DPP-4阻害薬のアログリプチンが、脂質代謝改善を介した経路で血管内皮保護的に作用する可能性を示す研究結果が、Cardiovasc Diabetol 誌の電子版に掲載された。岡山大学大学院医歯薬総合研究科循環器内科の野田陽子氏・三好亨氏らの論文。
糖尿病や耐糖能障害、メタボリックシンドロームで動脈硬化が進展する一つの機序として、食後の一過性高脂血症の影響があると言われており、実際にFMD(Flow Mediated Dilation.血流依存性血管拡張反応)による検討などから、脂質摂取後に血管内皮機能が低下することが既に報告されている。一方、DPP-4阻害薬は糖代謝のみでなく脂質代謝も改善させることが知られており、食後の一過性高脂血症の改善を介して血管内皮保護作用をもたらす可能性がある。
野田氏らは、DPP-4阻害薬であるアログリプチンが食後高脂血症に及ぼす影響、および、脂質代謝改善を介して食後の血管内皮機能低下が抑制されるかを、健常者を対象に検討した。
クロスオーバー法によりアログリプチンの効果を検討
健常ボランティア10名(平均年齢35歳、男性8名)を、アログリプチン25mgを内服する群と内服しないコントロール群に2分し、1週間経過後にクッキーテスト(脂質28.5gを含むクッキーの摂取)を実施。ウォッシュアウト(1週間)後にクロスオーバーさせ、再度1週間後にクッキーテストを行った。
血管内皮機能は、前腕駆血後5分後の上腕動脈の最大拡張径から安静時血管径を引いた値を安静時血管径で除した値「%FMD」で評価。クッキー摂取前後にFMD検査を施行するとともに、採血により、血糖、血清脂質、インスリン、グルカゴン、GLP-1、アポB48、RLP-C(レムナント様リポ蛋白コレステロール)を測定した。
1回目のクッキーテスト施行前において、アログリプチン群のGLP-1が5.2±0.7pmol/L、コントロール群3.2±0.8pmol/Lと有意差がみられたが(p=0.03)、その他、BMIや血圧、血糖、血清脂質、心拍数、および前記の検査値のいずれも有意な群間差はなかった。
血糖変動に差はないものの、FMDの最大低下度は有意に抑制される
クッキー摂取後のFMD最大低下幅を比較すると、コントロール群の平均−4.5%に対しアログリプチン群では平均−2.5%と、FMDの低下が有意に抑制されていた(p=0.01)。
その一方で、検討対象が健常者であるため血糖は両群とも大きな変動はみられず、AUCにも有意差はなかった。また、血糖の最大変動幅とFMDの最大低下幅にも有意な相関がみられなかったことから、アログリブチンによるクッキー負荷後FMD低下の抑制は、血糖上昇抑制とは別の経路によりもたらされている可能性が考えられた。
アポB48などの食後脂質代謝異常マーカーとFMDの変動が有意に相関
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FMD最大変化量と TG・アポB48最大変化量との関係
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続いて脂質関連指標の変化をみると、TGはクッキー負荷2時間後および4時間後の値に有意差がみられ、アログリブチン群で上昇が抑制されていた。またTGのAUCもアログリブチン群のほうが有意に少なかった。
動脈硬化惹起性が極めて高いとされるRLP-CもTGと同様に、クッキー負荷2・4時間後で群間の有意差がみられ、AUCもアログリブチン群が有意に少なかった。また、外因性TGの吸収マーカーとされるアポB48は、クッキー負荷後2時間値に有意な群間差がみられ、アログリブチン群のAUCが有意に少なかった。
加えて、TGの最大変動幅はFMDの最大低下幅と有意に相関し(r=0.45,p=0.04)、アポB48の最大変動幅もFMDの最大低下幅と有意に相関していた(r=0.46,p=0.03)。
なお、LDL-CやHDL-Cはほとんど変化しなかった。
GLP-1のTG吸収抑制、酸化・炎症ストレスの軽減が内皮保護に関与する可能性
今回の検討でクッキー摂取前から群間差がみられたGLP-1は、クッキー摂取後もアログリプチン群のほうが高値で推移し、AUCにも有意な群間差がみられた。
これらの結果から同氏は、「GLP-1が腸管でのTG吸収を抑制することで、食後高脂血症によって生じる炎症や酸化ストレスが軽減されて、血管内皮機能の低下が抑えられたのではないか」と考察している。DPP-4阻害薬が糖代謝改善に加えて脂質代謝改善を介する経路でも、動脈硬化進展を予防する可能性が示唆される。
[ DM-NET ]