糖尿病と女性のライフサポートネットワーク
代表 田中 佳代
(久留米大学医学部看護学科 母性看護学・助産学 教授)
青木美智子
(千葉中央メディカルセンター 糖尿病看護認定看護師)
第1章基礎講座編では、糖尿病と女性のからだについて月経と血糖・糖尿病の関連をお話ししてきました。今回は「知ってた? 月経周期に合わせた血糖コントロールのコツ」として、実際的なお話しをしていきたいと思います。
月経は女性特有のものです。糖尿病を持つ女性も月経が訪れている間は少なからず血糖への影響がある可能性があります。「(2)月経と血糖のふか〜い関係って?」でお話ししたとおり、1型糖尿病女性の方では過半数の方が月経周期に応じて血糖が変動するとの報告や1)2)、2型糖尿病女性の方も、インスリンの分泌能や食事等によって個人差はありますが、理論的には黄体期(月経前の2週間位の時期を黄体期といい、婦人用体温計で基礎体温を測定すると高温期となります)の血糖値は上昇する方向に向かうことが言われています3)。
「月経」は、女性の生活のなかで大きな位置を占めるものです。併せて血糖まで変動する場合は、日々の生活や血糖コントロールの指標であるヘモグロビンA1c(HbA1c)にも影響を及ぼします。なかなか血糖コントロールがうまくできていないと感じられる方は、月経周期によって血糖が変動していないかチェックしてみましょう。
まずは、ご自分の月経周期を把握してください。そのために月経がいつ始まり、いつ終わったのか、月経の記録をとるところから始めます。ご自分のダイアリーに記録してもいい
ですし、便利な携帯のアプリを利用してもいいでしょう。自分の月経周期を記録し、それに併せて、胸が張る、下腹部が少し痛い、むくむ等(その他の月経に関連する症状は、「(2)月経と血糖のふか〜い関係って?」を参考)、月経周期に伴う症状を記載してみましょう。自分の月経の時期を把握するうえでも役立ちます。月経周期に伴う身体の変化の一つに「おりもの」もあります。おりものは女性ホルモンと関連しており、月経周期に応じて変化がみられます。月経が終わってすぐの卵胞期(月経後から排卵までの時期を卵胞期といい、婦人用体温計で基礎体温を測定すると低温期となります)の時期は量が少なく、さらりとした白っぽいおりものですが、排卵の時期は透明なトロッとした卵の白身のようなおりものがみられることがあります。これは、精子が受精しやすくなるためのおりものです。その後は、月経前に粘り気のある黄白色のおりものが増えていき、その後月経になります。ただし、性感染症にかかっている場合は、おりものの性状・量は異なります。また、食欲の程度や間食の内容、気分の変調(イライラ、落ち込んだ気分等)なども併せて書いてみましょう。これらも月経周期によって何らかの傾向がみられることがあります。そして、そこに血糖の値や、インスリンの量など血糖コントロールの状況を記していくと、月経周期に応じて自分の体調が変動することを把握できるかもしれません。体調管理やそれに応じた生活の調整、血糖コントロールにも役立てることができると思います。
例として月経のことや血糖コントロールに関すること等を書ける表を作成してみました。見本の表には基礎体温と月経周期、月経関連症状などを例として記載しています。この表を見て、「え〜こんな大変なことをするの!?」と、思われると思います。まずは、月経周期の3〜4クール分だけでもやってみれば、だいたい自分のサイクルがつかめ、どのようなことが血糖を上げるか、あるいは下げるかがつかめると思うので、ずっと続けなければならないということではありません。しかし、今から妊娠したい人は、血糖コントロールだけでなく排卵できているか等の確認も行えますので、妊娠に向けての身体の準備にも繋がっていきますね。自分なりの表を工夫して作ってみてください。
私たちが2004年に行った調査では、月経周期によって血糖が変動する1型糖尿病女性118名のうち、インスリン量だけで調整している方は69.4%でした。インスリン量の調整にあたり血糖測定をこまめに行いながらしている方は18.6%、インスリン量だけでなく食事の量も調整している方は6.8%でした。
実際に、インスリンを使用している女性が月経周期に合わせて、どのように血糖をコントロールしているのかご紹介しましょう。まず、月経に伴ってどのように生活や食事が変化しているのかを把握します。例えば、月経前(黄体期)はホルモン分泌の影響で血糖が上がりやすくなります。また、ついつい甘いものを食べたくなる方や食べ過ぎてしまう方、気分がなんとなくイライラする方もおられます。そうなると月経前はいつもより血糖が上がりやすくなります。血糖値をこまめに測りながら、黄体期だけインスリンを増量していきます。人によっては、食事の時のインスリン量をいつもより多めにする人もいますが、本来1日をとおして少量のインスリンがすい臓から分泌される「基礎分泌」を補充するのに用いられる持効型のインスリンを一時的に増量する場合もあります4)。また、月経開始後すぐに血糖が下がる方、2〜3日後に下がる方など人によって異なりますので、この場合もこまめに血糖値を測りながらインスリン量を少なくしていきます。CGM(持続血糖測定器)を装着している方はこのような血糖値の変化が分かりやすいかもしれませんが、1日に7回程度の血糖自己測定でも、血糖値の変化は十分把握できると思います。
月経と血糖の関連は、「(2)月経と血糖のふか〜い関係って?」でもお話ししましたように、月経の周期に伴う変動だけでなく、月経に関連する症状や日常生活のなかでのさまざまな出来事によっても血糖は変動していきます。月経に応じた血糖コントロールは人によって違いもあります。まずは、じっくり3−4回分のデータ(月経記録、症状やおりものの性状、血糖値、インスリン量、食事量の変化や間食、その日の出来事等)を集めて、ご自分の血糖のパターンを知ることから始め、そのデータをみながら主治医や糖尿病専門の看護師と話し合い、インスリンの種類と量をどのように調整するかを検討できるとよいでしょう。そのためにも、まずはご自分の身体の変化にしっかり向き合ってみましょう。
- 1) 内潟安子:月経周期とインスリン治療.Diabetes Journal,27(1),34−37,1999.
- 2) 田中佳代,中嶋カツヱ,堀大蔵,林秀樹,和陽子,1型糖尿病を持つ女性のリプロダクティブヘルスに関する問題の構造化―1型糖尿病を持つ女性の月経・性生活・妊娠―. 糖尿病と妊娠,6(1),112-118.2006.
- 3) 内潟安子:2型糖尿病女性の月経時の血糖上昇,日本医事新報,4449号,p79,2009.
- 4) 大澤真理,内潟安子:1型糖尿病の思春期における血糖コントロール悪化にどう対処するか.プラクティス,25(6),659−665,2008.
- 5) 宮尾益理子:生理によって血糖コントロールが乱れる女性患者と経口血糖降下薬の適正使用,薬局,57(9),49−53,2006.
- 6) 住田安弘:月経周期によって血糖コントロールが悪くなるような気がするのですが、本当ですか?.豊田長康編,「女性の糖尿病 診療ガイダンス」.メジカルビュー社,東京,p 12−13,2004.
- 7) 高橋良恵:糖尿病をもつ女性の自己管理を支援する〜性差からみた糖尿病の患者支援のあり方について〜,プラクティス,28(6),555−557,2011.
- (1)月経周期に合わせて血糖って変動するの?
- (2)月経と血糖のふか〜い関係って?
- (3)えっ?月経不順と糖尿病って関係あるの?
- (4)知っておいてほしい月経の正常・異常
- (5)知ってた? 月経周期に合わせた血糖コントロールのコツ
- (6)女性の一生には特有の身体とこころの変化があるということ〜糖尿病患者と一括りにされるのではない、糖尿病と共にある「女性」なのです〜
- (7)「産む性」だからこそ考えなければならない、糖尿病とともに生きること
- (1)糖尿病ってどんな病気?
- (2)糖尿病の治療とわたしの生活 〜食事〜
- (3)うまい血糖コントロールは合併症を防ぐ!
- (4)いつもの検査…これってどういう意味?〜そこがわかれば自分の体がもっとわかる〜
- (5)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part1
- (6)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part2
- (7)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part3
- (1)「思春期って!どう関わったらいいの?って困ったこと、一度はありますよね!?
- (2)女性への階段を上る〜からだはどう変化していくのでしょうか?
- (3)女性への階段を上る〜こころはどう変化していくのでしょうか?
- (4)女性への階段を上る〜恋愛、学校、自分の将来…
- (5)どう支える?子どもたちの糖尿病のある生活―思春期―
- (1)糖尿病と妊娠の医療の狭間〜内科スタッフは妊娠・出産が苦手?
- (2)糖尿病と妊娠の医療の狭間〜産科スタッフは糖尿病が苦手?
- (3)糖尿病と妊娠に関連した様々なできごとは日々の日常生活の中で起こる〜これこそまさに看護職者の出番です
- 第34回糖尿病妊娠学会学術集会教育講演(PDF)
糖尿病看護認定看護師青木 美智子