糖尿病と女性のライフサポートネットワーク
代表 田中 佳代
(久留米大学医学部看護学科 母性看護学・助産学 教授)
糖尿病を持つ女性のなかで、月経の周期に応じて血糖値が変動する方がいらっしゃいます。それは個人差の範囲内1)とも言われていますが、1型糖尿病女性の6割の方が月経周期に応じて血糖が変動する2)、糖尿病女性の7割の方が月経前に血糖値が上昇するとの報告3)などがあります。毎月繰り返される月経と血糖値の関連を、いまいちど見直してみてはいかがでしょうか。
女性にとって月経は生活の一部です。思春期がはじまる前の小学5年生頃に、学校で初経(初めての月経)についての授業を受けたと思います。しかし、ずいぶん遠い過去の事に......。そこで、月経のしくみについておさらいしてみましょう。
月経が毎月のように周期的におこるのには、エストロゲンとプロゲステロンという二つの性ホルモンが主に関係しています。また、この二つの性ホルモンが分泌されるのには、脳の中にある器官からの指令によるものです。ここでは性ホルモンの働きによる月経のしくみを説明します。(図1)
- 卵胞期:エストロゲンの量が上昇してくる時期を「卵胞期」といい、婦人用体温計で基礎体温を測定すると低温期となります。この時期は、子宮の内膜が増殖してきます。
- 排卵:エストロゲンの量がピークに達すると、その影響で卵巣から卵子が排卵されます。
- 黄体期:プロゲステロンの量が上昇してくる時期を「黄体期」といい、婦人用体温計で基礎体温を測定すると高温期となります。この時期は、子宮の増殖した内膜が柔らかくなり、受精卵を受けとめるための準備をします。この期間は個人差がなく、ほぼ14日間程度であり一定しています。
- 月経:排卵から14日程度過ぎると、エストロゲンとプロゲステロンの量が少なくなり、受精卵を受けとめる準備をしていた子宮の内膜は、剥がれ落ちて外にでてきます。これが月経です。
排卵された卵子に精子が受精することがなければ、以上の月経のサイクルが周期的に繰り返されます。
このように月経という性周期があることが、女性の特徴のひとつです。そしてこの性周期があることで、腹痛や腰痛、頭痛、疲労感、食欲亢進・減退等のからだへの影響や、イライラする、気分のむら、落ち込みやすい等のこころへの影響があり、日々の生活に何らかの影響を与えます。糖尿病とともに生きる女性にとっては、さらに血糖コントロールにも影響を及ぼすことがあるのです。療養に必要な日常生活(食事療法や運動療法)とお薬(薬物療法)をうまく取り入れながら生活するのは、容易ではありません。また、こうした女性の持って生まれたからだの特徴を理解しながら、うまく糖尿病と付き合っていく大変さもあります。
このホームぺージでは、糖尿病とともに生きる女性が、血糖コントロールも併せて上手につきあっていけるよう、まずは「月経は女性の健康のバロメーター」と捉え、糖尿病だけでなく女性としての自分のからだにももっと関心を持っていただけることを期待しています。
今後、糖尿病と女性の視点から情報を提供していきたいと思います。基礎講座編では「1.糖尿病と女性のからだ」と、「2.あなたと私のための糖尿病基礎講座」についてです。ご期待ください。
- 1) 住田安弘:月経周期によって血糖コントロールが悪くなるような気がするのですが、本当ですか?. 豊田長康編, 「女性の糖尿病 診療ガイダンス」. メジカルビュー社, 東京, p 12−13, 2004.
- 2) 田中佳代,中嶋カツヱ,堀大蔵,林秀樹,和陽子,1型糖尿病を持つ女性のリプロダクティブヘルスに関する問題の構造化―1型糖尿病を持つ女性の月経・性生活・妊娠―. 糖尿病と妊娠, 6(1), 112-118. 2006.
- 3) 内潟安子: 月経周期とインスリン治療. Diabetes Journal, 27(1): 34−37, 1999.
- (1)月経周期に合わせて血糖って変動するの?
- (2)月経と血糖のふか〜い関係って?
- (3)えっ?月経不順と糖尿病って関係あるの?
- (4)知っておいてほしい月経の正常・異常
- (5)知ってた? 月経周期に合わせた血糖コントロールのコツ
- (6)女性の一生には特有の身体とこころの変化があるということ〜糖尿病患者と一括りにされるのではない、糖尿病と共にある「女性」なのです〜
- (7)「産む性」だからこそ考えなければならない、糖尿病とともに生きること
- (1)糖尿病ってどんな病気?
- (2)糖尿病の治療とわたしの生活 〜食事〜
- (3)うまい血糖コントロールは合併症を防ぐ!
- (4)いつもの検査…これってどういう意味?〜そこがわかれば自分の体がもっとわかる〜
- (5)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part1
- (6)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part2
- (7)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part3
- (1)「思春期って!どう関わったらいいの?って困ったこと、一度はありますよね!?
- (2)女性への階段を上る〜からだはどう変化していくのでしょうか?
- (3)女性への階段を上る〜こころはどう変化していくのでしょうか?
- (4)女性への階段を上る〜恋愛、学校、自分の将来…
- (5)どう支える?子どもたちの糖尿病のある生活―思春期―
- (1)糖尿病と妊娠の医療の狭間〜内科スタッフは妊娠・出産が苦手?
- (2)糖尿病と妊娠の医療の狭間〜産科スタッフは糖尿病が苦手?
- (3)糖尿病と妊娠に関連した様々なできごとは日々の日常生活の中で起こる〜これこそまさに看護職者の出番です
- 第34回糖尿病妊娠学会学術集会教育講演(PDF)
糖尿病看護認定看護師青木 美智子