第1章 基礎講座編
1. 糖尿病と女性のからだ
(6)女性の一生には特有の身体とこころの変化がある!?〜糖尿病患者としてではなく、糖尿病と共にある「女性」としての生き方を〜

糖尿病と女性のライフサポートネットワーク
田中 佳代
(久留米大学医学部看護学科 母性看護学・助産学 教授)
青木美智子
(千葉中央メディカルセンター 糖尿病看護認定看護師)

 「第1章 1.糖尿病と女性のからだ」で紹介したように、女性には男性と異なる特有の身体の変化があります。女性の生涯にわたる生活は、こうした特有の身体的変化に大きく影響を受けます。そのため、心理的・社会的・身体的な側面から女性の一生を考える必要があります。こうした女性の生涯にわたる健康を多方面からとらえる考え方を「ウィメンズヘルス」と言います。今回は、ウィメンズヘルスと糖尿病を持つ女性のからだとこころ関係についてお伝えし、糖尿病と共にある「女性」としての生き方を考えるきっかけにしていただけたらと思います。

「ウィメンズヘルス」ですか・・・あまり耳にしない言葉ですが、具体的にはどのようなことですか?
手術服
 そうですね。では、女性の身体的な特徴からお話ししますね。最も顕著なのは、"周期性"です。この"周期性"とは、性ホルモンの働きが盛んになる思春期から更年期にわたり、月経(生理)が周期的に訪れることです。前頁でもお話ししたように、性ホルモンの影響で受精に向けて女性の体の中では、子宮の内膜の変化や卵子の基となる卵胞が発育し、排卵といった準備が行われています。受精・着床が成立せず妊娠に至らなかった場合、次の妊娠に向けての準備をするため、受精卵を受けとめようと準備していた子宮の内膜などが月経として体外に排出されます。このような一連の変化が一回の月経周期の間に行われています。

女性のからだの  月経が始まる思春期以降の女性には、この性ホルモンや子宮・卵巣の変化が身体や心理面に影響し、月経前症候群や月経随伴症状が生じたり子宮内膜症などの疾患につながったりする場合もあります。
 また、性ホルモンが充分に働かないことで月経が発来しなかったり、途中で来なくなったりする続発性無月経や、不規則な月経となる月経不順も起こります。性ホルモンが減少してくる更年期では更年期障害が生ずることもあります。

他に、女性に特有な健康に関することって、
どのようなものがありますか?
手術服
 女性特有の病気としては、生殖器のがん(乳がん,子宮頚がん,卵巣がん,子宮体癌)や卵巣腫瘍、子宮筋腫などの良性腫瘍、性感染症(性行為で感染する病気)等もあります。また、妊娠前は人工妊娠中絶や不妊症・不育症(流産を繰り返す)、妊娠期は妊娠合併症や異常妊娠、出産後は尿失禁や性器脱などの問題もあります。
 他にも思春期からの貧血や、肥満・痩せ、摂食障害等の栄養に関する問題や、産後うつ、空の巣症候群(子どもの自立によって親の役割を喪失することで陥りやすい抑うつ状態)など心理面に関わる問題もあります。
 更年期・老年期から顕著となる生活習慣病や骨粗鬆症等もあります。
 このように少し挙げただけでも女性特有の身体的・心理的な病気や問題があり、社会的な要因も考えていくと多くの課題が挙げられますね。(図1)

図1 生涯を通じた女性の健康問題
図1 生涯を通じた女性の健康問題

一般的な女性のウィメンズヘルスという見方はわかった気がします。
私たちのように糖尿病を持つ場合については、どのように考えたらいいですか?
手術服
 糖尿病を持つ女性の健康を考える時には、先にお話ししたような女性ならではの健康上の問題も併せてみていく必要があります。
 さらに、糖尿病女性は、性ホルモンや妊娠に関わるホルモンがインスリンに抵抗性を持つことで、月経周期に応じて血糖が変動したり、妊娠中に血糖値が上昇したりします。また、脂肪細胞がインスリン抵抗性を持つことで生ずる多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)(続発性無月経を引き起こす)と、2型糖尿病のリスクとの関連が報告されています1)。他にも、糖尿病特有の易感染性(高血糖の場合、免疫機能が低下して感染しやすくなる)や血管障害(高血糖により血管の細胞が損傷しやすくなる)も、膣炎や妊娠高血圧症候群のリスクとなる等、身体に影響を及ぼすこともあります。脂肪細胞が閉経後のエストロゲン供給源となることで子宮体癌のリスクもあります2)(図2)

図2 糖尿病女性のウィメンズヘルスにおける健康問題
図2 糖尿病女性のウィメンズヘルスにおける健康問題

 このようにお話しすると、色々な問題があって「やっぱり、糖尿病って...」と、嫌な気持ちになるかもしれません。しかし、糖尿病と女性の身体の関係をよく知り、自身の身体の調子を整えたり血糖を良好に保つように前向きな調整をしたりすることで、女性としてより生きやすく人生を過ごせるのではないかと思います。このホームページをとおして、そのための情報提供を継続していきたいと思っています。
 また、女性は誕生して一生を終えるまでの生涯のなかで成長・発達していきます。性ホルモンの分泌の面からみていくと、思春期、成熟期、更年期、老年期と分けられますし、子どもを持つ場合は、成長・教育期、出産・育児期、子育て解放期、老後と分けられます。現代は、結婚をしない生き方、結婚しても子どもを持たない生き方、結婚をせず子どもを持つ生き方、異性・同性のパートナーはいても結婚をしない生き方など、多様な生き方の選択があります。どのように生きるかは人それぞれです。それは、糖尿病を持つ女性も同様です。"糖尿病患者"としてではなく、糖尿病と共にある「女性」として、読者の皆様お一人お一人が自らの人生を謳歌して頂きたいというのが、研究会一同の願いです。

引用・参考文献
  • 1)倉林工:PCOSと生活習慣病, 産科と婦人科, 81(7),881〜888,2014
  • 2)加藤聖子:なぜ、女性のがんは増加しているのか?, 臨床と研究, 93(6), 769〜773.,2016
  • 3)村本淳子:女性のライフサイクルと健康, ウィメンズヘルスナーシング概論, 医学書院, 6〜9, 2017
  • 4)田中佳代:糖尿病女性のウィメンズヘルスに関わる支援ネットワーク, 日本糖尿病教育・看護学会誌, 22(1), 66〜71, 2018
(2018年08月 公開)
目 次
第1章 基礎講座編
1. 糖尿病と女性のからだ
2. あなたと私のための糖尿病基礎講座
第2章 子どもたちのこころとからだと糖尿病のある生活
1.糖尿病とともにある子どもたち―幼児―
2.糖尿病とともにある子どもたち―学童―
3.糖尿病とともに大人の女性への階段を登る―思春期―
番外編 明日からの糖代謝異常妊婦のケアを考えよう

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