害でさいなまされるのがつらい。内服してすぐ苦痛がなくなる薬があればよいが、それもない。
1951年に米国のクリーブランドの医師が4人で糖尿病の神経障害の本を出版しているが、そこに記されている治療法は、ビタミンや肝臓エキスの他は少量の睡眠薬やコデインなどである。
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最初は三共KKのヒドロキソコバラミンであったが、当時我々は神経障害について関心が低く、したがって治療効果については、ビタミン剤投与前と後とで症状を示した調査票に○印を付けてもらい比較した。近年はnarrativeが流行しているが、当時の報告(新薬と臨床 13巻7号:719-722,1964)をみると11人の方々の経過の要約が掲載されている。ヒドロキソコバラミンは1960年にシアノコバラミンに較べて強力と米国から報告された。1日1000μgを連日皮下注射し神経痛様疼痛のあるものでは全例に効果を認めた。知覚麻痺の改善されたのは11人中1名で、腱反射の改善されたのは2名であった。無効の症例にはVB1やVB6の併用を行った。
ヒドロキソコバラミンの注射剤治験が終わると山之内製薬からその経口剤(Y-400)の治験を依頼された。
1錠50μgで1日9錠(450μg)を服用さし、著効:すべての神経症状が完全に消失し、しかも容易に再発しないもの。有効:一部の症状が完全に消失し再発のみられないもの。やや有効:一時的改善のみられたもの。無効:全く変化のみられないもの。このような判定基準で18例をみると著効2例、有効8例、やや有効6例、無効2例であった。腱反射が改善したもの9例、不変8例、憎悪1例であった(診療と新薬 2巻11号:1965)。
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VB3剤の合剤ビタメジン(ビオタミン25mg、B6 25mg、B12 250μg)の治験を終えて、注射用ビタメジンの治験を依頼されたときはMNCVの測定を行った。3m/秒以上の改善を示したのは筋注では13例中2例で他は不変か低下を示した。静注用のビタメジン(B1 100mg、B6 100mg、B12 1000μg)を静注し10、30、60分とMNCVを測定した。25例について測定し全体の平均では10分後 +1.9%、30分後 -0.2%、60分後 +0.9%で、有意の変動は認められなかった(ビタメジン文献等 1、5-8:1966)。
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弘前大学に移ってからは東北地方や水戸の糖尿病クリニックも一緒になってダブル・ブラインドの治験も行った。ビタメジンの治験では終わりに近づいた頃に開かないで欲しいという会社側からの希望があり、治験医師を廻って事情を説明し、もう一度同じことをやり開鍵して差が出て、ビタメジンの命はつながった。
治験の結果を判定する委員には色眼鏡で見る人もいる。著者は1970年代の丸山ワクチンブームのとき癌の臨床家が治験をやらないのをみて研究班を組織し289症例について二重盲検試験をやった。有効だった膵癌例をそんなに長生きしているのは誤診だろうと勝手に判定して結果を歪曲しようとした審査委員に大いに怒ったことがある。当時の癌臨床家はまみれていた。
(2005年09月03日更新)
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