インスリンが細胞のインスリン受容体と結合する仕組みを、3次元構造であきらかにしイメージ化するのに、米国とオーストラリアの合同研究チームが世界ではじめて成功した。
世界初 インスリン受容体との結合を分子レベルで解明
米豪の合同研究チームが、インスリンが細胞の表面にあるインスリン受容体と結合し、血液からグルコースをエネルギーとして取り込む仕組みを分子レベルで詳細に提示することに、世界ではじめて成功した。新しいタイプのインスリン製剤の開発につながる成果と期待されている。
研究チームは、メルボルンに建造されたオーストラリア・シンクロトロン(粒子加速装置)を使い、この歴史的な発見を行った。シンクロトロンは、電子を加速しつくりだしたエックス線よりも1万倍以上も強い光線を照射することで、研究対象となる物質を詳しく解明することを可能にする。研究成果は「ネイチャー」誌に発表された。
研究チームは20年以上にわたり、インスリンがどのようにしてインスリン受容体に結合するのかという謎を解決しようと試みていた。マイク ローレンス博士、コリン ワード博士およびジョン メンティング博士が率いる研究チームがこの解決法を見出した。
インスリンの受容体への結合を3次元構造であきらかにしたローレンス博士は、構造生物学の専門家だ。「糖尿病治療のための新型インスリン製剤を開発するために、インスリンがインスリン受容体とどのように相互作用するかを理解することが欠かせません。インスリン分子が細胞とどのように相互作用するかを知るのは、これまでは不可能でした。今回の発見により、より性能が向上した新型インスリン製剤を開発できると考えると、とても興奮しています」と、ローレンス博士は述べている。
インスリン結合を世界で初めてイメージ化 新たな糖尿病治療につながる成果
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オーストラリア・シンクロトロンの超高輝度マイクロビームビームラインは、研究プロジェクトを成功に導くために重要な役割を果たした。「このオーストラリアのすばらしい施設と研究スタッフの力がなければ、計画を完成させることは容易ではなかったでしょう」と、ローレンス博士は述べている。
ローレンス博士は、ケース・ウエスタン・リザーブ大学、シカゴ大学、ヨーク大学、プラハ有機化学生化学研究所からの研究者を含む国際共同研究チームを立ち上げた。「この分野では共同研究が不可欠です。このような難しい研究計画を成功させるためには、1つの研究施設だけではすべての資源、専門的な知識と経験をもってしても不可能です」と述べている。
「インスリンはグルコースがいつ、どのようにして体内で使われるのかをコントロールします。インスリン受容体は細胞表面にある大きなタンパク質で、インスリンはそこに結合します。インスリンが受容体にどのように結合するのかは、これまで分かっていませんでした。そのことが、新しいタイプのインスリン製剤を開発するのを困難にしていました」。
「今回の発見では、インスリンがとても独特な方法で受容体を捉えることが分かりました。インスリンと受容体の両方が相互作用する際に再構成を行い、インスリンと受容体の主要な部位がインスリンを引き込むために移動するのです。これを“分子同士の握手”と呼んでもよいでしょう」とローレンス博士は述べている。
「インスリンは主要な糖尿病治療薬です。潜在的には、その特性を改善できる多くの方法はたくさんあります。この発見により、これまでにない新しい種類のインスリン製剤を開発することができるようになるでしょう。注射以外の方法で投与できるインスリンや、特性を改良した発現時間のより長いインスリンを開発できれば、現状のように頻繁に注射しなくてもよくなります」。
「冷蔵で保管しなくても劣化しないようなより安定したインスリンを開発できれば、途上国での糖尿病治療にも貢献できます。今回の研究結果はこうした種類の治療を開発するための、新たなプラットホームとなるでしょう」とローレンス准教授は述べている。
First image of insulin ‘docking’ could lead to better diabetes treatments(ウォルター・エリザホール医学研究所 2013年1月13日)
[ Terahata ]