大阪市立大学などの研究チームは、「日本食がなぜ健康に良いのか」を科学的に解明し、「日本食によるストレス・脳機能改善効果」を明らかにする研究を行っている。このほど、日本食の「抗疲労効果」を実証することに成功した。
日本食は「疲れがとれやすく」「疲れにくい」食事
日本食は「疲れがとれやすく」かつ「疲れにくい」健康的な食事だ――。「抗疲労食」を研究してきた大阪市立大学健康科学イノベーションセンターの渡邊恭良センター所長らの研究チームが、日本食には疲労感の軽減や、自律神経機能の改善などの抗疲労機能があることを突き止めた。
日常生活でストレスにさらされて疲弊すると、病気になったり、病気の手前の状態(未病)になることが多い。医院やクリニックを訪れる患者のもっとも多い訴えは「痛み」で、その次が「疲労・倦怠」だという。国民の40%近くが半年以上続く疲労で苦しんでいるという調査結果があるが、疲労に関する研究は少ない。
「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録され、農林水産省は2014年度に、医学・栄養学分野などの他分野の研究者が参加する研究戦略「医学・栄養学との連携による日本食の評価」を立ち上げた。
日本食が健康的であることはよく知られているが、米国で開発された高血圧を改善するための食事法である「DASH食」や、地中海沿岸を中心とする「地中海食」に比べ、日本食の疫学的・臨床介入研究によるエビデンスは少ない。
そこで、研究チームは、日本食の抗疲労効果を明らかにし、疲労を軽減する効果のある日本食メニューを考案する研究を開始した。
「疲労」は食事で改善できる 日本食の効果を評価
大阪市立大学などは、日本食の健康への効果を評価する試みとして、「日本食によるストレス・脳機能改善効果の解明」を目的とする研究を進めている。その一環として、同大学健康科学イノベーションセンターを研究拠点に、抗疲労素材を多く使った日本食を開発した。
研究チームは、「疲労」は細胞の部品が錆び付いたり壊れたりするもので、これを防いだり、錆び付いた部品を修復・交換する措置が、疲労回復のために必要であると考えた。
炭水化物や脂質、タンパク質などに含めて、ビタミンやミネラルなど栄養素を摂取することで、細胞の中で壊れた部品を修復・修理することができ、エネルギーを効率よく使えるようになるという。
このほど実証研究を行い、日本食に抗疲労の効果のある食物や栄養素を加えることで、「疲れがとれやすく」かつ「疲れにくい」レシピを作ることができることを研究で明らかにした。
日本食の抗疲労効果を検証 1,000人対象の実証実験
研究では、開発した抗疲労食と比較するため、20~60代の各年代男女100人ずつ約1,000人の食事に関するアンケート調査結果をもとに、一般的な食事「コントロール食」と抗疲労食を比較。
抗疲労食を夕食として3週間摂取し、2週間の間を開けてからコントロール食を3週間摂取したグループと、順番を入れ替えて先にコントロール食を3週間摂取し、後で抗疲労食を3週間摂取したグループとで抗疲労効果を調査した。
検査内容は、認知機能検査、心電図と脈波の同時計測による自律神経機能検査、酸化ストレスや炎症マーカーなどの血液検査、睡眠の質・量および日中行動量判定のための活動量検査、疲労・ストレス・認知機能関連質問票検査などだった。
その結果、抗疲労日本食を摂取することで、疲労感を軽減する効果が得られ、安静時の自律神経機能の改善効果や、血液中成分の改善効果も得られることを明らかにした。
「身近な日本食を工夫し食生活を改善することで、抗疲労の効果を得られることが明らかになった。疲労倦怠感や疲労を軽減し、慢性疲労状態を防げれば、日々の仕事や学業の作業能率の改善につながる」と、渡邊所長は述べている。
疲労回復に効く82品のメニューを紹介するレシピ本
今後は、最先端の抗疲労研究成果に裏打ちされた「健康に資する日本食」を国内外に広くアピールするため、理化学研究所が中核機関となる「健康"生き活き"羅針盤リサーチコンプレックス」が、日本食を応用した宅配食材や冷凍食品の開発などの研究を進めるという。
日本食を基本とする抗疲労食を科学的に解明し、事業化することを目指している。2011年にはレシピ本「抗疲労食」を発行した。
研究チームは、疲労を軽減する効果のある日本食メニュー82品を新たに考案し、レシピ本『JAPANESE FOOD おいしく食べて疲れをとる~「ああ疲れた」にこの1冊~』にまとめた。レシピ本は2016年9月初旬に、丸善出版より発刊される予定。
抗疲労の日本食のメニューは、大阪北新地の割烹料理店「粋餐すいさん 石和川いわかわ」と共同開発。実証実験では、食事作りと宅配を、ひまわりメニューサービスが担当した。
疲れがとれやすい栄養素は20種類
過去の研究で、「イミダゾールジペプチド」や「ビタミンB
1」「コエンザイムQ10」「クエン酸」など20種類の栄養素に抗疲労効果があることを確認しており、それらを多く含む大豆やカツオなどの食材120種類を使って、簡単でおいしく作れるメニューを考えた。
主なメニューのうち、「鯖胡麻衣焼き」は、鯖に含まれるDHA・EPAが脳の活性化を促すほか、タウリンが自律神経の調節を促すという。胡麻には、睡眠効果のある神経伝達物質をつくるトリプトファンが多く含まれ、心身のバランスへの相乗効果が期待できる。
「ひじきと海老のサラダ」は、ひじきに豊富に含まれる鉄分や、ビタミンB
1やトリプトファンに抗疲労作用があるという。魚介類では、桜海老、うなぎ、かつお節などにも、これらの成分は多く含まれている。
大阪市立大学健康科学イノベーションセンター
日本食によるストレス・脳機能改善効果の解明 世界の健康に貢献する日本食の科学的・多面的検証
[ Terahata ]