糖尿病と女性のライフサポートネットワーク
山口 洋美
(日本赤十字社長崎原爆病院 糖尿病看護認定看護師)
青木美智子
(千葉中央メディカルセンター 糖尿病看護認定看護師)
田中 佳代
(久留米大学医学部看護学科 母性看護学・助産学 教授)
糖尿病の治療は、糖尿病が悪化することで起こる合併症や合併症によって生じる生活のしにくさからあなたを守るために必要となります。薬を飲んだり、食事を調整するのは、ある意味わずらわしく感じますが、治療を続けることで健康な人と同じように生活の質を維持したり、健康寿命を保つことができます。そのためには、血糖だけでなく体重、血圧、血清脂質などを適正に保つことも重要です。
食事療法は、医師からエネルギー摂取量を指示されます。このエネルギー摂取量は、次のような計算によって導き出されています。
エネルギー摂取量=身体活動量(※1)×標準体重(※2) |
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このように、活動日と非活動日のエネルギー消費量が異なる場合には、摂取エネルギー量も必然的に異なります。こうしたエネルギー消費量に応じて、一般的に男性では1,600〜2,000kcal、女性では1,400〜1,800kcalの範囲で食事療法の基本となるエネルギー摂取量が指示されます。
しかし、年齢や肥満の程度、血糖値や合併症の有無などによって指示が異なるので、ご自身のエネルギー摂取量をご存じない方は、主治医に確認しましょう。ちなみに、妊娠中の方の目安は、以下のように、基本のエネルギー摂取量に妊娠各期でプラスするようになっています。
妊娠するとあまり無理をしないようにしようと、通常より活動量が少なくなることが多いです。
例えば・・
- ・妊娠前は活発な運動や身体を使う仕事についていた「重い労作」の方は、「普通の労作」へ・・。
- ・立ち仕事や、軽い運動をしていた「普通の労作」の方は、「軽労作」へ・・。
と、活動量が少なくなります。それに伴い、基本のエネルギー摂取量が下がる可能性があります。
妊娠すると、基礎代謝が亢進します。また、妊娠による母体の変化(子宮や乳房が大きくなる等)や、胎児の成長に栄養が必要となります。そのため、妊娠の時期に応じて基本のエネルギー摂取量に、以下のエネルギー量が負荷されます。
- ☆妊娠初期(〜13週)+50㎉ 妊娠中期(14〜27週)+250㎉ 妊娠後期(28週〜)+500㎉
妊娠後の活動量に応じてエネルギー摂取量を算出した後に、妊娠各期の付加量を加えます。
*妊娠していない時の体重(BMI)に応じて妊娠中の体重増加量が決められていますので、それに応じてエネルギー摂取量も異なります。詳しくは医師に確認してください。 - ☆授乳期+450㎉
(母乳の出具合で平均0.65㎉/ml増減しますが、おっぱいの張り具合で炭水化物を調整するといいです)
また、カロリーだけを重視するのではなく、食品をバランスよく摂ることが重要です。バランスが良いとは、一般的には指示エネルギー量の50〜60%を炭水化物から摂取し、さらに食物繊維が豊富な食物を選択します。たんぱく質は20%までとして、残りを脂質とします。詳しくは、「糖尿病食事療法のための食品交換表」を参考にしてください。
(1)食品交換表の活用を活用する
食品交換表は食品の含むエネルギー量80kcalを1単位と定め、同一表内の食品を同一単位で交換摂取できるようにつくられています。それぞれの表から指示された単位分を摂取することにより、適切な一日のエネルギー摂取と栄養バランスのとれた食品構成となります。第7版では、最近の日本人の食事スタイルとして主食を少なめにとる人にも合わせられるように作成されています。具体的な取り組み方は、糖尿病教室を開催しているような医療機関を受診し、栄養相談を受けたいと主治医にお願いしてみましょう。管理栄養士があなたの食事スタイルを聞き取りながら指導してくれます。
(2)カーボカウントを活用する
食後の血糖値は主に食事に含まれる炭水化物(糖質)の量によって変動するので、食後高血糖、低血糖を予防し良好な血糖コントロールにするために、食事中にどの程度の糖質量が含まれているかを把握します。
カーボカウントは、炭水化物から食物繊維を除いた糖質をカウントして、糖尿病の食事療法に役立てる方法です。食品とそのなかに含まれる栄養素や食後血糖値の関係、薬物や身体活動度が血糖値に及ぼす影響について学びます。そして、許容範囲内の量で、糖質を規則正しく摂取するトレーニングを行う方法です。さらに、1日4回以上のインスリン療法やインスリンポンプを使用している患者さんが、食品中の糖質量と速効型・超速効型インスリン投与量を適切に使用するための方法として用いられます。
カーボカウント法を活用したい場合、管理栄養士から指導を受けられます。また、患者さんのための書籍もあるので、興味のある方は自分でチャレンジすることもできるでしょう。但し、極端な糖質制限食を推奨している書籍はお勧めできません。また、インスリン療法を行っている方は、インスリン量の自己調節をしたいと感じるようになるのではないかと思います。その際は、主治医と相談しながら行うことをお勧めします。
(3)それでも食事療法は難しいと感じる場合
日常的に食事内容は、それぞれの家庭である程度パターン化されている場合の方が多いと思います。食品交換表の活用やカーボカウント法が難しいと感じる方は、自分の食事内容を写真に撮り、管理栄養士に食品のバランスや糖質量をどの程度プラスしたりマイナスしたりするとよいのか、相談してみるのも一つの方法です。また、最近では携帯やパソコンで様々なアプリも無料で入手することができます。
(糖尿病ネットワークのHPから「糖尿病」「食事」「アプリ」で検索できます)
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飲酒
- 肝疾患や合併症などがある場合、妊娠・授乳中は、自分の身体や胎児・乳児への影響が大きいので飲めません。
- アルコール摂取の適量は1日25g程度です(詳細は食品交換表を参照)
- 多量の飲酒は、飲酒時には糖質過多による高血糖になりやすく、飲酒翌日にはお昼前に低血糖を生じやすくなります。(飲酒時に肝臓がアルコール分解をせっせと行い他の機能をストップさせることで、空腹時にブドウ糖を放出するためのグリコーゲンとういう物質をためておけなくなるため)
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脂質異常
- 高中性脂肪血症の方は、飽和脂肪酸、蔗糖・果糖などの摂り過ぎに注意しましょう。
- 高コレステロール血症の方は、コレステロールを多く含む食品を控えます。
目安は、1日200mg未満です。 - 食物繊維を多く摂取するようにしましょう。
1日20g以上が推奨されています。概ね、一日に両手一杯分の繊維質の野菜が摂れるとよいです。一食に片手一杯分が目安です。食物繊維には食後の血糖値上昇を抑制し、血清コレステロールの増加を防ぎ、便通を改善する作用があります。 - 閉経後の女性の方は、エストロゲンというホルモンが著しく低下するため、それまで脂質異常がなかった方でも検査値に変化が起こります。エストロゲンの低下は、骨粗しょう症も起こしやすくなるため、食事だけではなく適度な運動も併せて行うと骨の健康にも役立ちます。
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高血圧症
- 高血圧がある方は、食塩摂取量1日6g未満が推奨されています。
腎症のある方は、腎症の病期により食塩の制限量が異なりますので、主治医に確認してみましょう。
- 1)一般社団法人日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2016-2017.文光堂, p 42−43,2016
- 2)日本糖尿病学会編:糖尿病食事療法のための食品交換表第7版,文光堂,2013
- 3)大月恵理子著:母性看護学各論,130〜131,医学書院,2017
- (1)月経周期に合わせて血糖って変動するの?
- (2)月経と血糖のふか〜い関係って?
- (3)えっ?月経不順と糖尿病って関係あるの?
- (4)知っておいてほしい月経の正常・異常
- (5)知ってた? 月経周期に合わせた血糖コントロールのコツ
- (6)女性の一生には特有の身体とこころの変化があるということ〜糖尿病患者と一括りにされるのではない、糖尿病と共にある「女性」なのです〜
- (7)「産む性」だからこそ考えなければならない、糖尿病とともに生きること
- (1)糖尿病ってどんな病気?
- (2)糖尿病の治療とわたしの生活 〜食事〜
- (3)うまい血糖コントロールは合併症を防ぐ!
- (4)いつもの検査…これってどういう意味?〜そこがわかれば自分の体がもっとわかる〜
- (5)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part1
- (6)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part2
- (7)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part3
- (1)「思春期って!どう関わったらいいの?って困ったこと、一度はありますよね!?
- (2)女性への階段を上る〜からだはどう変化していくのでしょうか?
- (3)女性への階段を上る〜こころはどう変化していくのでしょうか?
- (4)女性への階段を上る〜恋愛、学校、自分の将来…
- (5)どう支える?子どもたちの糖尿病のある生活―思春期―
- (1)糖尿病と妊娠の医療の狭間〜内科スタッフは妊娠・出産が苦手?
- (2)糖尿病と妊娠の医療の狭間〜産科スタッフは糖尿病が苦手?
- (3)糖尿病と妊娠に関連した様々なできごとは日々の日常生活の中で起こる〜これこそまさに看護職者の出番です
- 第34回糖尿病妊娠学会学術集会教育講演(PDF)
糖尿病看護認定看護師青木 美智子