インスリン感受性を改善し、血糖コントロールを良くする新しい脂質酸を発見したと、米国のハーバード大学とソーク研究所が発表した。
糖尿病リスクに関与する脂肪酸「FAHFA」
研究チームが発見した脂肪酸は、「脂肪酸ヒドロキシ化脂肪酸」(FAHFA)と呼ばれるもの。マウスを用いた実験で血糖値を下げる効果が確認されたほか、糖尿病の患者の体内でFAHFAの量が低下していることも明らかになった。
「FAHFAには抗炎症作用もあるので、糖尿病だけでなくクローン病やリウマチ関節炎の治療にも利用できる可能性があります」と、ソーク研究所教授のアラン サガテリアン博士は語っている。
新たに発見されたFAHFAは、体内で合成されないオメガ3系脂肪酸と異なり、ヒトの体内で作られる。このことは、その合成や分解の速度を調節することが治療に影響をもたらすことを意味している。
「血中のFAHFA濃度の測定から、2型糖尿病のリスクを推定できる可能性もあります」と、主任研究者のバーバラ カーン博士は言う。
糖尿病になりにくいマウスでFAHFAが16倍に増加
これまでFAHFAの存在が知られていなかったのは、FAHFAが細胞中に微量しか存在せず、検出が難しかったからだ。今回の研究では、最新の質量分析技術を用いて、研究チームが遺伝子組み替えにより作りだした糖尿病になりにくいマウスの脂肪を検査した。
インスリンに応答して血糖値を保つために重要な役割を果たしているのが、グルコースを体内に運ぶ働きをする蛋白(グルコース輸送体)である「GLUT4」だ。GLUT4が正常に機能しないと2型糖尿病の発症につながると考えられている。
糖尿病を抑制する仕組みを調べた以前の研究で、GLUT4を増やしたマウスでは、インスリンの活性が良好で、糖尿病になりにくいことが分かっていた。
研究チームは、そのマウスでは脂肪酸の合成量が多いことに気付いた。そして、その脂肪酸の種類を調べていてFAHFAの存在に気付いたという。
「通常のマウスと糖尿病になりにくいマウスとで異なっていたのは、FAHFAの量だけでした。糖尿病になりにくいマウスでは、FAHFAの量が16倍に増加していたのです」と、カーン博士は説明する。
この脂質が新しい種類のものであることが明らかになったので、研究チームはその構造解析と合成を試みた。この研究によって、この脂肪酸が水酸化脂肪酸に脂肪酸がエステル結合した物質であることを突き止めた。
FAHFAを摂取すると劇的に血糖値が低下
研究チームが行った実験は、マウスにFAHFAを摂取させると、急速かつ劇的に血糖値が低下しインスリン濃度が上昇するという結果になった。
さらに、ヒトについても同じことが当てはまるを調べるために、インスリン抵抗性が生じているヒトのFAHFA体内量を調べてみたところ、脂肪と血液に存在するFAHFAの量が50〜75%低下していることが判明した。
FAHFAはGPR120と呼ばれる受容体と結合し、脂肪細胞にどれだけのブドウ糖が取り込まれるかをコントロールしていることも判明。体内のFAHFAの量を増やすことによってGPR120が活性化すると研究チームは考えている。
「マウスでもヒトでも、体内のFAHFAの量が多いほど良いといえます。FAHFAはいくつかのメカニズムを介して作用します。食後などに血糖値が上昇しているときには、FAHFAは速やかにインスリンの分泌を促すホルモンの分泌を促進します。それ以外にも、細胞内への糖の取り込みを直接的に促進したり、脂肪と体全体の炎症反応を軽減します」と説明している。
FAHFAは、野菜や果物などの食品に含まれているだけでなく、ヒトの体内でも生産されている。FAHFAをターゲットする新しい治療薬が開発される可能性がある。
「FAHFAの発見は新しい治療法への展望をもたらし、新しい臨床試験への希望をもたせてくれます。2型糖尿病が世界的に増加している中で、この発見はとても重要なことです」と、カーン博士は語っている。
Scientists discover a 'good' fat that fights diabetes(ソーク研究所 2014年10月9日)
[ Terahata ]