いま、1型糖尿病は/内潟 安子 先生
2026年03月31日
1型糖尿病を発症して、新しいことに遭遇する毎日で・・・
毎日はじめてのことばかり
私たちはものごころがついてから、毎日はじめてのことばかり出会います。よくよく振り返ってみますと、お父さんやお母さんをはじめ、大人のやり方を見ながらひとつひとつ真似をして、時には失敗しながら、はじめてのことを体得して自分のものとしてきたように思います。
以前『はじめてのおつかい』という番組がありましたね。小さいお子さんが「〇〇のお店に行って△△を買ってきて」とお母さんからお財布を渡され、はじめてのおつかいにチャレンジする道中をビデオカメラが追跡していくのです。小さいながらもキンチョー(緊張)の極致。歩いているうちに間違った道へ進んでしまったり、お店にやっとの思いで辿り着いても、なんのおつかいだったか忘れてしまったり・・・。心細く、アタフタしながらも、お店のおばちゃんや心配して見守るお母さんに助けられ、「なんとか買えたよー!」と喜ぶストーリーを映し出した番組でした。
試行錯誤しながらの心身の成長
毎日新しいことに直面しつつも、上級生や先生たち、社会に出れば会社の先輩や上司に教えてもらいながら段取りを覚え、年齢を重ねるにつれて子どもだった自分も成長して物事の流れを理解できるようになります。たとえば、小学生時代の夏休みの自由研究。自分で課題をみつけ、やり方を考え、研究をまとめて文章にすることができるようになったりしましたね。そうした経験を繰り返しながら社会に出て、やがて給与をいただける人間になっていくのですね。
そして定年退職する年齢になるころには、目新しいこともめっきりと少なくなり、日々のルーチンワークをこなすことで「ささやかな達成感」を得ることになります。私たちの人生はこうした試行錯誤の連続が詰まったものなんですね。
1型糖尿病を発症したばかりのお子さんはもちろん、お父さん、お母さんをはじめご家族の皆さんも、今はまさに「はじめてのことばかり」で、キンチョーの日々をお過ごしのことと思います。
ひとり暮らしをしてみたい
しかし、日々の試行錯誤から(成功体験よりも、むしろ失敗を重ねることからと言い換えることもできるでしょうか)、少しずつインスリン治療による血糖管理の理屈がわかるようになっていきます。「Aの行動をとればBになる」「Bの状態ならCやDが起きやすい」という自分なりのストーリーが見えてくるのです。そうなれば、なんでもかんでも怖がる必要がないことがわかってきます。
低血糖症状は、インスリン治療をしている自分だけが感じる感覚です(当たり前のことではありますが)。そうした感覚を含め、インスリン治療にだんだん慣れてくると、ちょっとした工夫も自分で考えられるようになり、主治医の先生に提案できるまでになります。
そして成長とともに、「遠方の大学に行きたい」「社会人になったらひとり暮らしをしたい」という気持ちが大きくなり、ひとり暮らしができる、やれるという自信が出てきます。
いざ一人暮らしを始めてみると、家族と一緒に住んでいるときは、就寝前の火の元の確認や玄関の施錠など、自分ではまったくやっていなかったことに、はじめて気づきます。それと同時に、自分が実家にいた頃、母親が夜中に低血糖をおこしていないかと、そっと寝息に耳を澄ませていたことにも気づくのです。親のありがたさを身に染みて感じつつ、一人前の大人へと成長していきます。
患者さんから教わること
私は主治医としてお付き合いしている多くの1型糖尿病の患者さんから、本当にたくさんのことを教えてもらっています。小さいときから診療している患者さんが、小学校、中学校、高校、専門学校や大学に進学し、卒業して会社員になったり、個人で事業を始めたり、さらには結婚、出産と、人生のいろいろな場面をうれしいことに共有させていただいてます。
社会人になると一人ひとり仕事の勤務シフトなどが異なったり、食生活自体が個別化してきますので、インスリン単位数も、インスリン製剤の種類も、注入方法も、その患者さんに合った製剤ややり方を編み出すこととなり、インスリン治療の個別化がどんどん進みます。新しく編み出すとでもいうべきか。これは、決して教科書だけでは学べないことです。
教わった忍耐強さ
そして、もっと大きなことも教えてもらっています。それは、皆さんの「忍耐強さ」です。毎日数回のインスリン治療とHbA1c値の評価、年に何回かの合併症に関わる検査。これらの結果は、時にじっと自分で受け止め、耐えるだけの時もありましょう。
私は、こうした日々の治療に向き合う忍耐力が、皆さんを人間として大きく成長させているのではないかと強く思っています。
プロフィール
内潟 安子
YASUKO UCHIGATA
1977年金沢大学医学部卒業
金沢大学医学部大学院卒業
富山医科薬科大学医学部 第1生化学に国内留学
米国国立衛生研究所(NIDR)に海外留学
東京女子医科大学 内科学第三講座主任教授 糖尿病センター長、
東京女子医科大学東医療センター 病院長、
東京女子医科大学附属足立医療センター 病院長を歴任
※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。
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