CGMで血糖値を持続的にモニターし、それをもとにインスリンの量を自動的に調整し、ポンプを介して投与する「人工膵臓(ハイブリッド クローズドループ技術)」を提供するパイロット試験が英国で開始される。
このほど英国の国営医療サービスである国民健康サービス(NHS)が、このパイロット試験を支援すると発表した。
最大1,000人の1型糖尿病の小児と成人の患者が、この新しいテクノロジーの恩恵を受けられる。
インスリン発見から100年を経た2021年に、人工膵臓を開発するための研究に、NHSは3億円超(200万ポンド)に相当する資金を提供する。
糖尿病患者の人生を変える新しい技術を開発
「"人工膵臓"とも呼ばれるこの"ハイブリッド クローズドループ技術"は、治療効果を高めるだけでなく、1型糖尿病患者さんの生活を変革し、生活の質(QOL)を改善する可能性を秘めています」と、英国糖尿病学会(Diabetes UK)の政策・計画・行動部門の責任者であるヘレン キッレーン氏は言う。
「英国の国民健康サービス(NHS)が、この新しいテクノロジーに資金を提供することを計画したことは、非常に歓迎すべきです」としている。
「糖尿病患者さんの人生を変える可能性のあるこの新しいテクノロジーに、より多くの患者さんが確実にアクセスできるようにするために、さらに多くの進歩が必要ですが、これは正しい方向への非常に重要で前向きな一歩です」。
この「ハイブリッド クローズドループ技術」は、持続血糖モニター(CGM)とインスリンポンプを組合わせ、コンピュータのアルゴリズムで制御するというもの。
インスリン療法は、必要なインスリンが不足している糖尿病患者にインスリンを注入し補助する治療法。CGMは、連続して皮下の間質液のグルコース濃度を測定し、血糖値を推定することのできるデバイス。
インスリンポンプは、血糖を正常に保つために分泌されている少量のインスリン(基礎インスリン)を24時間連続的に注入し、食事にあわせて必要なインスリン(追加インスリン)も簡単な操作で注入できるデバイスだ。
開発が進められている、「ハイブリッド クローズドループ技術」では、CGMで血糖値を持続的にモニターし、それをもとに必要な基礎インスリンと追加インスリンの量を自動的に調整し、ポンプを介して投与する。システムの一部では、超速効型インスリンを投与し高血糖を補正することもできる。
新しい技術を開発することで、生理的な分泌パターンにより近いインスリン補充を実現し、より厳格な血糖コントロールを可能にすると考えられている。
現状では、たとえば食事で摂取した炭水化物の量に応じて、患者がインスリンポンプで注入するインスリン量を調整する必要がある。この技術が実現すれば、患者は面倒な操作を行わなくて済むようになるという。
より多くの患者が新しい治療に確実にアクセスできるように
CGMを組み合わせたインスリンポンプはすでに実用化されており、日本でも2015年から治療に使われている。開発を進めている"人工膵臓"は、それを大幅に進化させたものだ。
実現すれば、糖尿病とともに生きる人々のHbA1cをより改善し、血糖値が目標範囲内におさまっている時間をより長くし、糖尿病合併症の危険性を減らし、糖尿病のある日常生活をさらに快適なものすることができると期待されている。
英国の25ヵ所の糖尿病専門の医療機関で、この"人工膵臓"の1型糖尿病患者を対象としたパイロット試験が開始されることが決まっている。NHSは、参加する医療機関のリストを確認中で、試験に参加できる患者を特定するための具体的な基準も開発しているという。
パイロット試験には、1型糖尿病の成人と小児の患者が参加し、マイノリティのグループや経済的に貧しいとされるコミュニティの人々も対象になる。これは、糖尿病とともに生きるすべての人が、健康と生活を改善するために平等にアクセスできるようにすることを目標としているからだという。
試験結果は、英国保健省の管轄下にある医療機構である「国立医療技術評価機構(NICE)」のレビューに反映され、公正に検討される。
「近い将来に、この革新的な技術にアクセスできる患者さんを増やすために、リアルワールドで得られたデータを活用することを考えています。この"ハイブリッド クローズドループ技術"の開発が成功し、より多くの患者さんが新しい治療に確実にアクセスできるようになることを願っています」と、キッレーン氏は述べている。
英国糖尿病学会(Diabetes UK)
[ Terahata ]