自己免疫疾患である1型糖尿病で、発症後まもなく消失すると考えられてきたインスリン産生細胞(膵β細胞)は、実際は患者の3人に1人で残存していることが、約900人の1型糖尿病患者を対象とした研究で明らかになった。
発症から40年以上経った患者でもインスリンを産生を確認
1型糖尿病では破壊されたβ細胞は数年内に消失すると広く考えられていたが、最近の研究で患者のおよそ3人に1人でβ細胞が少量ながら残存しており、内因性インスリン分泌能が保存されていることが判明した。残されたβ細胞は1型糖尿病の発症後も40年にわたりインスリンを分泌しているという。
発表された研究は、米国の小児および成人の1型糖尿病患者を対象に実施されている大規模調査「T1D Exchange研究」の成果で、米国糖尿病学会が発行する医学誌「ダイアベティス ケア」に発表された。
1型糖尿病は、免疫系が自分の体を攻撃して、インスリンを作っている膵臓のβ細胞が破壊されるために起こる自己免疫疾患。インスリンが絶対的に欠乏するので、生命維持のためにインスリン治療が必要となる。
研究チームは、5〜88歳の1型糖尿病919人のバイオサンプルを調べ、Cペプチド値と尿中ペプチド排泄量などを調べた。Cペプチドは、インスリンの前段階の物質(プロインスリン)からインスリンが作られるときに発生する物質で、インスリンとほぼ同じ割合で生じるため、インスリン生産量を把握するのに用いられる。
研究では従来方法よりはるかに微量のCペプチドを検出できる新技術を活用した。その結果、1型糖尿病を発症してから3〜5年が経過した患者では、18歳以降に発症した患者では78%で、18歳以前に発症した患者では46%で、Cペプチドが存在していることが判明した。全体では1型糖尿病患者の29%でCペプチドが検出された。
さらに、診断から40年以上が経過した患者でも、18歳以降に発症した患者の16%、18歳以前に発症した患者の6%でCペプチドが検出された。英国のエクセター医科大学の研究でも、30歳以下で罹病期間が5年以上の1型糖尿病患者では、約80%でCペプチドが検出されることが確認されている。
「1型糖尿病患者の多くで、低レベルながらインスリンが産生されていたというのは大きな発見だ。発症から40年以上経った患者でもインスリンは産生されていた。β細胞が己免疫のプロセスで完全に破壊されないか、破壊後に再生している可能性がある」と、研究を主導したベナロヤ研究所のアサ デイビス氏は言う。
インスリン産生能が低くても、それを保持、あるいは再生できるということは、低血糖の抑制や糖尿病合併症の減少につながる。さらに、内因性インスリン分泌能が残存している段階で、免疫作用を抑えてβ細胞が破壊されるのを防ぐことができれば、1型糖尿病の新たな治療法になる可能性もある。
「ただし、なぜ一部の患者でインスリン産生が維持され、一部患者でそれが失われるかは不明だ。それが解明されれば、1型糖尿病の発症メカニズムについて根本的な解明につながり、新たな治療法の開発に向けた助けとなるだろう」とデイビス氏は述べている。
[ Terahata ]