糖尿病と女性のライフサポートネットワーク
桜庭 咲子
(弘前大学医学部附属病院
糖尿病看護認定看護師 日本糖尿病療養指導士)
糖尿病合併症には、極端にインスリンの働きが悪い状態やインスリンの働きが強すぎる状態で起こる「急性合併症」と長年の血糖値が高い状態によって起こる「慢性合併症」があります。
急性合併症は、極端にインスリンの働きが悪いために起こる高血糖(300mg/dl以上)やインスリンの働きが強すぎるために起こる低血糖(80mg/dl以下)状態で起こり、体調がいつもと違ってきます。高血糖の時は、激しい喉の渇きがあり、いつもより多く水分を摂るので、トイレの回数も多くなります。体の怠さや吐き気・腹痛などのお腹の症状も出てきます。低血糖の時は、体が血糖値を上げようと反応し、動悸や冷や汗、手の振えなどが出てきます。さらに、急性合併症は、放っておくと意識を失い、重症の場合は命に危険がおよぶこともあります。
原因として、高血糖の場合はインスリン注射の中止や減量によるインスリン不足、風邪などの感染症、清涼飲料水の多飲などが。低血糖の場合は、食事時間の遅れ、食事量または炭水化物不足、いつもより強く長い運動の最中または運動後(6〜15時間後の場合もあります)、薬の種類や量の誤り、インスリン注射部位の問題、飲酒などが挙げられます。
次に、慢性合併症ですが、これは血糖値の乱高下(低血糖や低血糖後の高血糖、食後高血糖などにより血糖変動が大きい状態)や長年の高血糖状態、コレステロールが高いなどの脂質異常の状態、高血圧などによって全身の血管に悪影響がおよぶことで起こってきます。
慢性合併症は、3大合併症の網膜症、腎症、神経障害などの細小血管症。狭心症や心筋梗塞の冠動脈疾患、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症の末梢動脈疾患などの大血管症があります。他に、糖尿病足病変、手の病変、歯周病、認知症も挙げられます(図1)。
図1 糖尿病が引き起こす合併症
糖尿病治療の究極の目標は、糖尿病患者さんが健康な人と変わらない日常生活の質を(quality of life:QOL)が維持でき、健康な人と変わらない寿命を確保することです。
糖尿病の治療を継続し病気と上手につき合うことで、合併症は予防できます。急性合併症は先に述べた原因を理解することで予防が可能です。3大合併症の予防には、HbA1c 7.0未満を目指すことが重要となります(表1)。
表1 血糖コントロール目標
血糖値以外のコントロール指標として、体重、血圧、血清脂質や合併症を見いだすための検査と指標があります(表2)。
表2 血糖値以外のコントロール指標
指標 | 目標 | 留意すること |
体重 |
標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22 BMI(body mass index) =体重(kg)/身長(m)/身長(m) |
・BMI22が長命で、病気にかかりにくい ・BMI22を下回っても積極的に体重増加を図らなくてもよい ・肥満の人は、現体重の5%減を目指す |
血圧 |
収縮期血圧:130mmHg未満 拡張期血圧:80mmHg未満 |
・測定は、通常座位で5分程度安静の後に行う |
血清脂質 |
LDL-C(悪玉コレステロール):120mg/dl未満 HDL-C(善玉コレステロール):40mg/dl以上 中性脂肪:150mg/dl未満 |
・心筋梗塞などの既往がある場合は、LDL-Cは100mg/dl未満を目標とする |
合併症を見いだすための検査と指標 |
眼底(原則として眼科医に依頼する) 腎機能の検査(尿中アルブミン、尿蛋白、クレアチニン、BUN、Ccr、eGFR) 神経障害の検査、心電図、胸部X線 |
・医師の指示に従い、定期的に検査することが重要 |
合併症の予防には、患者さんご本人が病気のことをよく知り、継続できるように生活を工夫していくことが最も大事です。医療スタッフは、そうした患者さんの自立した生活調整を支え、一緒に考えていく支援をします。
- 1)日本糖尿病学会編・著,糖尿病治療ガイド2014-2015,文光堂,2014
- 2)門脇孝 真田弘美.すべてがわかる最新・糖尿病.照林社.2011
- 3)日本糖尿病学会編・著,糖尿病専門医研修ガイドブック改訂第6版,診断と治療社.2014
- (1)月経周期に合わせて血糖って変動するの?
- (2)月経と血糖のふか〜い関係って?
- (3)えっ?月経不順と糖尿病って関係あるの?
- (4)知っておいてほしい月経の正常・異常
- (5)知ってた? 月経周期に合わせた血糖コントロールのコツ
- (6)女性の一生には特有の身体とこころの変化があるということ〜糖尿病患者と一括りにされるのではない、糖尿病と共にある「女性」なのです〜
- (7)「産む性」だからこそ考えなければならない、糖尿病とともに生きること
- (1)糖尿病ってどんな病気?
- (2)糖尿病の治療とわたしの生活 〜食事〜
- (3)うまい血糖コントロールは合併症を防ぐ!
- (4)いつもの検査…これってどういう意味?〜そこがわかれば自分の体がもっとわかる〜
- (5)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part1
- (6)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part2
- (7)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part3
- (1)「思春期って!どう関わったらいいの?って困ったこと、一度はありますよね!?
- (2)女性への階段を上る〜からだはどう変化していくのでしょうか?
- (3)女性への階段を上る〜こころはどう変化していくのでしょうか?
- (4)女性への階段を上る〜恋愛、学校、自分の将来…
- (5)どう支える?子どもたちの糖尿病のある生活―思春期―
- (1)糖尿病と妊娠の医療の狭間〜内科スタッフは妊娠・出産が苦手?
- (2)糖尿病と妊娠の医療の狭間〜産科スタッフは糖尿病が苦手?
- (3)糖尿病と妊娠に関連した様々なできごとは日々の日常生活の中で起こる〜これこそまさに看護職者の出番です
- 第34回糖尿病妊娠学会学術集会教育講演(PDF)
糖尿病看護認定看護師青木 美智子