糖尿病と女性のライフサポートネットワーク
冨永 幸恵
(秋田大学医学部附属病院 糖尿病看護認定看護師)
青木美智子
(千葉中央メディカルセンター 糖尿病看護認定看護師)
セルフモニタリング(自己モニタリング)とは「自己の行動や症状、状況、データーなどを客観的、意図的に観る、見守ること」です1)。糖尿病を自己管理するために、血糖値を測定したり、歩数をカウントしたり、検査データーを見ながら生活を振り返り、より良い方法を考えて実践していきます。これらは皆さんが普段行っていることですが、本章では、糖尿病とうまく向き合っていくためにセルフモニタリング力を更に身につける方法を考えていきます。
セルフモニタリングは、糖尿病患者さんが周囲のさまざまな情報の中から特定の情報を選び取る手段で、自己管理していく上で大切な過程です1)。糖尿病治療における代表的なセルフモニタリングは血糖、体重、尿糖などが挙げられます。Part1では血糖について詳しく見ていきます。
糖尿病を持つ女性が妊娠、出産を希望する場合には児の先天異常と母体の糖尿病合併症の悪化を予防するために、妊娠前の治療・管理(計画妊娠)が重要となります。妊娠中の血糖コントロールはHbA1c 6.2%未満を目標とし、厳格に行われます。
HbA1c7%を目標とする場合、対応する血糖値を表1に、妊娠中の血糖コントロールのめやすを表2に示します2)。HbA1cは血糖値の平均を反映したものですので、HbA1cでは日々の血糖値の細かな変化が把握できません。そこで血糖自己測定を用いて自分の血糖パターンを知ることが大切になります。血糖自己測定はインスリン注射を行う1型、2型糖尿病の他に内服治療・食事療法のみでコントロールが上手くいかない場合、妊娠中または妊娠希望時に効果的です。
表1 合併症予防のための目標値
合併症予防のための目標 | 対応する血糖値のめやす | |
HbA1c7%未満 | 空腹時血糖値(食事前) | 130mg/dL未満 |
食後(食べ始めてから2時間後) | 180mg/dL未満 |
表2 妊娠中の血糖コントロールの目標値
妊娠中の血糖コントロールの目標 | 対応する血糖値のめやす | |
HbA1c6.2%未満 | 空腹時血糖値(食事前) | 70〜100mg/dL |
食後(食べ始めてから2時間後) | 120mg/dL未満 |
実際の測定には簡易血糖測定器を使用します。糖尿病学会では表3の4つの測定法を紹介しています 。測定した数値は図1のようなノートに記入します。記入例を表3に示しました。参考にしてみてください。
表3 自己管理ノートへの記入例(測定のタイミングを●で表示しています)
例① 毎朝食前と、1,2週間に1回、毎食前・毎食後の1日6回(場合によっては就寝前も含めて7回)測定する
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例② 1日1回法:朝食前1回測定、あるいは、第1日朝食前、第2日朝食前、第3日朝食後、第4日朝食後、第5日昼食前、第6日昼食前、第7日昼食後、第8日昼食後などと日によって変える方法
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例③ 1日2回法:朝食前と就寝前の1日2回測定や、朝夕食前の1日2回測定、あるいは第1日朝食前と朝食後、第2日昼食前と昼食後などと日によって変える方法
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例④ 1日3回法:朝夕食前と就寝前の3回測定や、朝夕食前と朝食後または夕食後の3回測定など
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①〜④の測定方法は糖尿病治療ガイドより引用2)
早朝空腹時の血糖値は、常に少量のインスリンが分泌されている基礎分泌の状態や、就寝前に使用したインスリン注射の効果を評価するのに重要です。それ以外のタイミングでも血糖値を測定することで使用している薬剤の効果を評価し、調整することに役立ちます。
測定した血糖値は、1つの値だけを見るのではなく、全体を見ることで血糖のパターンが見えてきます。例①は、毎朝食前に測定することで朝食前の血糖値のパターンが見えてきます。高い数値が続くのか、低い数値が続くのかにより、朝の血糖値に影響を与える薬剤の調整に繋がります。また、毎食前後や就寝前の測定を連続して行うことで1日の血糖の変動が見えてきますので、週に1度測定してみてはいかがでしょうか。食前の血糖値が問題なくても食後が高い場合もあります。例②は食前と食後に測定を行い確認している例です。
上記以外に、注射の単位が変更された場合には変更した注射の食前食後のタイミングを3日程度続けて測定する、低血糖(発汗、動悸、手指振戦など)を疑う時、体調不良時(食欲がない、発熱、下痢、嘔吐など)などに血糖値を測定することで自分のからだの状態を理解するのに役立ちます。
簡易血糖測定器の他にも、皮下にセンサーを入れて間質液中のブドウ糖濃度を連続的に測定し、予測される血糖値を表示する「フリースタイルリブレ」が登場しました。血液を採取する必要がなく、低血糖のリスクを軽減できるメリットがある一方、皮膚トラブルや簡易血糖測定器での数値と差が生じるデメリットもあります。この章では詳しくは述べませんが興味のある方は
『糖尿病ネットワーク』血糖トレンドの情報ファイルを参照して下さい。
個人の糖尿病の状態や使用している注射薬の種類、注射の回数や注射時間により効果的な測定のタイミングは異なります。また、血糖値を下げる注射薬(インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬)を使用中の方には血糖自己測定に対して公的医療保険が適用され、自己購入よりも経済的に負担が軽くなります。その場合、処方されるセンサーや針には限度があります。「フリースタイルリブレ」に関しては施設により運用が異なる場合もあります。どの方法が自分に適した方法か、医師とよく相談しながら進めてみて下さい。
また、ノート以外でも最近では血糖値を入力できるアプリなども登場しています。このように測定のタイミングや記録方法は様々な方法がありますので自分のライフスタイルに合わせた方法を医療者と一緒に選んでみてはいかがでしょうか。
最後に、測定で得られた値は測定したままにするのではなく、振り返りが大事です。測定した記録、または器械(測定値がメモリーされている)は受診毎に医師へ提出し結果を見ながら一緒に評価します。血糖値の変動に影響するような生活要因は何か、食事、運動、治療内容、体調の変化や自覚症状など影響要因を知り、対策、工夫することで翌日からの生活へ活かすことができます。血糖値に影響を与えていると思う要因は忘れずにメモしておき、外来受診の際に看護師・医師へ伝え、対処の方法を一緒に考えるようにしてみてはかがでしょうか。
消化管より分泌されるGLP-1というホルモンの受容体を活性化させる薬剤で、血糖値が高い時だけインスリン分泌作用を促進させます。GLP-1受容体作動薬は注射薬で1日1〜2回投与と、週1回投与の製剤があります。ビクトーザ®皮下注18mg、トルリシティ®皮下注0.75mgアテオス®、ビデュリオン®皮下注用2mgペン、バイエッタ®5(10)㎍ペン300、リキスミア®皮下注300㎍、などが該当します。
簡易血糖測定器は患者さんが簡便に使用できるように作られている器械です。各社からさまざまな機器が作られていますが、万能というわけではありません。そこで、血糖測定の際の注意点を含め、ここでポイントを確認しておきたいと思います。
≪手指の清潔≫
測定前には、必ず石鹸で手洗いを行います。どうしても、できない場合には、穿刺する部位をアルコール等で十分消毒します。
≪穿刺の場所≫
指先の腹の部分はさまざまなものに触れる場所ですので、できるだけ指の側面(爪の際は避ける)を穿刺するようにします。手先を使用する職業(農業、肉や魚介類を素手で扱うような職業など)では、できるだけ指先の穿刺は避け、手のひら・前腕・耳朶血で行います。
≪正確な血糖測定のために≫
*センサーの取り扱い方
センサーは湿気を嫌います。空気中に長時間さらされたセンサーで測定すると、測定値が正確に出ません。センサーは開封後速やかに使用し、ボトル型のものはセンサーを取り出した後は、速やかにきっちりとふたを閉める必要があります。
*血液の採取方法(下図)
血糖測定の際の血液の採取は、穿刺後は第1関節方向から駆血する要領(②の絵)で血液を出します。血液がこんもりと盛り上がるようにします。穿刺部位の周囲(皮膚の表面)を絞っていると(①の絵)細胞間質液が血液と一緒に混ざってしまい正確な値が出ません。また、試験紙に血液を吸い込ませる際には、皮膚の表面を滑らせる(③の絵)と電極がくるってしまうために正確に測定できなくなるものもあります。血液の山の頂点から血液を吸引する(④の絵)ようにしましょう。
血液を採取した後、測定に手間取り時間がたってしまうと、血液が空気中にさらされ変化しますので、速やかな吸引が正確な値を示すためには必要です。吸引する際には、試験紙の吸引部分に十分血液が満たされているのを確認してから吸引を終えます。血液が不足していたり、2度吸いをしたりすると正確な値が出ません。寒い時期や手が冷えて血液が出にくいような場合には、温めたりマッサージをするなどして血液を出しやすくしてみてください。
図 血液の採取方法
*冬季の測定での注意
簡易血糖測定器は、正確に測定するためには室温も充分に保たれている必要があります。冬季では、室温も夜間・早朝は低くなっています。外から持ち帰った際や夜間に関しては、10℃以上の室温に20分程度自然になじませた後に、測定するのが望ましいです。くれぐれも、暖房器具のそばで器械を温めたりしないようにします。また、夜間の低血糖の際に測定しなければならない場合もありますので、そのようなときには、冷気に直接触れない工夫(たとえば、布団の間に挟む・防寒グッズの使用など)をしてみてください。
*採取部位での違い
通常、血糖値は動脈血が一番高く、次に末梢血・静脈血の順に値に変化があります。患者さんが血糖を測定される場合は、末梢血で行うわけですが、採血部位による値の多少の変化も考慮する必要があります。
*機器の定期点検
機器は、必ず定期的に点検することをお勧めします。機器の種類により、自動的に点検しているものもありますが、通常は、コントロール液を使用します。あまり、いつもと違う値が出るような時には、点検することをお勧めします。
- 1)黒田久美子他:糖尿病看護の実践知 事例からの学びを共有するためにp103. 医学書院. 2007
- 2)一般社団法人日本糖尿病学会編.糖尿病治療ガイド2016-2017. P12. 27. 58. 95. 2016
- (1)月経周期に合わせて血糖って変動するの?
- (2)月経と血糖のふか〜い関係って?
- (3)えっ?月経不順と糖尿病って関係あるの?
- (4)知っておいてほしい月経の正常・異常
- (5)知ってた? 月経周期に合わせた血糖コントロールのコツ
- (6)女性の一生には特有の身体とこころの変化があるということ〜糖尿病患者と一括りにされるのではない、糖尿病と共にある「女性」なのです〜
- (7)「産む性」だからこそ考えなければならない、糖尿病とともに生きること
- (1)糖尿病ってどんな病気?
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- (3)うまい血糖コントロールは合併症を防ぐ!
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- (5)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part1
- (6)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part2
- (7)身につけよう〜セルフモニタリング力〜Part3
- (1)「思春期って!どう関わったらいいの?って困ったこと、一度はありますよね!?
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糖尿病看護認定看護師青木 美智子