血管内皮機能測定に用いられるFMDの上腕計測では上腕動脈のIMTを測定することも可能だが、そのFMDとIMTの測定値を層別化することで冠動脈疾患のリスク評価に役立つとの研究結果が、第77回日本循環器学会学術集会(3月15〜17日・横浜)で報告された。大阪市立大学大学院医学研究科循環器病態内科学・井口朋和氏が発表した。
動脈硬化性疾患の効果的な抑制には、ハイリスク患者への早期介入が重要とされる。現在、介入が必要なハイリスク患者の割り出しに、フラミンガム研究やNIPPON DATEなどの疫学研究データや、頸動脈IMT計測による血管狭窄度などが用いられている。また、動脈硬化の初期に生じる可逆的変化である内皮機能の低下を捉え得るツールとして、FMD(Flow Mediated Dilation)検査も、スクリーニングに汎用されるようになってきた。
FMDは、前腕(または上腕)の駆血-解放による血流依存性血管拡張反応を超音波で計測するもので、測定時には計測動脈のIMTとともに双方をセミオートで測定することが可能。近年、この上腕動脈のIMT(brachialIMT.baIMT)についても、冠動脈危険因子との関連が報告されつつある。
baIMTとFMDは、有意な負の相関関係にある
今回、井口氏らはbaIMTとFMDの両者と、各種臨床指標およびフラミンガムリスクスコアとの相関を検討した。対象は、冠危険因子を有する非冠動脈疾患患者、連続200例。主な患者背景は、年齢59±13歳、男性142名(71%)、喫煙104名(52%)、高血圧93名(47%)、糖尿病66名(33%)、脂質異常症130名(65%)。
まず、FMDを目的変数とし、年齢、性、BMI、喫煙、血圧、eGFR、血清脂質、HbA1c、上腕動脈血管径、baIMTなどを説明変数として重回帰分析を行うと、有意な因子として、年齢(r=−0.233,p=0.01)、上腕動脈血管径(r=−0.303,p=0.0003)のほかに、baIMT(r=−0.356,p=0.002)が残り、baIMTとFMDの有意な負の相関が認められた。
また、baIMTを目的変数とした場合にも、FMD以外の有意な因子として、年齢(r=0.345,p=0.0003)と上腕動脈血管径(r=0.326,p=0.01)が抽出された。
baIMT高値・FMD低値の群ほど、フラミンガムスコアが有意に高い
続いて、baIMTの値で対象を3群に分け、フラミンガムリスクスコア(FRS。10年以内の冠イベント発症率予測)の関係を検討。低位群(baIMT≦0.3mm、n=84)のFRSは11.8±9.5%、中位群(0.3mm<baIMT≦0.4mm、n=94)は15.9±10.5%、高位群(baIMT>0.4mm、n=22)は22.3±11.8%で、baIMTが高い群ほどFRSも有意に高かった(低位群と中位群はp=0.008、中位群と高位群はp=0.01、低位群と高位群はP<0.0001)。
次に、ROC解析により得られた、baIMT0.3mm、FMD5.5%というカットオフポイントでそれぞれを2分し、対象全体を計4群に群分けしたうえでFRSとの関係をみた。すると、FMD高値かつbaIMT低値の群、FMD高値でbaIMT高値の群、FMD低値でbaIMT低値の群、FMD低値かつbaIMT高値の群の順にFRSが高く、群間に有意差があった(
図)。
FMD・baIMTとフラミンガムリスクスコアとの関連
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以上の結果について同氏は、FRSによるリスク評価が欧米人と同程度には日本人においては確立されていないこと、baIMTと冠疾患アウトカムの関係は頸動脈IMTと冠疾患アウトカムとの関連ほどには研究されていないことなど、本研究の限界を挙げたうえで、「上腕でのIMTとFMDの測定は、危険因子を有する非冠動脈疾患患者のリスク層別化に役立つだろう」とまとめている。
1回の測定操作で2つの検査指標を把握できるという臨床上のメリットもあることから、より長期の大規模な研究による有用性の検討が期待される。
[ DM-NET ]