糖尿病セミナー

11. 糖尿病用語辞典

2015年12月 改訂

監修
東北大学名誉教授 後藤由夫先生

編集
糖尿病セミナー編集部

    解説文が「→○○」となっている語句は、○○の項を参照してください。
    解説文中の青文字の語句は、その語句が見出し語として解説されていることを示しています。


α-グルコシダーゼ阻害薬経口薬療法

アルブミン尿腎症がある程度進行すると、尿の中にたんぱく質が出る(排泄する)ようになりますが(たんぱく尿)、分子量の小さいアルブミンというたんぱく質は、それよりも早期に尿に混ざるようになり、これをアルブミン尿といいます。腎症の進行防止には、アルブミンをごくわずか排泄する「微量アルブミン尿」の段階から早期に見つけ、血糖値・血圧を厳格に管理することが大切です。

1,5-AG血糖コントロールの指標のひとつで、検査時点から過去数日間の血糖状態を反映します。正常値は 14.0μg/mL以上です。

1型糖尿病自己免疫疾患(免疫機が自分の身体に対して働いてしまう病気)や原因不明の仕組みで、膵臓のβ細胞が破壊されて発病するタイプの糖尿病。2型糖尿病と異なり、生活習慣と関係なく発病し、インスリン依存状態になります。成人よりもむしろ小児・若年期に発病することのほうが多いものです。

一次予防健康な人あるいは境界型の人が、糖尿病(2型糖尿病)の発病を未然に防ぐための予防。肥満者の減量などが該当します。

インクレチン食後に腸から分泌されるホルモンで、インスリン分泌を増やしグルカゴン分泌は減らします。この作用は血糖値が高いときにだけ現れるため、薬として用いたとき、低血糖をそれほど心配せずに高血糖を改善できます。インクレチンにはGIPとGLP-1があり、そのうち治療により適しているGLP-1の注射薬と、GIP・GLP-1双方の分解を抑えてその働きを助けるDPP-4阻害薬という経口薬が使われています。

インスリン膵臓のβ細胞から分泌されるホルモンで、血液中のブドウ糖を細胞内に取り入れエネルギーとして利用する際に必要です。糖尿病は、このインスリンの分泌量が減少したり、インスリンが作用を発揮する細胞にインスリン抵抗性があることから、インスリンの作用が低下し、ブドウ糖が利用されずに血液中にあふれる病気です。

インスリン依存状態インスリン分泌がほぼゼロとなり、インスリンが絶対的に不足するため、体外からインスリンを補給しなければ生命を維持できない状態です。

インスリン抵抗性インスリンの作用を受ける細胞の感受性が悪くなること。インスリン抵抗性があると、血糖値を下げるために膵臓から大量のインスリンが分泌されます(高インスリン血症)。インスリン感受性がさらに悪化すると、インスリンがたくさん分泌されていても血糖値が下がらなくなり、糖尿病になります。やがてβ細胞が疲れきって機が低下し、糖尿病は悪化します。インスリン抵抗性は2型糖尿病の原因となるほか、高血圧や動脈硬化の進行とも深い関わりがあります。なお、風邪を引いて熱が出たりするシックデイには、一時的にインスリン抵抗性が強まります。

インスリン非依存状態インスリン分泌の低下やインスリン抵抗性から、相対的なインスリン作用不足にある状態です。インスリン療法をしなくても生命は維持できますが、血糖コントロールのためにインスリン療法が必要なケースもあります。

インスリン分泌インスリンは膵臓のβ細胞で作られ、血液中に分泌されます。このインスリン分泌には、24時間少しずつ持続して分泌される「基礎分泌」と、食後の血糖値上昇に反応して分泌される「追加分泌」の2パターンがあります。

インスリン療法体外からインスリン製剤を注射して血糖コントロールする治療法。1型糖尿病では必須で、2型でも他の治療法で血糖値が治療目標まで下がらない場合には必要です。使用するインスリン製剤は、血糖降下作用の持続時間によって、速効型、持続型など数種あります。また1日の注射回数から2回法、3回法などのパターンがあって、患者さんのインスリン分泌状態にあわせて選択されます。血糖自己測定をしながら1回ずつ注射量を決め、できる限り良好な血糖コントロールをめざす方法を「強化インスリン療法」といいます。

運動療法食事療法と並び2型糖尿病治療の基礎。インスリン抵抗性が改善され血糖コントロールが良くなるほか、減量や血圧低下、ストレス解消など幅広い効果があります。

SGLT2阻害薬SU薬経口薬療法

糖尿病の成因による分類と、インスリン作用不足の程度による分類の関係

・右向きの矢印は糖代謝の悪化、左向きの矢印は糖代謝の改善を表しています。
・破線部分は、その状態になることが少ないことを表しています。
〔日本糖尿病学会:糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告、2010より〕

合併症高血糖状態が続くことで起きてくる病気。視力が低下し失明の危険もある「網膜症」、腎臓の機が低下し人工透析の必要に迫られる「腎症」、手足のしびれや麻痺のほか全身にさまざまな影響が出る「神経障害」の三つが起きやすく、三大合併症と呼ばれています。これ以外にも足の壊疽〈えそ〉、動脈硬化、心臓病、脳卒中など多くの合併症があります。糖尿病治療の目的は、これらの合併症を発症・進行させないことです。

眼底検査網膜症診断のための検査。失明を防ぐため、定期的に眼科を受診し検査を受けるようにしましょう。

基礎分泌インスリン分泌

境界型ブドウ糖負荷試験の判定で、糖尿病型と正常型の中間の段階。糖尿病予備群といえます。いずれ糖尿病になる確率が高く、生活習慣の改善と定期的な検査が必要です。

空腹時血糖値血糖値

グリコアルブミン血糖コントロールの指標のひとつで、検査時点から過去1、2週間の血糖状態を反映します。基準値はだいたい 11〜16% です。

グリコヘモグロビンヘモグロビンA1c

グルカゴン血糖値を上げるホルモンのひとつで、膵臓から分泌されます。低血糖昏睡に陥っている患者さんに、家庭内での応急処置として、グルカゴン注射が行われます。

経口薬療法血糖降下薬を服用して血糖コントロールする治療法。2型糖尿病で、食事療法運動療法だけでは効果が不十分なときに行われます。経口薬には、膵臓のインスリン分泌を刺激する「スルホニル尿素(SU)薬」や、膵臓以外の肝臓や筋肉、脂肪などに作用して血糖値を下げる「ビグアナイド(BG)薬」、食べ物に含まれている糖分の消化吸収を遅らせて食後過血糖を抑える「α- グルコシダーゼ阻害薬」、細胞レベルでインスリン抵抗性を改善する「チアゾリジン薬」、短時間だけインスリン分泌を刺激する「速効型インスリン分泌促進薬」、インクレチンの作用を助ける「DPP-4阻害薬」、尿への糖の排泄(尿糖)を増やして血糖値を下げる「SGLT2阻害薬」といった種類があります。

血糖コントロール食事療法運動療法薬物療法により、血糖値をできるだけ正常に近い状態を保つこと。より良い血糖コントロールを続けるほど、合併症の危険は減少します。

血糖自己測定患者さん本人が血糖値を測定すること。より良い血糖コントロールに役立ちます。手軽に測定できる機械が数種発売されています。

血糖値血液中のブドウ糖(血糖)濃度。血液1デシリットルあたりのブドウ糖の量をミリグラムでします。血糖値が正常レベルよりも高いことを高血糖といい、高血糖が続く病気が糖尿病です。健康な人の空腹時血糖値は110mg/dL未満、食後も140mg/dLを超えることはありません。

ケトアシドーシスケトン体が増え過ぎると吐き気や腹痛などの症状が現れますが(ケトーシス)、さらに多くなると、血液が酸性化するケトアシドーシスという状態になります。意識障害から昏睡に至り、早急な治療が必要です。インスリン療法をしている人が、なんらかの理由で注射をしなかったときに起こりがちです。

ケトン体インスリン作用が不足し身体がブドウ糖を利用しにくい状態で、かわりに脂肪やたんぱく質がエネルギー源として使われたときに発生する物質。ケトン体は血液や体液に溜まり、血液検査や尿検査で検出されます。

高インスリン血症インスリン抵抗性による高血糖を抑えるため、インスリンが過剰に分泌されている状態。この状態では、インスリン抵抗性をインスリンの量でカバーしているため、血糖値はそれほど高くなく、糖尿病と診断されないことも少なくありません。しかし、そのような状態でも、高血圧や動脈硬化などが進行してしまいます。

高血糖血糖値


三次予防合併症が起きてしまっても、適切な治療でそれ以上病気を進行させないようにすること。

GLP-1インクレチン

指示エネルギー(カロリー)量主治医から指示される1日の摂取カロリー。その人の身長や体重、身体活動状況、年齢などを総合的に判断して決められます。

指示たんぱく質量腎症が発症すると、その進行段階にあわせてたんぱく質摂取を制限する必要があります。1日にどのくらいたんぱく質を摂ってよいか、主治医に指示される量を指示たんぱく質量といいます。

シックデイ糖尿病の人がかぜなどの軽い病気にかかったときのこと。血糖値が乱れやすいので、慎重に対処する必要があります。

死の四重奏肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)は併発することが多く、それらが互いに悪影響を及ぼしあって動脈硬化を加速度的に進行させ、心臓病や脳卒中を起こすという考え方。

小児・若年者糖尿病一般には、成人よりも小児・若年者に発病することが多い1型糖尿病のことを指します。身体の成長にあわせて食事やインスリン注射量を調節する必要があり、心理的問題も多いことなどから、よりきめ細かな管理が必要です。なお、小児・若年期発病でも2型糖尿病の場合もあります。

食後過血糖食事後に起きる異常に高い血糖の上昇。インスリン基礎分泌はある程度保たれていて、空腹時血糖値は正常に近いとしても、追加分泌が不足していたり、血糖値上昇に対する反応が鈍くてインスリン分泌のタイミングが遅れると、食後過血糖になます。

食事療法糖尿病治療の基礎。指示エネルギー量の中で、必要な栄養素を過不足なく摂るのがポイントです。糖尿病でない人の健康食としてもすすめられます。

食品交換「糖尿病食事療法のための食品交換」のこと。正しい食事療法を簡単に進められるよう工夫されたテキストです。マスターすれば、バリエーションに富んだ献立を手軽に楽しめます。

神経障害腎症合併症

膵島ランゲルハンス島

スルホニル尿素(SU)薬経口薬療法


耐糖障害糖尿病と正常との中間で、境界型のもの。糖尿病発病の確率が高いだけでなく、高血圧や脂質異常症(高脂血症)併発の危険も高くなります。糖尿病予備群とほぼ同じ状態です。

単位〈食事療法の単位〉食品交換では80kcal相当の食品を1単位とし、その目安となる重量を示しています。〈運動療法の単位〉80kcalを消費する運動強度・時間を、1単位の運動と現することがあります。〈インスリン療法の単位〉インスリン作用の強弱をす基準で"U"という記号でされます(unitの略)。なお、食事療法の単位とインスリン療法の単位は全く別の意味で互換性はありません。

炭水化物たんぱく質、脂質と並び、三大栄養素のひとつ。エネルギー源として最もよく使われます。糖質ともいい、食べ物ではごはんやパンなどのでんぷん、あるいは果物〈くだもの〉類に多く含まれます。炭水化物は体内で消化吸収されて、最後はブドウ糖や果糖になって利用されます。


低血糖の主な症状

チアゾリジン薬経口薬療法

追加分泌インスリン分泌

低血糖血糖値が正常範囲より低下(約60mg/dL以下)した状態。インスリン製剤や経口薬で薬物療法をしている人で、薬の作用が強く出過ぎたときに起こります。砂糖やブドウ糖などの糖分を口にすることで回復しますが、意識障害や昏睡に陥っている場合、周囲の人の速やかな対処が必要です。植物人間になる危険もあります。

DPP-4阻害薬インクレチン

糖代謝摂取した炭水化物は消化吸収されブドウ糖となり、肝臓でグリコーゲンに変換して一旦貯蓄されます。身体活動でエネルギーを消費すると、肝臓はグリコーゲンを分解して再びブドウ糖を作り出し血液中に供給し、これがインスリンの作用を借りて細胞に取り込まれ、エネルギー源となります。こような体内での糖の変化の過程・サイクルを糖代謝といいます。

糖毒性高血糖自体が、インスリン分泌を低下させインスリン抵抗性を高めるなど悪循環を形成し、さらに血糖値を上げるように作用すること。


内臓脂肪型肥満肥満は体脂肪が過剰に蓄積した状態のことですが、脂肪のつき方により、皮下脂肪型(洋ナシ型)肥満と内臓脂肪型(リンゴ型)肥満に分けられます。糖尿病や高血圧、脂質異常症(高脂血症)などの生活習慣病とより深く関係しているのは内臓脂肪型肥満です。このタイプの肥満は、外見からはそれほど太っているように見えないこともあり、注意が必要です。

2型糖尿病遺伝的な体質に過食や運動不足、ストレスなどの、身体に負担となる生活習慣が加わり発病するタイプの糖尿病。日本人の糖尿病のほとんどを占めます。

二次予防糖尿病があってもそれを管理し、合併症を起こさないようにすること。二次予防の成否は、より良い血糖コントロールを続けられるかどうかで決まります。

尿糖尿の中のブドウ糖のこと。健康ならふつう尿糖は出ませんが、高血糖状態では血液中にあふれているブドウ糖が、尿の中に排泄されます。通常、血糖値が 170mg/dL前後を超えると尿糖が現れ、それ以下では現れません。このため厳格な血糖コントロールの指標にはなりませんが、試験紙で手軽わかります。

妊娠糖尿病糖尿病でない人に妊娠中現れる、軽い糖代謝異常。妊娠中は適切な管理が必要です。出産後に糖代謝は正常に戻りますが、将来糖尿病になりやすい傾向があります。


ビグアナイド薬経口薬療法

ブドウ糖糖分の一種。グルコースともいいます。主に炭水化物の食品を消化吸収することで作り出され、血液中にほぼ一定量存在しています。ブドウ糖はインスリンの作用を借りて細胞に取り込まれ、身体活動のエネルギー源として利用されます。

ブドウ糖負荷試験糖尿病を診断するための検査。75gのブドウ糖を飲み、その後の血糖値の変動から、正常型、境界型、糖尿病型の三つに診断されます。

75gブドウ糖負荷試験による判定

・空腹時の血糖値が126mg/dL以上なら、ブドウ糖を飲まなくても糖尿病型です

・2時間値が200mg/dL以上なら糖尿病型です

・空腹時110mg/dL以上126mg/dL未満、2時間値140mg/dL以上200mg/dL未満なら境界型です


・空腹時110mg/dL未満、2時間値140mg/dL未満なら正常型です


分食1日3食では食前と食後の血糖値の変化が大き過ぎる場合に、指示エネルギー量を4回以上に配分し食間に摂る軽い食事のこと。食事療法の方法のひとつで、一般的な意味の間食とは異なります。

β細胞ランゲルハンス島にあるインスリンを分泌する細胞。β細胞の機低下でインスリンの分泌量が減ると、糖尿病が発病します。1型糖尿病ではほとんど機しなくなりますが、2型糖尿病ではある程度インスリン分泌力が残っていて、早めにインスリン療法を始めβ細胞を助けてあげると、働きが回復することがあります。

ヘモグロビンA1c血糖コントロールの良否をす指標。赤血球中のヘモグロビンのうち、ブドウ糖と結合しているヘモグロビンの占める割合をパーセントで表します。検査時点から過去1、2カ月間の血糖状態を反映します。基準値の上限は6.2%です。グリコヘモグロビンともいいます。

補食薬物療法をしている人が低血糖予防目的で口にする食べ物のことをいいます。消化吸収が遅い炭水化物の食品が適しています。

ボディー・マス・インデックス肥満ややせの程度をす指標。体重(kg)÷身長(m)2 で計算され、計算結果が22になるのが、最も病気になる確率が低い理想体重で、25以上は肥満、18.5未満はやせと判定されます。


網膜症合併症

薬物療法インクレチンインスリン療法経口薬療法

ランゲルハンス島膵臓内にあって、インスリングルカゴンなどのホルモンを分泌する細胞が集まっているところ。ラ氏島あるいは膵島ともいいます。地図上にの島のように分散して存在しているためにメ島モとつけられています。ランゲルハンスは19世紀のドイツの医学者です。

欧文略語
BMIボディー・マス・インデックス(Body Mass Index)
CDE糖尿病療養指導士 (Certified Diabetes Educator)
CKD慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease)
CSII持続皮下インスリン注入療法 (Continuous Subcutaneous Insulin Infusion
eGFR推算糸球体ろ過量(estimated Glomerular Filtration Rate)
FBS空腹時血糖値 (Fasting Blood Sugar)
FPG空腹時血漿グルコース (Fasting Plasma Glucose)
HbA1cヘモグロビンA1c (Hemoglobin A1c)
IDDMインスリン依存型糖尿病 (Insulin Dependent Diabetes Mellitus)、
     インスリン依存状態あるいは1型糖尿病とほぼ同じ
IGT耐糖障害 (Impaired Glucose Tolerance)
OGTT経口ブドウ糖負荷試験 (Oral Glucose Tolerance Test)
PPG食後血漿グルコース (Postprandial Plasma Glucose)
SMBG血糖自己測定 (Self Monitoring of Blood Glucose)

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