尿中アルブミン定量検査は保険診療上、糖尿病腎症の場合でのみ算定が認められているが、冠動脈疾患患者では非糖尿病であっても糖尿病患者と同程度の微量アルブミン尿発現率を示すこと、また、微量アルブミン尿の存在はFMDで評価した血管内皮機能の低下と関連があることが、第110回日本内科学会講演会(4月12〜14日、東京)で報告された。香川井下病院内科の松村憲太郎氏、井下謙司氏の発表。
冠動脈疾患と糖尿病の有無で4群に分け、微量アルブミン尿やFMDを検討
研究の対象は、同院の午前の外来患者のうち、空腹時尿中アルブミン定量検査を実施した852名(男性389名、女性463名、平均年齢73±12歳)。透析患者、ネフローゼ症候群、急性腎不全、急性感染症、脳血管性認知症、意識障害症例は除外した。
この対象を、冠動脈疾患・糖尿病のいずれもない「nonCAD/nonDM群」504名、冠動脈疾患のみの「CAD群」124名、糖尿病のみの「DM群」105名、冠動脈疾患と糖尿病のある「CAD+DM群」119名の4群に分け、微量アルブミン尿の出現頻度、血管内皮機能等を検討した。
なお、尿中アルブミンは、0〜29mg/g・Crを正常(585名、69%)、30〜299mg/g・Crを微量アルブミン尿(222名、26%)、300mg/g・Cr以上を顕性蛋白尿(45名、5%)とした。また血管内皮機能は、前腕を5分間駆血し駆血解除後の血流依存性血管拡張反応(Flow Mediated Dilation,FMD)により評価した。
CAD群の微量アルブミン尿出現頻度はDM群とほぼ同等
結果だが、まず、尿中アルブミン≧30mg/g・Cr以上(微量アルブミン尿+顕性蛋白尿)の頻度を各群ごとにみると、nonCAD/nonDM群23.2%、CAD群33.1%、DM群39.0%、CAD+DM群57.1%の順に高かった。これを、顕性蛋白尿を除外し微量アルブミン尿のみで比較すると、同順に、21.4%、30.0%、30.5%、37.8%となり、CAD群でもDM群とほぼ同等の微量アルブミン尿出現率が示された(
図1)。冠動脈疾患患者では糖尿病の有無にかかわらず尿中アルブミンを測定する必要性が示唆される。
図1 | | 正常尿、微量アルブミン尿、顕性蛋白尿の出現頻度 |
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なお、顕性アルブミン尿を除外した上で4群の患者背景を比較し、有意な群間差がみられた因子を挙げると、CAD群およびCAD+DM群において男性の比率と年齢が他の2群より高く、HDL-Cが低かった。また、DM群およびCAD+DM群はTGが他の2群より高かった。CAD+DM群では心拍数、収縮期血圧が他の3群より高く、eGFRが低かった。BNPはnonCAD/nonDM群のみ他の3群より低値だった。
微量アルブミンを呈するCAD患者の内皮機能は、正常尿CAD患者より有意に低下
次にFMDによる血管内皮機能の検討結果をみると、正常尿症例(n=466)の6.1±3.5%に対して微量アルブミン尿症例(n=173)は5.4±3.1%で、有意に低下していた(p=0.0185)。
続いて、先に示した4群でFMDを比較すると(顕性蛋白尿症例は除外)、nonCAD/nonDM群6.2±3.5%、CAD群5.1±3.0%、DM群5.9±3.0%、CAD+DM群5.0±3.0%で、CAD群およびCAD+DM群はnonCAD/nonDM群に比し有意に低値だった(それぞれp=0.0036,p=0.0055)。
さらにCAD群を微量アルブミン尿と正常尿に二分しFMDを比較すると、微量アルブミン尿例(n=37)のFMDは4.1±1.3%で正常尿例(n=83)の5.7±2.0に比べて有意に低く(p<0.0001)、冠動脈疾患患者においても微量アルブミン尿を有する場合は血管内皮機能がより高度に障害されている可能性が示された(
図2)。
図2 | | 微量アルブミン尿を呈するCAD症例のFMD(顕性蛋白尿例は除外) |
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本研究の結語として松村氏は「糖尿病のない冠動脈患者の微量アルブミン尿発現率は糖尿病患者と同程度で、冠動脈疾患患者における潜在的腎症の合併が示唆される。また、微量アルブミン尿の存在は血管内皮機能障害を反映し、微量アルブミン尿を呈する冠動脈疾患患者の血管内皮機能(FMD)は低下している」とまとめた。
[ DM-NET ]