インスリンを分泌するβ細胞の産生を促すホルモンを発見したと、米ハーバード幹細胞研究所が発表した。糖尿病の完治につながる画期的な発見となる可能性がある。
ハーバード幹細胞研究所のダグ メルトン氏ら研究チームは、β細胞の増殖を強力に刺激するホルモンを発見し、「ベータトロフィン(betatrophin)」と名付けた。新たな糖尿病治療法の開発に結びつく発見の詳細は、「Cell」5月9日号に発表される予定だ。
(ビデオ)糖尿病治療のブレイクスルーになる発見
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糖尿病の多くを占める2型糖尿病は、肥満などがもたらすインスリン抵抗性と、膵臓のβ細胞からのインスリン分泌低下によって引き起こされる。2型糖尿病を発症する人では、β細胞の機能や量が加齢にともない低下することが知られている。
研究チームは新しい糖尿病のモデルマウスを開発し、肝臓で発現が上昇するタンパク質を網羅的に探索した。候補となったタンパク質に含まれていたベータトロフィンの生理機能を追求した。
妊娠した女性では、胎児の生育や体重増加に合わせて、インスリンの必要量が増える。健康であればβ細胞の数が増えインスリン産生が増えるが、それをコントロールしているホルモンがあるはずだと研究チームは考えた。
その結果、ベータトロフィンを増やすと、β細胞の数が特異的に増えることを発見した。マウスを使った実験で、ベータトルフィンは平均的なマウスに比べ、β細胞の生成を最大で30倍も高めることが判明した。ベータトロフィンを増やすことで血糖値が低下することも確かめた。
ベータトロフィンを体外から供給すれば、効果的に糖尿病を治療できる可能性がある。まだ実験マウスを使った研究の段階だが、このホルモンはヒトの体内にもあるという。
「β細胞の減少は、糖尿病の根本的な問題です。多くの2型糖尿病患者では、糖尿病と診断された段階でβ細胞は減少しています。インスリン分泌を刺激する治療法だけでは、β細胞の再生を期待できません」と、メルトン氏は述べている
体内でインスリンを産生するβ細胞を増やすことは難しいため、代わりにES細胞などの幹細胞をインスリンを産生する細胞に分化させるアプローチなどが考えられているが、臨床応用に至るまでには技術的な障壁がある。
ベータトロフィンは患者自身のβ細胞の産生を促す働きをする点が画期的だ。1日に数回のインスリン注射によって療法を行っている患者は多い。「ベータトルフィンは発見されたばかりのホルモンであり、まだ多くの研究が必要です。しかし、ベータトロフィンが有効であることが実証できれば、週に1回、あるいは月に1回のホルモン注射によって、治療を効果的に行えるようになる可能性があります」と、メルトン氏は話す。
ベータトロフィンの基礎研究は、米国立保健研究機構による資金提供を受け行われている。ヒトを対象とした臨床試験は早ければ3〜5年以内に開始できる見込みだという。
ベータトロフィンは、最初の段階では2型糖尿病の治療に活用することが考えられているが、開発が進めば自己免疫性疾患である1型糖尿病の治療にも役立てられる可能性があるという。その場合は、自己免疫によるβ細胞の破壊を抑える治療を同時に行う必要がある。
Potential Diabetes Breakthrough(ハーバード幹細胞研究所 2013年4月23日)
[ Terahata ]