糖尿病と女性のライフサポートネットワーク
尾崎みづほ
(日本赤十字社高知赤十字病院
糖尿病看護認定看護師 日本糖尿病療養指導士)
私たちのからだは、食事によってからだに取り込まれた炭水化物を胃でブトウ糖に消化し、小腸で血液の中に吸収され全身にエネルギー源として運ばれ利用しています。この血液に含まれているブドウ糖を全身の細胞に取り込むときに必要なのが「インスリン」というホルモンです。インスリンは膵臓から分泌されています。血液中のブドウ糖の量を「血糖値」と言い、インスリンによって血糖値は適度な範囲内でコントロールされています。(図1)
図1 正常にインスリンが働いている場合
このインスリンというホルモンがなんらかの原因で分泌されなくなったり、分泌が少なくなったり、分泌されていても働きが悪くなってしまう状態が「糖尿病」です。インスリンが働かなくなると、血液中のブドウ糖はからだに取り込まれず、血液中にあふれてきます。この状態を「高血糖」と言います。(図2)血糖値の正常値は空腹時110mg/dl未満、食後でも200mg/dl未満に保たれています。「110mg/dl」とは、血液1dlつまり100ml中に含まれているブドウ糖が110mgという意味です。人間は体重の13分の1が血液と言われていますので、50kgの方なら血液量は約4リットルですので、血糖値が110mg/dlということは4400mgつまり4.4gのブドウ糖が血液中に含まれているという計算になります。これは、全ての血液の中にスプーン1杯分と2杯分のお砂糖が溶けている状態で空腹時と食後の血糖がコントロールされているというイメージになります。
図2 正常にインスリンが働いていない場合
糖尿病の合併症には網膜症、腎症、神経障害などがあり、血糖値が高い状態が続くと血管に悪影響を及ぼし、合併症が起こってきます。しかし、血糖値を正常レベルに保つことで合併症を起こさず、普通の人と変わりない生活を送ることができます。血糖値を正常レベルに保つために、糖尿病の治療には食事療法、運動療法、薬物療法があります。これらの治療は患者さんの生活と密接に関係しているので、いつ何をどのように食べるか、どのくらい運動するのか、薬を指示通りに飲むといった生活調整が必要です。糖尿病は合併症を起こさないように上手につき合っていく病気です。患者さんご本人が病気のことをよく知り、継続できるように生活を工夫していくことが最も大事です。医療スタッフは、そうした患者さんの自立した生活調整を支え、一緒に考えていく支援をします。
糖尿病は「1型糖尿病」「2型糖尿病」「その他の機序、疾患によるもの」「妊娠糖尿病」の4種類に分けられます。日本の糖尿病患者さんの約90%が「2型糖尿病」です。
「1型糖尿病」は特定の遺伝因子をもつ人に環境因子(風邪のようなウイルス感染など)が加わり、自己免疫によりインスリンを分泌している細胞が破壊されることによって起こります。そのため子どもでも大人でも1型糖尿病になる可能性があります。1型糖尿病は生活習慣病ではなく、インスリンが分泌されなくなるためインスリンを注射で補充する治療となります。(表1)
「2型糖尿病」は遺伝的な要素が関係しています。そこに、食べ過ぎや肥満、運動不足などによりインスリンの働きが悪い状態(インスリン抵抗性)や、インスリンの分泌が不足することにより起こります。一般に生活習慣との関連が大きいため、生活習慣病と呼ばれています。食事・運動療法が基本になりますが、内服薬やインスリンなどの薬物療法が必要になる場合もあります。(表1)
「その他の機序、疾患によるもの」は、遺伝子異常や他の疾患や条件(肝硬変、ステロイド治療など)により起こる糖尿病が含まれます。
「妊娠糖尿病」は妊娠に伴う肥満や、胎盤ホルモンの分泌に伴いインスリンが働きにくい状態になることにより起こります。出産後胎盤がなくなることでインスリンの効果が改善し、血糖値は改善することが多いですが、35〜60%の女性は出産後10年以内に糖尿病になるとも報告されており、予防のための管理が重要です。
表1 1型糖尿病と2型糖尿病の特徴
糖尿病の分類 | 1型糖尿病 | 2型糖尿病 |
日本の糖尿病患者における割合 | 10%前後 | 90〜95% |
発症年齢 |
小児〜思春期に多いが 中高年も発症する |
40歳以上に多いが 若年発症も増えている |
発症機構 | 特定の遺伝因子に何らかの誘因・環境因子が加わることによって発症する | インスリン分泌やインスリン抵抗性に関連する遺伝因子に生活習慣などの環境因子が加わることによって発症する |
家族歴 | 2型に比べると少ない | 血縁者にしばしば糖尿病あり |
インスリン分泌 | 高度に障害 | 軽度〜中度の障害 |
治療 | インスリン療法中心 |
食事療法・運動療法が優先 経口薬、インスリン療法など |
- 1)日本糖尿病学会編・著,糖尿病治療ガイド2014-2015,文光堂,2014
- 2)林道夫 糖尿病看護認定看護師による糖尿病看護研究会,糖尿病まるわかりガイド 病態・治療・血糖パターンマネジメント,学研,2014
- 3)細井雅之,患者さんがわかる!変わる!すぐに使える!究極の糖尿病患者説明シート50,メディカ出版,2011
- 4)安酸史子 生駒千恵 石本佐和子,患者さん・スタッフの質問にナースが答える糖尿病ケアQ&A200,メディカ出版,2012
- 5)糖尿病診療マスター. Vol.8.No.1.医学書院.2010
- (1)月経周期に合わせて血糖って変動するの?
- (2)月経と血糖のふか〜い関係って?
- (3)えっ?月経不順と糖尿病って関係あるの?
- (4)知っておいてほしい月経の正常・異常
- (5)知ってた? 月経周期に合わせた血糖コントロールのコツ
- (6)女性の一生には特有の身体とこころの変化があるということ〜糖尿病患者と一括りにされるのではない、糖尿病と共にある「女性」なのです〜
- (7)「産む性」だからこそ考えなければならない、糖尿病とともに生きること
- (1)糖尿病ってどんな病気?
- (2)糖尿病の治療とわたしの生活 〜食事〜
- (3)うまい血糖コントロールは合併症を防ぐ!
- (4)いつもの検査…これってどういう意味?〜そこがわかれば自分の体がもっとわかる〜
- (5)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part1
- (6)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part2
- (7)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part3
- (1)「思春期って!どう関わったらいいの?って困ったこと、一度はありますよね!?
- (2)女性への階段を上る〜からだはどう変化していくのでしょうか?
- (3)女性への階段を上る〜こころはどう変化していくのでしょうか?
- (4)女性への階段を上る〜恋愛、学校、自分の将来…
- (5)どう支える?子どもたちの糖尿病のある生活―思春期―
- (1)糖尿病と妊娠の医療の狭間〜内科スタッフは妊娠・出産が苦手?
- (2)糖尿病と妊娠の医療の狭間〜産科スタッフは糖尿病が苦手?
- (3)糖尿病と妊娠に関連した様々なできごとは日々の日常生活の中で起こる〜これこそまさに看護職者の出番です
- 第34回糖尿病妊娠学会学術集会教育講演(PDF)
糖尿病看護認定看護師青木 美智子