糖尿病と女性のライフサポートネットワーク
冨永 幸恵
(秋田大学医学部附属病院 糖尿病看護認定看護師)
青木美智子
(千葉中央メディカルセンター 糖尿病看護認定看護師)
田中 佳代
(久留米大学医学部看護学科 母性看護学・助産学 教授)
part3では、尿糖について考えていきます。
個人差はありますが、血糖値と尿糖の排泄量の関係を確認しておけば、尿糖の測定から血糖の状態を推測することができます。尿糖の測定は病院での尿検査や自宅で尿糖試験紙による測定をすることで分かります。自宅での尿糖測定は、治療開始間もない人、血糖変動の少ない2型糖尿病の人、低コストを望む人には適していると言われています3)。
定期受診の際に、尿検査を行いますので、その結果を参考にしてください。 尿糖は前回排尿してから今回測定するまでの結果が反映されますので、受診日に朝食を食べずに採尿する場合は、夜間につくられた古い尿を一度排泄する必要があります。起床時に一度排尿を済ませると良いでしょう。朝食を食べてから採尿する場合も起床時か朝食の直前に排尿を済ませておきます。そうすることで、より正確な尿糖の結果を知ることができるでしょう。
自宅で尿糖を測定する際のポイントを以下に示します。
・起床直後または朝食前、朝食後、昼食前、昼食後、夕食前、夕食後に
測定する
*食後の測定は食事開始から1~2時間後の最も血糖値が高くなるタイミングで測定する
仕事をしていて毎日の測定が難しい場合は、測定可能な時間帯から実施してみましょう。また、曜日を決める、休日に1日通して測定するなど可能な範囲で測定してみてはいかがでしょうか。食前が陰性でも、食後に陽性となることもあります。食前と食後を組み合わせて測定すると良いでしょう。始める前に一度医師に測定のタイミングなど相談してみてください。
病院で行われる尿検査も、自宅で行う尿糖検査も結果は(−)~(4+)で表示されます。尿糖は血糖値が高値になるほど陽性が強くなります。自宅で行う尿糖試験紙は多くの企業から販売されており、そのほとんどが尿糖50mg/dlから1000mg/dlまで判定が可能で、一部は2000mg/dlまで測定でき、商品によって様々です。判定方法や表示の仕方も病院や商品によって異なりますので、病院での検査結果や尿糖試験紙の説明書をよく読みましょう。
血糖と同じように尿糖には食事内容や活動量などが影響してきます。食前と食後での違い、食事内容での違い、運動の程度による変化を見ることで、尿糖である程度の血糖を推測することができ、治療に活かすことができるでしょう。SGLT2阻害薬(コラム参照)を内服の場合はほぼ毎回尿糖が陽性となりますが、内服する間隔、内服のタイミング、食事などにより1日でも時間帯によって排泄量の変動があります。結果は血糖値と同じように記録に残します。また、SGLT2阻害薬を使用している場合は血糖値が正常でも尿糖が陽性となります。
尿糖と併せて知っていてほしい知識としてケトン体があります。ケトン体はインスリンの作用不足により糖がエネルギー源として利用できず、脂肪の分解が亢進して生成されたものです4)。通常は尿検査で尿糖と併せて検査します。ケトン体と運動には関連があり、空腹時血糖値が250mg/dl以上でケトン体陽性、ケトン体が陰性でも空腹時血糖値が300mg/dl以上の場合には運動後に一層高血糖となったり、ケトーシス(血液中にケトン体が増えてしまう状態)を誘発、増悪させることがある4)ので、この場合には運動は勧められません。またダイエット目的等で過剰に炭水化物の制限をしている場合や、炭水化物の制限に無酸素運動(筋力トレーニング等)を取り入れている場合などにもケトン体が陽性となることがあります。身体が危険信号を発している状況なので、ケトン体が陽性の場合には要因を医療者と一緒に確認しましょう。日常生活では、バランスの良い食事を心掛け、運動する場合には医療者に相談してみてください。
また、糖質制限食はケトン産生が亢進するので妊娠中はケトーシスになりやすく避けるべきと言われています5)。ケトン体が出て、ひどくなると糖尿病ケトアシドーシスとなり、胎児・母体の健康を脅かすこととなりますので気を付ける必要があります。つわりの場合は通常、心身の安静と休養を心掛け、少しづつ頻回に食事をとったり、水分補給を十分行うよう心掛けます6)。体重が減って水分も十分とれない場合、尿中ケトン体陽性が続く場合などは、点滴等で栄養を補給する場合もあります。糖尿病をもつ女性の場合は、血糖管理に影響を及ぼしますので、つわりが重症で持続する場合は、糖尿病の管理を専門とする医療機関への受診を行い、専門的治療を受けるようにしてください7)。
近位尿細管でのブドウ糖の再吸収を抑制することで、尿糖排泄を促進し、血糖低下作用を発揮するものです。製品名では、フォシーガ®錠、ルセフィ®錠、アプルウェイ®錠、デベルザ®錠、カナグル®錠、ジャディアンス®錠、スーグラ®錠などが該当します。
- 1)糖尿病ネットワーク 尿糖チェックの基礎
- 2)北川眞理子、内山和美編集 今日の助産 改訂第3版 P45. 南江堂 2013
- 3)日本糖尿病教育・看護学会編 糖尿病に強い看護師育成テキスト p78. 日本看護協会出版会2008
- 4)日本糖尿病療養指導士認定機構編・著 糖尿病療養指導ガイドブック2017 糖尿病療養指導士の学習目標と課題 p30. 68. メディカルビュー社 2017
- 5)日本糖尿病・妊娠学会編集 妊婦の糖代謝異常 診療・管理マニュアル改訂第2版 メディカルビュー社 p139. 2018
- 6)日本産婦人科学会 日本産婦人科医会編集・監修 産婦人科診療ガイドライン 産科編 p124~126 2017
- 7)日本糖尿病・妊娠学会編集 妊婦の糖代謝異常 診療・管理マニュアル改訂第2版メジカルビュー社 p127~129 2018
- (1)月経周期に合わせて血糖って変動するの?
- (2)月経と血糖のふか〜い関係って?
- (3)えっ?月経不順と糖尿病って関係あるの?
- (4)知っておいてほしい月経の正常・異常
- (5)知ってた? 月経周期に合わせた血糖コントロールのコツ
- (6)女性の一生には特有の身体とこころの変化があるということ〜糖尿病患者と一括りにされるのではない、糖尿病と共にある「女性」なのです〜
- (7)「産む性」だからこそ考えなければならない、糖尿病とともに生きること
- (1)糖尿病ってどんな病気?
- (2)糖尿病の治療とわたしの生活 〜食事〜
- (3)うまい血糖コントロールは合併症を防ぐ!
- (4)いつもの検査…これってどういう意味?〜そこがわかれば自分の体がもっとわかる〜
- (5)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part1
- (6)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part2
- (7)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part3
- (1)「思春期って!どう関わったらいいの?って困ったこと、一度はありますよね!?
- (2)女性への階段を上る〜からだはどう変化していくのでしょうか?
- (3)女性への階段を上る〜こころはどう変化していくのでしょうか?
- (4)女性への階段を上る〜恋愛、学校、自分の将来…
- (5)どう支える?子どもたちの糖尿病のある生活―思春期―
- (1)糖尿病と妊娠の医療の狭間〜内科スタッフは妊娠・出産が苦手?
- (2)糖尿病と妊娠の医療の狭間〜産科スタッフは糖尿病が苦手?
- (3)糖尿病と妊娠に関連した様々なできごとは日々の日常生活の中で起こる〜これこそまさに看護職者の出番です
- 第34回糖尿病妊娠学会学術集会教育講演(PDF)
糖尿病看護認定看護師青木 美智子