横浜市立大学の研究グループは、肥満症に処方されることが多い漢方薬「防風通聖散」に肥満や糖代謝を改善する効果があり、動脈硬化の要因として注目される「血圧変動性」に対する改善効果があることを明らかにした。
防風通聖散が肥満高血圧患者の「血圧変動性」を改善
研究グループはこれまでに、内蔵脂肪型肥満を呈する生活習慣病モテルマウス(KKAyマウス)に防風通聖散を投与することで、脂肪細胞・組織や基礎代謝などへの多面的な作用を得られ、さらには、食欲増進ホルモン「グレリン」を抑制し食事量が減少することを明らかにしていた。
今回の研究では、肥満高血圧の患者を、対照治療群(52人、西洋医療単独コントロール治療群)と漢方薬併用群(54人、東洋医療と西洋医療の併用による防風通聖散治療群)とに無作為に割り付け、24週間にわたってプロトコル治療を行い、並行群間比較解析を実施した。
「血圧変動性」は、血圧が常に変動しており、測定毎に測定値にばらつきがあることを意味する。今回の研究では、血圧日内変動を詳細に知ることのできる「自由行動下血圧測定」(ABPM)検査により評価した。
その結果、コントロール治療詳と比較して、防風通聖散治療群では12週後、24週後における体重の減少効果、肥満度の改善効果を確認。また、糖代謝指標についてはコントロール治療群に比較して、防風通聖散治療群では12週後におけるHbA1c値の改善効果が認められた。
さらに、主要評価項目であるABPM検査での血圧変動関連指標については、コントロール治療群に比較して、防風通聖散治療群において24週後における血圧変動性の改善効果が認められた。重回帰分析で解析したところ、防風通聖散による治療が血圧変動性の改善に関与していた 。
以上の結果から、肥満高血圧の患者において、防風通聖散の減量効果や高血糖改善作用が明らかになり、さらには、動脈硬化合併症の原因として注目されている血圧変動性も改善することが示されたとしている。
東洋医療と西洋医療を併用する“統合医療”
肥満症の治療は、食事療法と運動療法による減量が中心となるが、実際には日常診療の指導のみでは肥満症患者が効果的な減量に成功するのは難しい。
肥満と高血圧を合併した「肥満高血圧」は患者の予後やQOLに重篤な影響をおよぼす.動脈硬化症の合併を引き起こしやすい。特に高血圧を併発した内蔵脂肪型肥満は、心筋梗塞、H凶率中、腎不全などを引き起こすリスクが高い。
一方、「防風通聖散」は肥満症に対して処方されることのある漢方薬だが、その作用メカニズムや肥満には不明な部分が多く、西洋医学的治療薬に比べて科学的エビデンスが不十分とされている。「東洋医療と西洋医療を併用する“統合医療”により、より効率的に治療できる可能性がある」と、研究グループは指摘している 。
研究グループは、防風通聖散による、動脈硬化合併症のリスクの高い肥満高血圧患者に対する臨床的効果として――
(1)体重減少効果、肥満度改善効果などの抗肥満作用、
(2)HbA1 c値低下効果による糖代謝改善作用、
(3)ABPM検査で評価可能な血圧変動性に対する改善作用、
を挙げている。
「統合医療を保険診療内で行えるのは日本独特のシステムで、日本発の漢方薬のエビデンスを蓄積していくことが、今後もより効率的な医療を推進していくために重要」と強調している 。
研究は、肥満合併高血圧に対する統合医療(東洋医療と西洋医療の併用療法)の効果を検討する多施設共同医師主導臨床研究である「Y-CORE研究」の成果。横浜市立大学医学部循環器・腎臓内科学の小豆島健護氏、大澤正人助教、涌井広道助教、田村功一准教授ら研究グループによるもので、欧州動脈硬化学会(EAS)が発行する医学誌「Atherosclerosis」に発表された。
横浜市立大学先端医科学研究センター
横浜市立大学医学部循環器・腎臓内科学
[ Terahata ]