1型糖尿病患者の30分後の血糖値を90%の正確さで予測できるアルゴリズム(数学的モデル)を、ペンシルベニア州立大学の研究者らが開発した。30分後の血糖値が予測できれば、インスリンによる血糖コントロールをより正確に行えるようになる。
インスリンポンプとCGMを組み合わせた人工膵臓
インスリンポンプ療法(CSII)の利便性は改善されており、欧米では1型糖尿病患者を中心に普及している。インスリンポンプには、血糖変化に合わせて30分ごとに医師によってプログラムされたインスリン量を24時間持続的に注入したり、食事や高血糖でインスリンの追加が必要な場合にインスリンを追加投与できる機能が備わっている。
一方、持続血糖モニタリング(CGM)は、皮下組織にセンサを装着し、連続的にグルコース濃度の推移(変動)をみる測定法。1日に数回の血糖自己測定(SMBG)に比べ、測定回数が格段に多く、血糖値の日内変動を詳しく把握できる。
米国などでは、モニターとセンサーの無線交信により、直近の血糖値が画面に表示される「リアルタイムCGM」が臨床で用いられている。2006年にはインスリンポンプとリアルタイムCGMを併用した機器も登場し、低血糖の増加なく血糖コントロールの改善が可能となった。
さらに、低血糖時に自動的にインスリンポンプのインスリン基礎注入を一時停止する機能が付加された機種が開発され、欧米で使用されている。1型糖尿病患者を対象とした試験で、夜間低血糖の既往がある患者で夜間低血糖が有意な減少し、無自覚低血糖の危険性が高い患者でも重度〜中等皮の低血糖の有意な減少が報告された。
こうした成果を受けて、CGMで測定された血糖値により自動的にインスリンポンプからのインスリン注入が調節される「クローズドループ」のインスリンポンプの開発が行われている。それは、人工膵臓(artificial pancreas)とも言われており、近い将来に携帯型の人工膵臓が実現すれば、血糖コントロールの改善と低血糖の低減に貢献すると期待されている。
しかし血液中と皮下測定したブドウ精濃度にはタイムラグがあり、インスリン投与は皮下で行うため、効果で出るまでに遅れが生じるという問題点があり、アルゴリズムの改良など課題は残されていた。
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30分後の血糖値を正確に予測するモデルを開発
CGMによって皮下の間質液から測定できる血糖値は8〜15分以内の近似値であって、その時点での正確な数値ではない。このことがとりわけ睡眠時には問題になり、血糖値モニターがアラームを発する前に、低血糖状帯に陥ってしまうことがしばしば起こる。
血糖値はインスリン、食事内容、身体活動の状態などによって複雑に変動する。この変動がどの程度大きくなるかは、個人によって異なっている。低血糖症状への対策が遅れるのは深刻な問題だ。
「ここ10年間で、身体埋め込み型や携帯型の人工膵臓が開発され、臨床試験が行われました。血糖値とインスリンの反応性についての実測データが集積されてきましたが、このデータをもとにアルゴリズムを解析しつつ、適切なインスリン投与を個々の患者に最適化する研究が行われています」と、ペンシルベニア州立大学の特別教授であるピーター モレナール氏は話す。
研究チームは、数学的な解析により血中インスリン濃度と血糖値を正確に予測するモデルを構築しようと試みた。動的システムの状態を予測するために、「拡張カルマンフィルタ」と呼ばれる関数プログラムを用いて血糖値の変動モデルを作成した。このモデルはインスリン投与と食事による24時間の血糖変動を時間ごとに予測するよう構成されている。このモデルの正確さについて、研究者らはFDAの認可した1型糖尿病をシミュレートしたUVa/Padovaというコンピュータモデルを用いて検証した。30人の仮想的1型糖尿病患者と、5人の実際の1型糖尿病患者を対象に検討を行った。
同じ患者においても、また違った患者間においても、インスリン投与量と食事により血糖値はダイナミックに変動したが、開発した変動モデルは、90%の正確さで血糖値を予測できることが示された。
「血糖変動を正確に読み取り、血糖値を正確に予測することで、30分間の余裕をもって対処することができれば、血糖値が変化することが分かった時点でインスリンを適切に投与することができるようになります。開発した回帰的予測曲線によるパラメータモデルはどんな患者にも対応できます。人工膵臓の実現に近づいたと言えます」と、モレナール氏は述べている。
Model predicts blood glucose levels 30 minutes later(ペンシルベニア州立大学 2014年3月25日)
[ Terahata ]