お酒に弱いとされる、アルデヒドを分解する酵素の働きが低い人は、飲酒習慣がなくても脂肪肝の発症リスクが高いことが、熊本大学の研究チームが人間ドック受診者を対象とした研究ではじめて明らかになった。
日本で増加傾向の「非アルコール性脂肪性肝疾患」
アルコールの飲み過ぎは脂肪肝を引き起こすことがよく知られているが、それ以外にも食べ過ぎや運動不足などが原因で、肝臓に中性脂肪が溜まり、肝機能障害が引き起こされやすい。
「非アルコール性脂肪性肝疾患」(NAFLD)は肝臓に中性脂肪が溜まった状態であり、進行すると非アルコール性脂肪肝炎、肝硬変、肝がんを発症しやすくなり、2型糖尿病や心血管疾患などの発症にも影響する。検査でNAFLDを早期発見し、適切な治療につなげることが重要だ。
一方、「アルデヒド脱水素酵素2」(ALDH2)は、肝障害の原因となる活性アルデヒドを分解する酵素。アセトアルデヒドは、飲酒後に体内のアルコールを分解する際に生成される有害物質で、お酒を飲んだ時に顔が赤くなる「フラッシング反応」や気分不良の症状は、アセトアルデヒドの作用によるものだ。
ALDH2は、飲酒後に体内でアルコールを分解する際に生成されるアセトアルデヒドを分解する能力を決める要因になっている。
アセトアルデヒド分解能力が低いと肝障害が2倍に増加
日本人を含む東アジア人では、ALDH2の活性が低い遺伝子型の人の割合が特に高く、日本人ではALDH2の働きが低い人(お酒に弱い人)が40%、働きが全くない人(お酒を全く飲めない人)が10%いるとみられている。
ALDH2が活性しない低活性遺伝子型をもっていることが心血管疾患のリスク因子となることが、東アジア人を対象とした研究で報告されている。マウスを用いた研究では、ALDH2を活性化させると肝臓への脂肪の蓄積や動脈硬化が改善することが示されている。
研究チームは今回の研究では、ALDH2遺伝子型がNAFLDの発症に及ぼす影響を調べるために、日本赤十字社熊本健康管理センターの人間ドックを受診した人のうち、飲酒習慣のある人を除外した341人を対象に調査した。
その結果、ALDH2の低活性遺伝子型の人では、活性遺伝子型の人に比べてNAFLDの罹患率が約2倍高いことが明らかになった。また、肝障害の指標として日常診療に用いられているγ-GTPを調べたところ、25.5IU/LがNAFLDの発症を予測するための分岐値となることも判明した。
γ-GTPは、肝障害や飲酒量の指標として日常診療に用いられている検査値であり、その基準値は施設によって異なるものの、一般的に70IU/L以下とされる。
お酒に弱い人がγ-GTPが高いと肝障害が4倍に増加
次に研究チームは、ALDH2の低活性遺伝子型と、γ-GTPの高値(25.5IU/L以上)の組み合わせが、NAFLDの発症に及ぼす影響を検討した。その結果、「ALDH2低活性遺伝子型かつγ-GTPが25.5IU/L以上の人」では、「活性遺伝子型かつγ-GTPが25.5IU/L未満の人」と比べて、NAFLDの発症リスクが約4倍高いことが分かった。
「γ-GTPが25.5IU/Lというのはそれほど高くない値ですが、ALDH2の低活性遺伝子型の人は、非アルコール性脂肪性肝疾患発症(NAFLD)を発症する危険性が上昇します。お酒に弱い人は定期的に検査を受けγ-GTPの値をチェックし、お酒に強くなろうと無理せず適量を守り、食事や運動などの生活改善によって予防することが勧められます」と、熊本大学大学院生命科学研究部(薬学系)薬物治療学分野の鬼木健太郎助教は言う。
今後、非アルコール性脂肪性肝疾患の発症・進展に関わる他の遺伝子型やその他の因子の影響を明らかにできれば、その早期予測が可能になり、リスクが高い人の早期発見と積極的な生活改善の指導・治療により効率的な予防・治療が可能になり、医療費を削減できるようになる可能性がある。
熊本大学大学院生命科学研究部
[ Terahata ]