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2017年05月09日

ACCORD追跡研究 脂質管理強化は本試験同様、高TG/低HDL-Cで有効

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 心血管疾患ハイリスク2型糖尿病患者に対し血糖・血圧・脂質介入の効果を検証したACCORD試験の追跡調査(ACCORDION)の報告が相次いでいる。このほど脂質介入試験ACCORD-Lipidを追跡した結果が報告された。結果はACCORD本試験と同じで、全例解析では群間差がないものの、高TG血症/低HDL-C血症を対象とするサブグループ解析では、スタチンにフェノフィブラートを追加した群で、引き続き有意な心血管イベントリスク低下が観察された。

無作為化後、介入4.7年、追跡期間5年、計9.7年の観察期間
 ACCORD(Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes)は心血管疾患ハイリスクの2型糖尿病患者約1万例を対象とし、全体を血糖管理強化/標準介入の2群に分けた上で、さらに血圧または脂質に関してそれぞれ強化/標準介入群を設け多面的に解析するという無作為化多施設二重2×2factorial試験である。一次アウトカムとして、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心血管死の複合エンドポイントが評価されたほか、網膜症(ACCORD-Eye)、認知機能(ACCORD-MIND)、QOL(ACCORD-HRQL)など多数のサブ解析が行われてきている。

 よく知られているように、血糖介入試験は試験期間中に強化療法群で総死亡の有意な増加が観察されたことから、安全性委員会の勧告により途中で中止された。一方、血圧と脂質に関する研究は当初の計画どおり終了した。

 ACCORDの脂質試験であるACCORD-Lipidには5,518名が参加。全例にシンバスタチンを用いた上で、強化療法群にはフェノフィブラート、標準療法群にはプラセボを投与した。4.7年の介入の結果、2群間のイベント発生率に有意差は認められなかった(HR:0.92,95%CI:0.79-1.08)。

 しかし、事前に設定されていた高TG血症/低HDL-C血症(TG≧204mg/dLかつHDL-C≦34mg/dL)を対象とするサブグループ解析では、フェノフィブラート群で有意な心血管イベントリスクの低下が認められていた(HR:0.69,95%CI:0.49-0.97)。この結果は、脂質異常症を併発した糖尿病患者のうち、フェノフィブラートの主要な治療ターゲットである高TG血症を伴う患者には、スタチンとの併用でその上乗せ効果を期待できることを示している。

 ACCORD終了後、引き続き被験者を追跡調査する観察研究ACCORDION(Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes follow-on)が行われ、血糖強化療法の“レガシー効果”が確認されたことなどが既に報告されている。今回報告された論文は、ACCORDIONの脂質に関する追跡調査の結果であり、ACCORDの介入期間である4.7年を経過した後、追跡期間5年間の主要エンドポイントを再評価したもの。

本試験同様に、全例解析では有意差なし
 ACCORD-Lipidに参加した5,518名中、生存者の90%に相当する4.644名がACCORDIONでの継続観察の対象となった。

 ACCORD終了後、被験者の74.1%にスタチン治療が行われていたのに対し、フィブラート治療が行われたのはわずか4.3%だった。そのためACCORDION中、旧フェノフィブラート群、旧プラセボ群ともにTGは平均160.8mg/dL、HDL-Cは40.5g/dLに向かい徐々に収束していった(旧フェノフィブラート群ではTGが上昇しHDL-Cが低下)。他方、LDL-Cは両群ともに80.2mg/dLから77.0mg/dLへとわずかに低下した。これは最近の各種ガイドラインがLDL-Cのより厳格な管理を推奨するように変わってきたことを反映するものと推測される。

 ACCORDIONにおける旧フェノフィブラート群の旧プラセボ群に対する一次エンドポイントのハザード比は0.93(95%CI:0.76-1.34)、ACCORDとACCORDIONを通してみた場合も0.93(95%CI:0.83-1.05)で、これらはACCORD本試験の結果(前記)と同じと言える。

高TG/低HDL-C群では、フェノフィブラート群に“レガシー効果”
 しかし前述のように、ACCORDでは事前に設定されていた高TG血症/低HDL-C血症群でのサブグループ解析で、フェノフィブラート群における有意な一次エンドポイン抑制が認められていた。その影響はACCORDIONに移行後も引き続き観察され、旧プラセボ群に対するハザード比は0.73(95%CI:0.56-0.95)と有意であった(図1)。


 ACCORD終了後にTGやHDL-Cの差が縮小したにも関わらず、心血管疾患エンドポイント発生率の有意差が継続したことは、フェノフィブラートによる高TG血症/低HDL-C血症への介入の“レガシー効果”とみることもできる。
細小血管症に対するフェノフィブラートの効果は介入期間のみで確認
 一方、ACCORDにおいてフェノフィブラート群では網膜症や腎症といった細小血管症を有意に抑制することが観察されていた。網膜症に関する研究であるACCORD-Eyeの追跡調査の結果は既に報告されており(図2)、旧フェノフィブラート群の網膜症進展抑制効果はACCORDIONでは認められず、同薬による介入中止後にはその効果が維持されていない。

 よって、脂質異常症の治療に加え網膜症進展抑制を視野に入れてフェノフィブラートを投与する場合、継続投与が必要であるものと考えられる。

性差による相違もACCORDの結果を引き継ぐ
 このほか、ACCORDで認められていた性差の影響がACCORDIONでより強調された結果となった。具体的には、ACCORDでは女性においてフェノフィブラート群がプラセボ群より有意でないものの心血管イベントが多発する傾向があったが(HR:1.38,95%CI:0.98-1.95)、ACCORDIONではハザード比1.30、95%信頼区間1.01-1.68と有意にイベントが多く発生していた。ただしこの点について著者らは、ACCORD同様にフェノフィブラートで介入したFIELDでは性差が観察されていないことから「予期せず、説明できない現象」とし、もともとACCORDの女性被験者が少なかったことなどによる偶然の結果ではないかと述べている。

 反面、男性ではACCORD(HR:0.82,95%CI:0.69-0.99)、ACCORDION(HR:0.84,95%CI:0.73-0.96)ともに、有意に心血管イベントを抑制することが示されている。

血糖・血圧・脂質管理の強化が心血管イベント・網膜症進展に及ぼす影響のまとめ
 これまでのACCORD、ACCORDIONの報告から、血糖・血圧・脂質管理強化の心血管疾患および網膜症に及ぼす影響をまとめる。

 血糖管理強化は、心血管イベントに対して、ACCORDでは有効性が認められず(むしろ管理強化により総死亡が有意に増加)、ACCORDIONでも同様。網膜症に対しては、ACCORDで有効であり、ACCORDIONでも有効性が継続していた。

 血圧管理強化は、心血管イベントと網膜症の双方に対して、ACCORDで有効性が認められていない。

 脂質管理強化は、心血管イベントに対して、ACCORDでは有効性が認められず、ACCORDIONでも同様。ただし、高TG血症/低HDL-C血症のサブグループでは、ACCORDで有効であり、ACCORDIONでも有効性が継続していた。網膜症に対しては、ACCORDでは有効だったものの、ACCORDIONにその効果は継続していなかった。

関連ページ

ACCORD-Lipid(脂質介入試験)の追跡調査について
Association of Fenofibrate Therapy With Long-term Cardiovascular Risk in Statin-Treated Patients With Type 2 Diabetes.
   〔JAMA Cardiol 2(4):370-380, 2017〕


ACCORD-Eyeの追跡調査について
Persistent Effects of Intensive Glycemic Control on Retinopathy in Type 2 Diabetes in the Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes (ACCORD) Follow-On Study.
   〔Diabetes Care 39(7):1089-1100, 2016〕


ACCORDの血糖介入試験の追跡調査について
Nine-Year Effects of 3.7 Years of Intensive Glycemic Control on Cardiovascular Outcomes.
   〔Diabetes Care 39(5):701-708, 2016〕

[ DM-NET ]
日本医療・健康情報研究所

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