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2016年02月15日
楽しみ笑って長寿に 健康な生活の基本スタイルは「一無、二少、三多」
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会は2月3日に東京で、「多接を楽しみ笑って健康長寿」をテーマに『全国生活習慣病予防月間 2016 市民公開講演会』を開催した。
一般社団法人 日本生活習慣病予防協会理事長
池田義雄 先生
2014年の日本人男性の平均寿命は80.50歳、女性は86.83歳で、日本は世界でもトップクラスの長寿大国だ。大正時代の日本人の平均寿命は男性が42.06歳、女性が43.20歳だったので、およそ90年で38〜43歳分の平均寿命が延びたことになる。
その一方で、糖尿病、心疾患、脳卒中など生活習慣が要因となる疾患が増えてきた。2型糖尿病、心筋梗塞・脳卒中などの心臓血管病、がん、慢性肺疾患など総称して「非感染性疾患」(NCD)と呼ぶ。超高齢化社会の到来に伴い、非感染性疾患を予防することがますます重要になっている。
池田義雄・日本生活習慣病予防協会理事長は1990年代から、この「一無、二少、三多」を、すべての人の健康生活の基本となる生活スタイルとして勧めている。「日本人の健康寿命を延ばすために非感染性疾患の予防・対策が必要です。一無、二少、三多は万人共通の養生法となります」と池田氏は言う。
「一無」は、禁煙。たばこは、肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の最大の原因であるばかりでなく、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)や糖尿病も悪化させる。
「二少」は、少食と少飲。糖質、タンパク質、脂質の3大栄養素のバランスのとれた適量摂取と、ビタミン、ミネラル、食物繊維などを適切に摂取する。少飲はもちろん少酒。その目安は男性ではビール中ビン1本または日本酒1合くらいまでで、女性ではこれより少ない量が推奨される。「節度ある適度な飲酒」を守ることが肝要だ。
「三多」の多動と多休は、自分に合った適度な運動と質のよい休養。運動は歩行を中心とした有酸素運動、筋力トレーニング、体操やストレッチングなどを組み合わせて、1日1時間。休養は、1日6時間以上の睡眠を中心にストレスの解消と疲労の蓄積を防ぐようにする。
そして「多接」の意味するものは、多くの人・事・物に積極的に接することでストレスの解消をはかり、かつ良い趣味を育み、常に創造的な生活を実践し、心の健康をも高めることにある。
西園寺公望は明治から昭和まで政治の中枢で活躍した政治家で、伊藤内閣で文部大臣、外務大臣、立憲政友会総裁などを務めた。人にその健康法を問われると、少食、多動、多休、多接の「一少、三多」であると答えるのが常だった。池田氏はそれを発展させて、喫煙、また昔から飲酒は健康障害の大きな要因であったことをふまえ「一無、二少、三多」を提唱した。
また、江戸時代中期の儒学者で80代半ばまで生きた貝原益軒は「楽しみの達人」だった。長生きして人生を楽しむために節制を説き、虚弱体質や不遇を乗り越え、生涯現役、夫婦相愛、健康にして長寿という理想の人生をまっとうした。1713年に著した「養生訓」には、健康と長寿を実現するための心構えがつづられている。そこでは新しいライフスタイルを勧め、老いることの素晴らしさが説かれている。
とりわけ現代では「多接」を実践して、ストレスに対処することが重要となっている。ストレスは、生きていく上で避けることができないものだが、ストレスに気づき、うまく対処することができれば、また、多くの人の支援を受けて、適切に対応することできれば、人生を豊かにおくることができる。ストレスを自分自身でコントロールする術を身に着けることが大切だ。
うつ病など精神疾患にかかる社員の増加が社会問題となっており、2015年から社員が50人以上の事業場を対象に、労働安全衛生法に基づく「ストレスチェック」の実施と高ストレス者からの申し出による産業医の面談の実施等を義務付ける制度が始まった。
ストレスチェック制度は、定期的に労働者のストレス状況について検査を行ない、本人にストレスに対する気づきを促すことでメンタルヘルスの不調の発生を低減させ、より働きやすく健康的な職場に改善することを目的としている。
池田氏は「多接」について、「ストレスを解消し、きずなを深め、連帯感をもって創造的な生活をおくることが大切。悩みを一人で抱え込まないことがメンタルヘルスには必要です」と指摘する。こころの不調には、背後にそのきっかけとなる出来事やストレスの原因が潜んでいることがある。
ストレスの原因になりうる要因として、自分がどのような出来事を自覚しているのかに気づくことは、とても大切だ。気になる場合には、家族や、職場の上司や同僚、医師、産業保健スタッフなど、相談しやすい人に相談してみると効果的だ。
池田義雄・日本生活習慣病予防協会理事長が25年前から提唱している「一無、二少、三多」がメタボリックシンドロームの発症を効果的に減らすことは、和田高士・東京慈恵会医科大学院健康科学教授の調査でも明らかになっている。
人間ドック受診者9,500人について7年間にわたって追跡調査した結果、池田氏が提唱する健康習慣が、従来の健康習慣に比べてメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の発症をより効果的に減らすことがわかった。
健康習慣については、レスター・ブレスロー教授が1965年に提唱した「7つの健康習慣」や、森本兼曩教授が発表した「8つの健康習慣」が知られているが、「一無、二少、三多」はこれらを凌駕することが証明された。
和田教授は、「一無、二少、三多」の実行数を、実践率を少・中・多に分けてメタボリックシンドロームの発症率を探った。その結果、「一無、二少、三多」の実践数に比例してメタボ発症の抑制が見られ、右肩下がりの下降線を描いた。
岐阜保健短期大学学長
永井博弌 先生
「笑い」は体にさまざまな良い効果をもたらすことが、最近の研究で明らかになってきた。永井博弌・岐阜保健短期大学学長は、笑いが生活習慣病の予防、痛みの除去、認知症予防に役立つことを最新の研究成果をもとに紹介した。
若くて健康な人の体にも1日におよそ5,000個ものがん細胞が発生している。体内に発生するがん細胞や侵入してくるウイルスを攻撃しているのが、リンパ球の一種であるナチュラルキラー(NK)細胞だ。
人間の体内にはNK細胞が50億個もあり、その働きが活発だとがんや感染症にかかりにくくなる。NK細胞がどれだけ活発にがん細胞やウイルスを攻撃するかをあらわしているのがNK活性度だ。
岡山県のすばるクリニックの伊丹仁朗氏らは、20〜62歳の男女19名に、約3時間漫才や喜劇などで大いに笑う体験をさせ、直前と直後に採血し、NK活性度を調査する研究を行った。
その結果、大笑いした後は、もともとNK細胞の働きが低い人は高くなり、高すぎた人は低くなって、適正な状態に落ち着いていた。笑った後には、感染予防やNK細胞の活性化などに関わる遺伝子群の発現が高まっていた。
また、筑波大学名誉教授の村上和雄氏らが行った研究では、笑いが食後血糖値を抑えることが判明した。食事の後は、正常な人でも血糖値が上昇するが、糖尿病の患者では急激に上がる。実験では、参加者に1日目は糖尿病についての単調な講義を受け、2日目には吉本興業の芸人による漫才を鑑賞して大笑いしてもらった。
その結果、講義を聞いた日の食後血糖値は平均で123mg/dL上がったのに対し、漫才を鑑賞した日は77mg/dL上昇した。つまり、漫才で爆笑した日は講義を聞いた日に比べ、食後血糖値の上昇が46mg/dLも抑えられていた。
「笑うと免疫力が高まるだけでなく、ほかにも体にさまざまな良い効果をもたらします」と、永井氏は説明する。
笑いの健康効果
(1)自律神経に作用
交換神経(緊張)と副交感神経(リラックス)を適度に切り換え活性化する。
(2)脳の働きが活性化
脳の海馬は、新しいことを学習するときに働く器官。笑うとその容量が増える。また、笑いによって大脳新皮質に流れる血液量が増加するため、脳の働きが活発になる。
(3)快感物質ドーパミンが放出
笑うと大脳辺縁系でドーパミンが放出される。ドーパミンは快の感情(喜び)を促す物質で、白血球を活性化する。笑うと鎮痛作用と快感作用のあるエンドルフィンの分泌も増える。
(4)血行促進
笑ったときの呼吸は、深呼吸や腹式呼吸と同じような状態。体内に酸素がたくさん取り込まれるため、血のめぐりがよくなって新陳代謝も活発になる。
海外では小児科医が入院中の子どもの前でピエロの真似などをして気分をリラックスさせたり笑いを誘って、病気の快復力がどれだけ変化するかを調べるなど、笑いと健康に関する研究には早くから取り組まれている。
現在、日本は高齢化が急速に進んでおり、それにともなって高齢者の認知症患者の数は増加の一途をたどっている。
また、この認知症は糖尿病や高血圧などの生活習慣病と深く関連しており、たとえ若い世代であっても早い段階から認知症対策やその予防について意識を高めておくことが必要だ。
笑いは認知症に対して、認知機能の維持やその症状の進行を遅らせる効果をもつものとしても注目を集めている。近年、笑いにはストレス解消や脳の血流量の上昇をうながすなど、心身の健康に対するさまざまな効果・効能があるという研究結果が報告されている。
免疫力を高めたり、認知症を予防するために、楽しく笑うことに含め以下のような方法が効果的だ。
・ 適度な運動を週5回続ける
ウォーキングを毎日約30分、少し速いと思えるくらいのペースで続けると効果的だ。過労になるほどの激しい運動はマイナスになることもあるので、適度な運動をこころがけることが必要。
・ 自分の好きなことを見つけて熱中する
歌が好きならカラオケ、スポーツが好きなら自分でやったり観戦したり、絵を描くのが好きなら描いてみる。そんな楽しい趣味がNK細胞を活性化させる。好きなことに打ち込むときの集中力がカギとなる。
・ おもしろいことがなくても、笑顔を心がける
別に楽しいことがなくても、この表情を作るだけで脳は笑っていると錯覚し、気分がほぐれてくる。作り笑顔を続けた後にNK細胞が活性化するという実験結果がある。“いつも笑顔で”が免疫力アップに効果的だ。
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