第52回欧州糖尿病学会(EASD)
インスリンを自動的に調整しながら投与する「人工膵臓」の最新の試験結果が第52回欧州糖尿病学会(EASD)で発表された。「人工膵臓」は1型糖尿病患者の血糖コントロールを改善し、ベースライン時に比較して血糖値変動がより少なく、低血糖と高血糖を抑制することが示された。
血糖コントロールが改善、低血糖は減少
自宅で操作できるのも利点のひとつ
インスリンポンプ(CSII)と持続血糖測定(CGM)を組み合わせた「人工膵臓」として開発された「MiniMed 670G ハイブリッド クローズドループシステム」は、現時点では患者が食事時にインスリンのボーラス注入をする必要があり「ハイブリッド」と呼ばれている。
第52回欧州糖尿病学会(EASD)で発表された試験では、平均年齢37.8歳、罹病歴21.7年の1型糖尿病患者124人が3ヵ月間、このクローズドループシステムを着用した。
主要なアウトカムとなった重症の低血糖およびケトアシドーシスのエピソードは報告されなかった。2週間で5人の患者が低血糖を経験したが、原因はインスリンポンプの輸液セットの詰まりだった。
人工膵臓の着用中にクローズドループのモードに切り替えたのは、全体の87.2%(中央値)の期間だった。結果としてHbA1c値の平均はベースラインの7.4%から6.9%に低下した。目標血糖値を維持できた時間は、ベースラインの66.7%から72.2%に改善した。インスリン投与量は47.5U/dから50.9U/dに増加し、体重は76.9kgから77.6kgへ増加した。
「人工膵臓は従来の治療に比べ、より少ない血糖値変動を実現する。試験が行われたのは、現在の治療に使われているCSIIとCGMを組み合わせたシステムの改良型だが、より自動化されており自宅で操作でき、患者の負担を軽減できることが確かめられた」と、マサチューセッツ総合病院糖尿病研究センターのSteven J Russell氏は言う。
ミネソタ州ミネアポリスの国際糖尿病センターのエクゼクティブ ディレクターであるRichard M Bergenstal氏は、「今後30年間で人工膵臓が実用化できるかについて確信をもてなかったが、今回の試験結果を受けて、実現できる日が近いと自信をもった」と述べている。
Bergenstal氏は今回の試験について「対照群を設けず、血糖コントロールが比較的良好な患者を選び、試験の継続期間も短かった」と限界を認めつつ、「ハイブリッドクローズドループの自動化されたインスリン投与により、深刻な有害事象が起こらなかったことは評価できる。自宅でデバイスを操作できるのも利点のひとつだ」と指摘する。
現在、小児の1型糖尿病患者を対象とした試験も進行中だ。「ハイブリッドのクローズドループシステムの安全性と有効性を検証するために、より長期のレジストリデータと無作為研究が必要だ」と、Bergenstal氏は述べている。
インスリンとグルカゴンを自動投与する「人工膵臓」の開発も進められており、「バイオニック膵臓」と名付けられている。第76回米国糖尿病学会(ADA)で発表されたは、22人の1型糖尿病患者を対象とした試験では、ブラセボと比べ低血糖を75%、夜間低血糖を91%減らすことが報告された。
Safety of a Hybrid Closed-Loop Insulin Delivery System in Patients With Type 1 Diabetes(JAMA 2016年9月15日)
第52回欧州糖尿病学会(EASD)年次学術集会
[ Terahata ]