第7章 看護職者の方々へ
1. さあ、看護職者の出番です!
(1)糖尿病と妊娠の医療の狭間~内科スタッフは妊娠・出産が苦手?

糖尿病と女性のライフサポートネットワーク
桜庭 咲子
(弘前大学医学部附属病院 糖尿病看護認定看護師 日本糖尿病療養指導士)

日々のケアのなかで、若い糖尿病を持つ女性への支援に苦手意識を抱いたことはありませんか?
 内科外来に勤務する私は、「診察の時に、主治医に血糖変動の理由を聞かれたけど、生理だからとは言えなかった」との糖尿病女性の言葉に、医師との間に入り支援ができてなかった経験がありました。また、「計画妊娠が大事です」と言いつつも避妊について伝えられなかったり、話題にできなかったりすることもあります。皆さんは、性や妊娠・出産について話しにくさを感じることはないでしょうか。 看護職者に1型糖尿病を持つ女性の性と妊娠・出産に関する意識について調査した結果では、助産師は11.4%の方が、「意識・考えたことがない」と答えたのに対し、看護師は32.6%という結果でした。また、「意識したり、考えたことはない」と答えた医師・看護職者の89.8%が、性と妊娠・出産に関する支援を「あまり支援できていない」「全く支援できていない」と答えました。1)
なぜ、性と妊娠・出産の支援についてこのように感じてしまうのでしょう?
 支援できていない理由として、調査結果では、「患者から直接の訴えがない」「対応する時間や場の不足」「性と妊娠・出産に関する知識不足」が挙げられていました。1)
 当研究会では、糖尿病を持つ女性と看護職者のためのセミナーを開催しています。 そこに参加された看護職者は、糖尿病女性の妊娠・出産に対する支援について「どこまで踏み込んでいいのか。妊娠・出産は個人的なことでもあるので・・・」「現場で若い糖尿病女性と接し、結婚や妊娠を悩んでいるのかと思っているが、そのような話をなかなか切り出せないでいる」「きちんと支援ができるほどの糖尿病女性の妊娠についての知識が充分ではない」「若い糖尿病女性と接する機会がない」と語っていました。このような思いは、糖尿病と妊娠の医療の狭間から生じているのかもしれません。糖尿病女性にとっては、連続した人生のステージなのですが、糖尿病は内科、お産は産科と切り分けられてしまっている医療体制のために連携が図れずに、患者の悩みや思いへの看護者の対応が不十分なものになっているのかもしれません。
さぁ、私たち看護職者の出番です!
 一歩を踏み込んで、糖尿病女性の話を聞いてみませんか?もしかしたら、「相談したかった」「話を聞いてみたいと思っていた」という言葉が返ってくるかもしれません。もし、答えに困った時には「じゃあ、次までに情報を入手しておくね」という言葉を返せばよいと思います。知識が不足していると感じたら、このホームページをご活用下さい。また、「じゃあ、助産師さんと話をしてみない?」と専門家を紹介してみるのも良いと思います。糖尿病女性に関わる医療者が相互に連携を図る機会にもなります。そうした最初の一歩が、糖尿病と妊娠の医療の狭間をつくらないケアの始まりになるでしょう。一緒にチャレンジしてみませんか?

引用・参考文献
  • 1)田中佳代,中嶋カツヱ,堀大蔵,和﨑陽子,1型糖尿病を持つ女性のリプロダクティブヘルスに関する問題の構造化―医療従事者の意識と支援状況の関連―.母性衛生,46(3),p224,2005.
(2023年02月 公開)
目 次
第1章 基礎講座編
1. 糖尿病と女性のからだ
2. あなたと私のための糖尿病基礎講座
第2章 子どもたちのこころとからだと糖尿病のある生活
1.糖尿病とともにある子どもたち―幼児―
2.糖尿病とともにある子どもたち―学童―
3.糖尿病とともに大人の女性への階段を登る―思春期―
第3章 大人の女性として(青年期)“女性が知っておいた方がいいことって?”
第4章 女性が生命を繋ぐその瞬間(とき)に〜妊娠・出産編
第5章 大変だけど、楽しい。子育てまっ最中の時に
第6章 次の世代を見守りながら育む時を(どう)過ごすか
第7章 看護職の方々へ
1. さあ、看護職者の出番です!
番外編 明日からの糖代謝異常妊婦のケアを考えよう

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