いま、1型糖尿病は/内潟 安子 先生
2025年09月11日
備えあれば憂いなし ー災害とインスリン治療
大雨、ゲリラ豪雨、そして大地震
「線状降水帯」や「ゲリラ豪雨」など、記録的な大雨、豪雨をもたらすこの言葉を最近よく耳にしますね。この夏は、日本の多くの地域で突然激しい雨が降り、山崩れ、道路の冠水や交通障害をおこし、大水害となっています。
大地震はというと、阪神・淡路大震災(1995年、マグニチュード(M)7.3)、新潟県中越地震(2004年、M6.8)、東日本大震災(2011年、M9.0)から13年を経て、2024年1月に発災した能登半島大地震(M7.6)は記憶に新しいところですが、世界ではM7やM8の大地震が今年になってもう3つも発生しています。M7.1のチベット自治区地震が1月7日、M7.7のミャンマー地震が3月28日、そしてM8.8のカムチャッカ半島地震は7月30日に発生しました。後者による津波が日本にも押し寄せて、高いところに避難した方もおられるでしょう。
何があってもインスリンは必須アイテム
1型糖尿病の皆さんのインスリン治療は、ペン型デバイスを用いた頻回のインスリン注射法とともに、最近は電池で動くインスリンポンプやCGM(持続血糖測定器)を使用して血糖管理する方が多くなりました。
大災害がおきると、急いで自宅や現場を離れて避難所などに避難するとか、早めの退社をと言われたが交通機関がマヒしてしまって自宅にもたどり着けない状況がおこりえます。誰もがパニックになってしまいます。
自宅から避難所に行くことになっても、「お薬手帳、保険証は持ったか?」、「インスリンペンは何本持参するか?」、「注射針は?」、「サイフ、カードはどうする?」とバタバタしてあせってしまいます。
インスリンポンプやCGMで血糖管理している場合は、電池やチューブなどのグッズは必須アイテム。なのにもかかわらずそれらを持参するのを忘れたり、持参したけど足りないということはやはりおこりえます。
いつもインスリンペンを使っている方は予備のインスリンペンをかばんに入れていますね。予備を持っていれば、当面のインスリン治療はOKでしょう。職場や学校に、予備としてインスリンペンを注射針と一緒にタオルやTシャツでグルグル厚巻きにして日付をメモしてロッカーに入れておくのも一案(入れっぱなしではなく定期的に交換して使用しましょうね)。
インスリンポンプを使用している方は電池やチューブなどのグッズがない、わずかな本数しか持っていない場合は、パニックになってしまいます。また、ポンプのトラブルが発生すれば、さらにパニックになってしまいます。ぜひ、インスリンペンを、日々、常時、持参していただきたい。
インスリンペンを常時持参して「備える」
インスリンポンプの方は、インスリンペンを災害時だけではなく、常時、持参しましょう。そして、インスリンペンを用いて頻回注射する時の単位数をおおよそ決めておきます。普段の外来診察の際、主治医の先生とインスリンペンで頻回注射なら何単位ずつ注射するといいか、前もって相談しておくといいですね。
何があってもインスリン治療の継続
「大災害なんてそうそう遭わないものだ」、「そんなに心配することはないよ」と思わないでください。昨今のゲリラ豪雨は全国どこでも発生する可能性があると言っても過言ではないこの夏です。
JADEC(日本糖尿病協会)のウェブサイト
この機会に災害時の糖尿病治療について、ちょっと勉強してみませんか。
信頼できる情報がまとめられたウェブサイトを紹介します。
糖尿病とともに生きる人の災害への備え(JADEC)
災害への備えや避難時に役立つ情報、ツールがまとめられています。
また、JADECでは、災害時にインスリン製剤をもって避難できなかった場合に、位置情報をLINEで送ることによって、インスリン製剤の入手が可能な薬局などの情報が入手できるサービスを提供しています。日々インスリン治療を行う方は、災害への備えとしてぜひご登録ください。
インスリン注射が必須の方用LINE登録システム(JADEC)
他にも、日本糖尿病学会と協同してJADECはDiaMATという災害時糖尿病医療支援チームを立ち上げています。1年前の能登半島地震の際には、DMAT(厚生労働省の委託事業として活動する「災害医療派遣チーム」)やJMAT(日本医師会が編成する災害医療支援チーム)などと連携し、被災地の糖尿病患者さんのために素晴らしい活動をされました。
こうした支援体制があることも心に留めながら、まずはご自身でできる「備え」から、今、始めていきましょう。
プロフィール
内潟 安子
YASUKO UCHIGATA
1977年金沢大学医学部卒業
金沢大学医学部大学院卒業
富山医科薬科大学医学部 第1生化学に国内留学
米国国立衛生研究所(NIDR)に海外留学
東京女子医科大学 内科学第三講座主任教授 糖尿病センター長、
東京女子医科大学東医療センター 病院長、
東京女子医科大学附属足立医療センター 病院長を歴任
※ヘモグロビンA1c(HbA1c)等の表記は記事の公開時期の値を表示しています。
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