肝臓からの神経ネットワークにより、インスリンを分泌する膵臓のβ細胞が増殖することを、東北大学大学院医学系研究科の片桐秀樹教授(代謝学)と岡芳知教授(同)らの研究グループが発見した。この仕組みを刺激することで糖尿病を治療できるという。米科学誌「サイエンス」(米国時間11月21日号)に掲載予定。
肥満になるとインスリンの効きが悪くなる「インスリン抵抗性」が起こる。すると、膵臓にあるβ細胞が増殖し、インスリンを分泌して血糖値の上昇を防ごうとする。一方で、この反応が不十分だったり膵臓のβ細胞が減少したりして、インスリンの分泌が悪くなると、糖尿病となる。研究グループはこの体に備わった
機構を解明し、「肥満になると、肝臓が神経と脳を通じて指令を出し、それを受けて膵臓のβ細胞を増殖させる」と考えた。
代謝を制御する自律神経のはたらきは、肝臓と脳をつなぐ「内臓神経(交感神経)」と、脳から膵臓に信号を送る「迷走神経(副交感神経)」による神経回路からつくられる。
(1) 肝臓が、肥満状況を感知し神経シグナルを発して脳にインスリンを増やす必要性を伝える。
(2) それを受けて脳は、膵臓に信号を送る神経を使って、膵臓のβ細胞を増殖させる。
(3) その結果、多くのインスリンを分泌して血糖値の上昇を防ごうとする。
研究グループは、インスリン分泌の低下した糖尿病のマウスで、この神経ネットワークを刺激してみた。すると、β細胞が増殖しインスリン分泌が改善、糖尿病を治療することができた。これは、神経系、特に脳が、血糖値などの全身の代謝調節を行っていることを見出したもので、メタボリックシンドロームの解明にも意義深い。
神経ネットワークというもともと体に備わっている仕組みを発見し、それを刺激することで、β細胞を再生できる可能性がある。インスリン注射を行っている糖尿病患者は国内だけでも60万人を超えるといわれる。片桐教授は「このような患者にとって、β細胞の再生につながる研究は、大きな福音になるだろう」と話す。
東北大学大学院医学系研究科 附属創生応用医学研究センター
[ Terahata ]