第59回日本糖尿病学会年次学術集会
糖尿病の治療で使われる経口薬(飲み薬)は7種類に増えた。治療効果を引き出すためにも、安全に治療するためにも、それぞれの薬の効果や副作用について、知っておく必要がある。
糖尿病の経口薬(飲み薬)は7種類に増え、糖尿病の治療は進歩している。全国の糖尿病専門医が参加している「糖尿病データマネジメント研究会」の調査によると、日本人の2型糖尿病患者のHbA1cは2013年に7%を切り、年々改善している。
2型糖尿病患者の3分の2以上が経口薬を併用しており、「DPP-4阻害薬」と多剤を併用するケースが増えている。
ただし薬による治療では副作用に十分に注意する必要がある。どのような副作用があるかを患者が事前に知っておけば、副作用が起きたときに医師や医療スタッフに相談しやすくなる。
インスリン抵抗性を改善し血糖値を下げる薬
糖尿病の重要な原因のひとつである「インスリン抵抗性」は、インスリンが効きにくくなった状態をさす。過食や運動不足などを続けて肥満になると、糖を筋肉細胞に取り込ませるインスリンの働きが阻害されて、食後に上がった血糖値が下がりにくくなってしまう。
インスリン抵抗性が認められる場合は、これを改善する薬が使われる。このタイプの薬には「ビグアナイド薬」と「チアゾリジン薬」がある。
ビグアナイド薬
「ビグアナイド薬」は主に肝臓に作用する薬だ。空腹時に肝臓はエネルギーを供給するため、血液中にブドウ糖を放出する。糖尿病のある人では、このブドウ糖の放出が過剰になることがある。これを抑えることで血糖値を下げる効果を得られる。
血糖値を上昇させるグルカゴンの分泌を抑制する効果もあることが明らかになった。「糖尿病データマネジメント研究会」の調査によると「ビグアナイド薬」を併用している患者は増えている。
「ビグアナイド薬」はインスリン分泌を増やさないので、単剤使用では低血糖はほとんど起こらない。しかし、まれにだが「乳酸アシドーシス」という重い副作用が起こることがある。吐き気や腹痛などの胃腸症状、倦怠感、筋肉痛、過呼吸などの症状が現れる。腎臓や肝臓の機能が低下している場合や、心臓や肺に病気がある患者、高齢者には処方されない。
チアゾリジン薬
「チアゾリジン薬」は、主に脂肪組織に作用する薬。肥満があると、脂肪組織からインスリンの働きを悪くする物質が分泌される。この薬はこれに働きかけ、脂肪組織の質を変えて、この物質の分泌を抑える。その結果、全身でインスリンが働きやすくなり血糖値が下がる。
「チアゾリジン薬」は体液貯留を促し、足などがむくむ副作用が起こることがある。
インスリン分泌を促し血糖値を下げる薬
インスリンの分泌を促進し血糖を下げる薬には、「DPP-4阻害薬」「スルホニル尿素(SU)薬」「速効型インスリン分泌促進(グリニド)薬」がある。
DPP-4阻害薬
「DPP-4阻害薬」は、食後の血糖値が上昇しそうになったときだけ、インスリンの分泌を促進させる。食事をして小腸からブドウ糖が吸収されると、インクレチンというホルモンが「血糖値が上昇した」というサインを膵臓に送り、インスリン分泌が増える。「DPP-4阻害薬」などのインクレチン関連薬にはその働きを高める作用がある。
インクレチン関連薬には飲み薬の「DPP-4阻害薬」と注射薬の「GLP-1受容体作動薬」がある。血糖降下作用がより大きいのはGLP-1受容体作動薬だ。
SU薬やビグアナイド薬を使えない高度の腎臓の障害のある患者にも使える薬も出ており、「DPP-4阻害薬」を利用する患者は増えている。
「DPP-4阻害薬」は単剤使用では低血糖が起こりにくいが、「スルホニル尿素(SU)薬」や「インスリン」などと併用した場合に低血糖がおこることがある。併用する場合はSU薬の容量を減らすなどして調整する必要がある。
スルホニル尿素(SU)薬
「スルホニル尿素(SU)薬」は、膵臓に働きかけて、インスリン分泌を促進させる。血糖値が高くても低くても、同じように働くため、副作用として低血糖を起こすことがある。
古くから使われている薬剤で、安全性が確かめられており安価で、インスリン分泌を刺激する強力な作用を得られるが、低血糖には十分な注意が必要となる。
速効型インスリン分泌促進(グリニド)薬
「速効型インスリン分泌促進(グリニド)薬」は、すぐに効き、効果がすぐに消える作用時間が短い薬。食後の血糖値が高くなっている人に適している。
「スルホニル尿素(SU)薬」「速効型インスリン分泌促進(グリニド)薬」では、低血糖が起こるので、高齢者は特に慎重に使うべきとされている。
糖の吸収や排泄を調節する薬
SGLT2阻害薬
「SGLT2阻害薬」は、腎臓に作用する薬で、血液中のブドウ糖を尿の中に多量に排出させることで血糖値を下げる。2014年に登場した薬だが、これまでにない新しい作用をもつ薬として注目されている。
「SGLT2阻害薬」を使うと、ブドウ糖を利用できなくなるため、脂肪がエネルギー源として使われ、体重が減る。肥満があり、体重を落としたい人に向いている薬だ。
「SGLT2阻害薬」は脱水、血液が産生になってしまうケトアシドーシスなどの副作用が起こることがある。単剤使用では低血糖が起こりにくいが、「スルホニル尿素(SU)薬」や「インスリン」などと併用した場合に低血糖がおこることがある。
α-グルコシダーゼ阻害薬
「α-グルコシダーゼ阻害薬」は、小腸に作用し、食べたものに含まれる糖質がブドウ糖に分解される速度を遅くする薬。ブドウ糖がゆっくり吸収されるため、食後の急激な血糖値の上昇を抑える。
毎食前に飲む必要があり、作用機序から食事時のインクレチンの分泌促進も期待できる。副作用としてお腹の張り(腹部膨張感)があらわれることがある。
血糖が下がりすぎる低血糖に注意
血糖値を下げる作用が効き過ぎ、血糖値が低くなり過ぎることがある。薬をいつも通り使用していても、ふだんと違って食事を抜いたり、食事の量が少なかったり、運動量が多いときなどに、低血糖は起こりやすい。
低血糖になると、まず空腹感、脱力感、冷や汗、震え、動悸などが現れる。血糖値がさらに下がると、頭痛、吐き気、目のかすみ、集中力の低下などが起こる。さらに下がると、意識障害、痙攣などが起こる。
米国で実施されたACCORD試験では、2型糖尿病の治療で厳格な血糖コントロールを目指すと、重い低血糖が増加し、遷延性意識障害や交感神経系の過度の興奮に続く致死性不明脈が起こるおそれがあることが示された。この教訓を受けて、現在の糖尿病の治療では、重い低血糖を避けながら高血糖を改善し、血糖変動が小さく保たれた良好な血糖コントロールが目指されている。
第59回日本糖尿病学会年次学術集会
[ Terahata ]