糖尿病セミナー

22. 糖尿病の人の性

2005年11月 改訂

監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
性の健康医学財団名誉会頭 熊本悦明先生
博慈会記念総合病院顧問  白井將文先生


糖尿病による性機能障害の現状

 糖尿病の男性が性機能障害を起こしやすいことは広く知られています。調査によってやや差がありますが、糖尿病男性の3〜6割に性機能障害があるといわれています。しかし、実際に治療を受けている人はずっと少ないのが現状です。その理由は、性機能障害は他の合併症と異なり、肉体的な苦痛がなく生命には関わりがないこと、医師に相談することの羞恥心、「若くもないのに今さら性機能障害で病院に行くなんて」といった、ためらいなどが考えられます。

人の性、糖尿病の人の性

より質の高い生活のために

 医学の進歩により、かつて「人生50年」といわれていた人の寿命も、今や80年となりました。そして、糖尿病の人でも血糖コントロール次第で健康な人と変わらず、元気に寿命を全うすることができるようになっています。これは大変すばらしいことですが、同時に、延びた30年の月日をどれだけ人間らしく充実した人生にできるか、生活の質(QOL)の向上という課題が生まれました。
 QOLの高い生活とは、例えば身の回りのことが自分一人でできること、あるいは趣味をもち仲間と過ごす時間があることなど、いろいろ考えられます。そして"男と女の性"もQOLの高い人間らしい生活を送るための、大切な事柄ではないでしょうか。

人の性とは

 そもそも人間にとって性とはなんでしょう。ひとつのたとえとして、都市をつくる場合を考えてみます。都市計画ではまず、家や上水道、道路をつくり、そして下水道をつくることが、人々が暮らすための基本的な条件となります。しかし、それだけでは人間らしい生活ができる都市にはなりません。公園などの憩の場や図書館などの文化施設が必要です。
 これを人間のからだにあてはめた場合、上水道は胃腸などの消化器、道路は血管などの循環器、下水道は泌尿器といえます。それらの管理がよければヒトの健康は保てますが、人間らしい生活をするには、憩の場や文化施設にあたる機能が必要です。それがまさに性の役割といえます。性が生活に潤いを与えることで、人としてより充実した人生を送ることができるようになります。
 人の性は、単に子孫繁栄のためだけの機能ではありません。「人生100年」の時代となり、高齢の方にも高いQOLが求められる現在、性機能の問題は、医学的にも社会的にも注目されるようになってきました。
 そうした中、最もクローズアップされるのが、健康な人とほとんど変わらない生活も可能なのに、年齢の割に早く機能的な障害が現れる、糖尿病の人の"性"なのです。

まずは医師に相談を


図1 性交頻度と性交が生活に与える潤いの関連(調査対象は男性) 〔熊本先生の統計より〕
 我が国では、いまだに性について語ることをためらったり、あるいは「いい歳をしてはしたない」と考えてしまう傾向があります。しかし、異性と体温を確かめ合い、生きていることを実感することは、生活上の精神的活力を維持するうえで、とても大事なことです。
 性の満足感が高い人ほど人生の充実感が高く、逆に性の満足感が低い人は人生に不満が多いという統計がありますが、当然の結果といえるかもしれません。性の満足感を得られないことは、人生の大きな損失ともいえますし、結婚生活全般にも影響を与えかねません。
 逆に、糖尿病で性機能障害がある方が治療を受けた結果、糖尿病の治療にもよい影響が現れるケースが少なくありません。生きがいや人生の喜びを実感できることが、より積極的な治療への原動力になるものと考えられます。
 性機能障害が心配な方は恥ずかしがらず、積極的に医師に相談しましょう。どんな病気でもそうですが、早めに適切な治療を開始するほど、より高い治療効果を期待できます。しかも最近の医学の進歩によって、性機能障害の多くは治療可能になっています。

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